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ホームセンター店員、過労死して異世界へ。聖剣もフォークリフトも俺にはただの「道具」ですが?【ウェポンズマスター】のDIY無双  作者: 月神世一


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EP 5

銀玉の錬金術

 公園での「サラダバー」と「炊き出し」で腹五分目まで満たされた二人は、ネオンがギラつく一軒の建物の前に立っていた。

 『娯楽の殿堂 パーラー・タロー』。

 ドアが開くたびに、ジャラジャラという金属音と、脳を揺さぶるような電子音が漏れ出してくる。

「ここは……カジノ?」

 ルルシアがおずおずと尋ねる。

「いいえ、ここは『戦場シノギ』です」

 リーザは真剣な眼差しで言った。

 彼女の目は、獲物を狙う狩人のそれだった。

「新人ちゃん。炊き出しだけでは、明日の食費は稼げません。ここで『種銭』を増やし、景品の食料をゲットするのです!」

「で、でも……私、お金持ってませんよ?」

「甘い! 元手ゼロから富(無限)を生み出す、それが錬金術です!」

 リーザはルルシアの手を引き、タバコの煙と騒音に満ちた店内へと足を踏み入れた。

 ***

 店内は、死んだ魚のような目をした大人たちで溢れかえっていた。

 彼らはハンドルを握り、銀色の玉が穴に吸い込まれていくのをただ見つめている。

「いいですか、私たちの狙いは『台』ではありません。『床』です」

 リーザが小声で囁く。

「熱くなりすぎた客は、手元がおろそかになり、玉をこぼします。あるいは、台の裏側に落ちた玉を回収し忘れるのです。……それを見つけるのです!」

 リーザが実演して見せた。

 彼女は素早くしゃがみ込み、台と台の間の狭い隙間に手を差し伸べた。

 ガサゴソ……。

 数秒後、彼女の指先には一発の銀色のパチンコ玉が摘ままれていた。

「見ましたか? これが『銀玉』。一発四円の価値がある、小さな宝石です」

「よ、四円……?」

「馬鹿にしてはいけません! ちりも積もれば山となる! さあ、貴女もハイエナのように這いつくばるのです!」

 ルルシアは戦慄した。

 (伯爵令嬢である私が……ドレスを着て、床を這えというの!?)

 だが、コピーされたスキル『貧乏サバイバル術』が、脳内で警告音を鳴らした。

 【警告:プライドで腹は膨れない。床の銀玉は、明日のパンだ】

 「……くっ!」

 ルルシアの膝が折れた。

 彼女はフリルのついたスカートを汚しながら、床に四つん這いになった。

 仮面の奥の瞳が、床のゴミやホコリの中から、キラリと光る球体を探し出す。

 あった。

 椅子の下、タバコの吸い殻の隣に。

 ルルシアは店員の目を盗み、電光石火の速さでそれを拾い上げた。

 冷たくて硬い、銀の玉。

 (拾った……拾ってしまったわ……!)

 屈辱と、奇妙な達成感。

 彼女は無心で床を這い回った。

 隣の台の下、通路の隅、自動販売機の下。

 ゴスロリ服の少女が地べたを這う姿は異様だったが、この店の客は自分の台に夢中で誰も気に留めない。

 数十分後。

 二人の手には、合わせて三十発ほどの銀玉が集まっていた。

「上出来です、新人ちゃん! さあ、この虎の子を増やしに行きますよ!」

 リーザはルルシアを一台の空き台へと座らせた。

 機種は『新台 暴れん坊タロー将軍』。

「狙うは大当たり(ジャックポット)。当たれば、景品カウンターのチョコレートやスナック菓子が取り放題です!」

「わ、わかったわ……!」

 ルルシアは震える手で、拾い集めた玉を皿に入れた。

 ハンドルを回す。

 パラパラパラ……。

 銀玉が盤面を跳ね、釘の間をすり抜けていく。

 (入れ……! 入って……!)

 ルルシアは祈った。

 世界征服の野望よりも、ナンバーズの任務よりも、今はただ「スタートチャッカー」に玉が入ることを切望していた。

 だが、現実は非情だ。

 三十発の玉は、わずか一分足らずで全て中央のハズレへと吸い込まれ、消滅した。

 シーン……。

 手元には空っぽの皿。

 残ったのは、店内の喧騒と、虚無感だけ。

「あ……あれ? 私の……私の汗と涙の結晶が……」

 ルルシアが呆然と呟く。

 リーザが「あちゃー」と肩をすくめた。

「残念、ハズレですねぇ。ま、ギャンブルなんてこんなもんですよ。また拾えばいいんです」

 また、拾えばいい。

 その言葉が、ルルシアの中で何かのスイッチを弾き飛ばした。

 プツンッ。

 ルルシアは立ち上がった。

 仮面の下から、大粒の涙が溢れ出し、頬を伝って落ちる。

「……嫌」

「え?」

「もう嫌だああああああああッ!!!」

 ルルシアの絶叫が、店内の電子音を切り裂いた。

「私はっ! 私は伯爵家の令嬢なのよぉぉッ! ナンバーズの幹部なのよぉぉッ! なんで床を這いつくばって、こんな鉄クズ拾わなきゃいけないのよぉぉぉッ!!」

 彼女は泣きじゃくりながら、空の皿をひっくり返した。

「こんな生活……耐えられない! お家に帰るぅぅぅ!!」

 ルルシアは脱兎のごとく店を飛び出した。

 コピーした『貧乏サバイバル術』の洗脳が、あまりの惨めさというショック療法で解けたのだ。

 自動ドアの向こうへ消えていくゴスロリ少女の背中を見送りながら、リーザはポケットから、いつの間にか交換していた飴玉を取り出して口に入れた。

「あらら……逃げちゃいましたねぇ」

 リーザはポリポリと飴を噛み砕き、ため息をついた。

「最近の若い子は根性がないですねぇ。……さて、私はもう少し拾ってから帰りますか」

 彼女は再び、ハイエナの目で床を捜索し始めた。

 こうして、ルルシアの短い「貧乏修行」は、トラウマと共に幕を閉じたのだった。

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