表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホームセンター店員、過労死して異世界へ。聖剣もフォークリフトも俺にはただの「道具」ですが?【ウェポンズマスター】のDIY無双  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/77

第四章 天羽々斬とコタツのチキチキレース

錆びついた掘り出し物

 シェアハウスの騒動から数日後。

 俺は一人、下町の裏通りにある古道具屋街を歩いていた。

 懐には、詐欺作戦……もとい、高度な経済活動で得た金貨50枚が入っている。

 リーザのように食費で浪費するつもりはない。

 俺がここに来た目的はただ一つ。『設備投資』だ。

「……バスターソードは強力だが、小回りが利かないのが欠点だ」

 俺は歩きながら自己分析を行う。

 『廃材断ち(スクラップ・バスター)』は対大型魔獣・対重装甲には最強だ。

 『複合弓コンパウンドボウ』で遠距離もカバーできるようになった。

 だが、狭い屋内戦や、素早い人型エネミーとの近接戦闘(CQC)において、あの巨大な鉄塊は取り回しが悪すぎる。

 サブウェポンとして、鋭く、速く、かつ信頼性の高い「刃物」が必要だ。

 俺の足が、一軒のボロい店の前で止まった。

 看板には『古物商・ガラクタ堂』とある。

 店先には、錆びた鍋や欠けた皿、正体不明の金属片が無造作に積まれている。

「……匂うな」

 俺の【ウェポンズマスター】の勘が反応した。

 俺は埃っぽい店内へと足を踏み入れた。

 ***

「いらっしゃい。……なんだい兄ちゃん、うちは冷やかしお断りだよ」

 カウンターの奥から、片眼鏡をかけた偏屈そうな老店主が顔を出した。

 俺は無言で会釈し、店内を物色し始めた。

 大半はただのゴミだ。

 魔力を失った杖、刃こぼれした銅の剣、ヒビの入った盾。

 だが、俺の視線は店の隅、埃まみれの樽の中に突き刺さっていた鉄の棒に釘付けになった。

 赤錆で覆われ、鞘も朽ち果て、柄糸もボロボロ。

 誰が見ても、ただのスクラップだ。

 だが、俺には「視える」。

「(……ほう。この時代に、玉鋼たまはがねか?)」

 【解析開始】。

 錆の下に眠る金属の組成。

 何万回も叩き上げられ、折り重ねられた層状構造。

 そして何より、この刀身に宿る、静かで鋭い「殺気」のような意思。

 ――俺を使ってくれ。

 ――俺はまだ、切れる。

 鉄の声が聞こえた気がした。

 俺はその鉄棒を手に取り、店主の元へ持って行った。

「親父さん。これを売ってくれ」

「あん? ……なんだそりゃ。ただの錆びた鉄くずじゃないか」

 店主は興味なさげに鼻を鳴らした。

「ああ、そういや十年くらい前、東方の流れ者が置いていったゴミだ。溶かしても鉄釘一本分にもなりゃしねぇ」

「いくらだ?」

「持ってくなら金貨5枚でいいぞ。処分料みたいなもんだ」

 金貨5枚。日本円で約5万円。

 ただの鉄くずにしては高いが、この「逸品」の価値を考えればタダ同然だ。

 俺は即座に金貨をカウンターに置いた。

「買った。釣りはいらない」

「へっ、物好きな兄ちゃんだな」

 俺は店主の嘲笑を背中で受け流し、その鉄棒を愛おしげに抱えて店を出た。

 店主は知らない。自分が国宝級の業物を、ゴミ同然の値段で手放したことを。

 ***

 シェアハウスに戻った俺は、すぐに裏庭に作業台を設置した。

 これより、『レストア(修復)作業』を開始する。

「兄貴、またゴミ拾ってきたのか?」

 イグニスが不思議そうに覗き込んでくる。

「見ていろ。こいつは化けるぞ」

 俺はまず、朽ちた柄とつばを慎重に外し、刀身だけにした。

 次に、特殊な酸性のスライム液(洗浄剤)をかけ、表面の赤錆を浮き上がらせる。

 ジュワワワ……。

 ボロボロと錆が剥がれ落ちていく。

「ここからが本番だ」

 俺は最高級の砥石を取り出した。

 水をかけ、刀身を当てる。

 シュッ、シュッ、シュッ、シュッ……。

 一定のリズム。一定の角度。一定の圧力。

 【ウェポンズマスター】が、ミクロン単位の精度で俺の手元を制御する。

 荒研ぎで形を整え、中研ぎで傷を消し、仕上げ研ぎで刃をつける。

 数時間の集中。

 俺の額から汗が滴り落ちる。

 だが、その手は止まらない。錆びついた鉄の皮が一枚ずつ剥がされ、その下に眠っていた「真の姿」が露わになっていく。

「……仕上げだ」

 最後に、打粉を打ち、鹿革で磨き上げる。

 キィィィィィン……。

 刀身が微かに共鳴音を立てた。

 夕日が差し込む裏庭で、俺の手の中にある「それ」が、冷たく、妖艶な輝きを放った。

「うおっ……! なんだそれ、光ってやがる……!」

 イグニスが息を呑む。

 そこにあったのは、もはや錆びた鉄くずではない。

 刀身二尺三寸。

 濡れたような光沢を放つ地鉄。

 そして、波打つように白く輝く、美しい『刃文はもん』。

 俺は新しく削り出したつかを取り付け、静かに構えた。

 重さを感じない。まるで腕が延長されたかのような一体感。

 ヒュッ。

 軽く振るう。

 風を切る音すらしない。

 空中に舞っていた一枚の枯れ葉が、触れてもいないのに真っ二つに分かれて落ちた。

「真空の刃……か」

 俺は刀身を見つめ、満足げに頷いた。

 業物だ。それも、数百年前に名のある刀匠が魂を削って打った、大業物。

 前の持ち主が使い潰し、歴史の闇に埋もれかけていた名刀。

「よく戻ってきたな」

 俺は刀に語りかけ、新たな名を与えることにした。

 蛇(魔物)を殺し、天をも断つ刃。

「今日からお前の名は――『天羽々アメノハバキリ』だ」

 俺が名を告げると、刀が一瞬、青白く脈動したように見えた。

 契約成立だ。

「さて、と」

 俺は『天羽々斬』を腰に差した。

 バスターソードと、コンパウンドボウ。そして最強の近接武器である日本刀。

 俺の装備ツールセットは、これで完成した。

「イグニス、明日はギルドに行くぞ。……試し斬りがしたい」

「へへっ、兄貴の悪い顔が出てきたぜ!」

 俺の手が、微かに震えていた。

 恐怖ではない。職人として、最高の道具を手に入れた武者震いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ