EP 4
神剣一閃
静寂が支配する地下空洞。
俺が天羽々斬を鞘に収め、低く身を沈めると、デュラハンは兜の奥から嘲笑の気配を漏らした。
『抜き打ちカ……笑止』
重装甲の騎士に対し、一撃必殺の居合など通じぬとでも思ったか。
デュラハンはあえて俺の挑発に乗るように、自身の大剣を背中の鞘へと戻し、同じく居合の構えをとった。
武人としてのプライドか、あるいは圧倒的な防御力への過信か。
「……いい度胸だ」
俺とデュラハンは、ジリジリと距離を縮める。
砂利を踏む音さえ消えた、極限の集中状態。
間合いは、あと一歩。
『――いざ!』
デュラハンが動いた。
巨体からは想像もできない速度で大剣を抜き放つ。
大気を裂く轟音と共に、死の刃が俺の頭上から迫る。
だが、俺の目には止まって見えた。
【ウェポンズマスター】が導き出した、装甲の継ぎ目。0.1ミリの隙間を通る、唯一の切断線。
「俺流……居合……『閃光』!!」
俺は電光石火の踏み込みをした。
地面が爆ぜる。
加速した俺の体は、デュラハンの動体視力を置き去りにした。
『き、消エ……!?』
デュラハンの剣が空を切る。
その懐に、俺は既に潜り込んでいた。
神速の抜刀斬り。
天羽々斬が鞘走り、銀色の軌跡を描く。
手応えは……軽い。
豆腐を切ったかのように、何の抵抗もなく刃が抜け切った。
ザンッ――!!
俺はデュラハンの背後へと抜け、残身をとった。
数秒の静寂。
俺はゆっくりと血振るいし、刀を鞘へと戻す。
チンッ!
鍔が鳴る澄んだ音が、決着の合図だった。
『……バ、馬鹿ナ……我ガ鎧ヲ……』
デュラハンが立ち尽くしたまま、声を震わせる。
その胴体には、右肩から左脇腹にかけて、一筋の細い線が走っていた。
『キ、貴様ハ……モシヤ、勇者カ?』
伝説の聖剣を持った選ばれし者。
そうでなければ、この鉄壁を破れるはずがない。
そう問う亡霊騎士に、俺は背を向けたまま答えた。
「ただの社畜さ」
次の瞬間。
ズズズッ……ドサァァァァッ!!
デュラハンの巨体が、鎧ごと綺麗に真っ二つに割れ、左右に崩れ落ちた。
切断面は鏡のように滑らかだった。
「す、すげぇ……!」
「か、硬い鎧ごと一刀両断……竜さん、人間卒業してませんか?」
イグニスとキャルルが駆け寄ってくる。
デュラハンの体は黒い煙となって消滅し、あとには巨大な魔石と、ドロップアイテムが残された。
俺はアイテムを拾い上げ、首をかしげた。
「……なんだこれ? 木箱か?」
それは、冷気を放つ古びた木箱だった。
蓋を開けてみると、中には氷漬けになった魚介類がぎっしりと詰まっていた。
カニ、エビ、ホタテ、巨大なタラの切り身。
「こいつは……『北海産の高級魚介セット(冷凍)』!?」
どうやらこの鉱山、かつては海産物の冷蔵貯蔵庫としても使われていたらしい。
デュラハンの冷気と魔力によって、数百年もの間、鮮度が保たれていたのだ(ということにしよう)。
「うひょー! 飯だ! 魚だ!」
「カニです! 竜さん、カニがあります!」
俺はニヤリと笑った。
名刀の切れ味も確認できたし、今夜の食材も確保できた。
これ以上の成果はない。
「よし、撤収だ。……帰って鍋にするぞ」
「「おーっ!!」」
俺たちはホクホク顔で、冷たい風が吹く鉱山を後にした。
だが、俺たちはまだ知らなかった。
家に帰った俺たちを待ち受けているのが、極寒のシェアハウスと、人類を堕落させる『魔の暖房器具』であることを。




