EP 2
亡霊鉱山
翌日。
俺たちは冒険者ギルドへ足を運んだ。
腰に差した『天羽々斬』の重みが心地よい。バスターソードは今回、背中に待機状態だ。
掲示板の前で依頼書を物色していると、受付嬢が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「あっ! Dランクパーティーの『職人』さん! ちょうどよかった!」
「何かありましたか?」
「緊急の討伐依頼が入ったんです! 北の古びた鉱山で、アンデッドが大量発生して……!」
話によれば、かつて落盤事故で放棄された『グレイブ鉱山』が、魔力の吹き溜まりとなりダンジョン化。
内部からスケルトンやゾンビが溢れ出し、街道を脅かしているらしい。
「アンデッドか。……骨ならカルシウムの補給にはなりませんが、試し斬りには丁度いい」
「えっ? 骨を……斬るんですか?」
「ええ。引き受けましょう」
俺は依頼書をむしり取った。
アンデッド系の討伐は、聖水や僧侶の魔法がセオリーだが、あいにくうちのパーティーは物理特化だ。
だが、問題はない。
***
グレイブ鉱山の入り口は、不気味な冷気と腐臭を漂わせていた。
暗い坑道の中から、カタカタカタ……という乾いた音が響いてくる。
「兄貴、出たぜ! 骨っころの歓迎会だ!」
暗闇から現れたのは、錆びた剣やつるはしを持ったスケルトンの大群。
その数、三十体以上。
虚ろな眼窩に赤い光を灯し、こちらへ殺到してくる。
「チッ! 数だけは一丁前だな! キャルル! 行くぞ!」
「うん! 露払いはお任せを!」
イグニスとキャルルが同時に飛び出した。
「月影流……乱れ鐘打ち(みだれかねうち)!!」
キャルルが跳躍し、空中で独楽のように回転する。
足に青白い【闘気】を纏わせた連続回し蹴り。
ガシャーン! バキバキッ!
蹴りがヒットするたびに、スケルトンの頭蓋骨が粉砕され、肋骨が弾け飛ぶ。
硬い骨も、強化された安全靴と彼女の脚力の前には脆い枯れ木と同じだ。
「負けるかよ! 俺様も回るぜぇ! 斧旋風!」
イグニスは両手斧を水平に構え、自らを回転鋸のようにして突っ込んだ。
遠心力と重量の乗った一撃が、スケルトンたちを次々と「粉末」に変えていく。
「オラオラオラァ! 骨粉にして畑に撒いてやるよぉ!」
圧倒的だ。
俺は後方でタバコを吹かしながら、戦況を見守っていた。
前衛二人の殲滅力は頼もしい限りだ。
「よし、順調だな。……だが、ここからが本番だぞ」
俺が呟いた時だった。
坑道の奥から、ヒュオオオオ……という冷たい風が吹き抜けた。
スケルトンたちが倒された残骸の上を、半透明の白い影が滑るように近づいてくる。
足がない。顔がない。
ただ、ボロボロのローブを纏った「霧」のような存在。
「あ、兄貴! 幽霊だ!」
イグニスが斧を振るうが、刃はレイスの体をすり抜け、空を切った。
「物理無効だ! 手応えがねぇ!」
「ひぃっ! ゆ、幽霊は怖いですぅ! 蹴っても足が抜けちゃいます!」
キャルルが涙目で後ずさる。
物理攻撃無効。
実体を持たない霊体モンスター。
これこそが、このダンジョンが厄介とされる理由であり、俺がここを選んだ理由でもある。
レイスが鎌のような腕を振り上げ、キャルルに襲いかかろうとする。
「キャルル、下がれ」
俺は静かに前に出た。
左手を腰の『天羽々斬』の鞘に添える。
「り、竜さん! 剣じゃ斬れませんよ! 魔法じゃないと!」
「いや。……こいつなら斬れる」
俺は腰を落とし、居合の構えをとった。
【ウェポンズマスター】が、天羽々斬と俺の神経を接続する。
この刀は、ただの鉄ではない。
数百年もの間、主の死を見届け、戦場を生き抜いてきた「怨念」にも似た強い「意思」を宿している。
霊体(あっち側)に近い存在なのだ。
「任せろ。……天羽々斬の試し斬りだ」
俺は深く息を吸い込み、止めた。
レイスが俺の目の前まで迫る。
その冷気が肌を刺す距離で――
「斬」
鯉口を切る音すらさせず、神速の抜刀。
銀色の閃光が、暗い坑道を一瞬だけ切り裂いた。




