EP 7
偽造の錬金術
シェアハウスのリビングにあるダイニングテーブルが、さながら作戦会議室と化した。
中央にはリベラが提供した街の地図と、ターゲットとなる人物の資料が広げられている。
俺は赤マルの煙を燻らせながら、集まったメンバーを見渡した。
借金まみれのアイドル、天然王族エルフ、脳筋竜人、音速ウサギ、そして悪徳弁護士(味方)。
最高の犯罪チームだ。
「いいか、今回の作戦名は『コンデ・フィン・スマン(信用詐欺)』だ」
俺は低い声で宣言した。
「目的は二つ。一つ、リーザの借金および家賃の完済。二つ、街の浄化(害虫駆除)だ」
「害虫駆除! それは得意だぜ兄貴! 誰を燃やせばいい?」
「物理的に燃やすんじゃない、イグニス。社会的に焼くんだ」
俺は資料の一枚を指差した。
そこに描かれているのは、脂ぎった禿頭に、成金趣味の指輪をジャラジャラとつけた男の肖像画。
「ターゲットは『ゴルド商会』。表向きは貿易商だが、裏では高利貸しと、強引な地上げを行っているクズだ」
「ああ、知っていますわ」
リベラが眼鏡を光らせて頷く。
「私のクライアントも何人も泣かされています。法スレスレの契約書で土地を奪い取る、ハイエナのような連中ですわ」
「今回は、そのハイエナから金を毟り取る」
俺は作戦の概要を説明し始めた。
まず、ルナの能力で作った『偽造金塊』を用意する。
これは三日でただの石に戻るが、それまでは鑑定魔法すら欺く完璧な輝きを持つ。
「ステップ1。この偽金塊を質屋に入れ、現金を借りる」
「えっ? 直接ゴルド商会に売らないんですか?」
リーザがおずおずと尋ねる。
「ダメだ。直接売れば、三日後に石に戻った時点で足がつく。俺たちが詐欺罪で追われることになる」
俺はニヤリと笑った。
「質屋から借りた『本物の現金』を使って、誰も欲しがらない『二束三文の土地の権利書』を買うんだ」
「土地……ですか?」
「ああ。そして、その土地に『温泉が出る』とか『レアメタルが埋まってる』という噂を流し、価値を吊り上げる。それをゴルド商会に売りつけるんだ」
俺はホワイトボード(に見立てた紙)に図を書いた。
* 資金調達: 偽金塊 → 質屋 → 現金(金貨1000枚)。
* 投資: 現金 → 荒地の権利書購入。
* 情報操作: 噂を流してゴルド商会を食いつかせる。
* 転売: 権利書 → ゴルド商会へ高値(金貨1500枚など)で売却。
* 撤収: 売却益から質屋に借金(金貨1000枚+利子)を返済 → 偽金塊を回収 → 証拠隠滅。
「最終的に手元に残るのは、土地の転売益だ。質屋には利子をつけて金を返すから損はさせない。ゴルド商会の手元に残るのは、価値のない荒地だけだ」
完璧な計画だ。
リスクを負うのは、欲に目が眩んで土地を買うゴルド商会のみ。
「す、すごいです……! これなら誰も傷つかない……あ、悪徳商人は傷つきますけど!」
リーザが目を輝かせる。
「よし、配役を決めるぞ」
俺はメンバーを指名していった。
「まず、贋作師はルナ。お前の魔力が鍵だ。最高級の宝石と金塊を作れ」
「はーい! キラキラなのを作りますね~!」
「次に、カモ(ダック)役はリーザ。お前は質屋とゴルド商会に交渉に行く役だ」
「ええっ!? わ、私にそんな大役無理ですぅ! 絶対ボロが出ます!」
「安心しろ。お前の『挙動不審』と『金に困ってる必死さ』は、演技じゃなく素だろ? それが逆にリアリティを生む」
「褒められてる気がしません……」
「そして、サクラ(シリング)役。キャルル、お前だ」
「はいっ! 何でもやります!」
「お前には、とある『高貴な家柄のお嬢様』を演じてもらう。ゴルド商会に『この土地を欲しがっているライバル』がいると思わせ、焦らせる役目だ」
「お嬢様……! 私、ドレス着てみたいです!」
「最後に、その護衛役としてイグニス。黒スーツで威圧しろ」
「おう! 立ってるだけでいいなら楽勝だぜ!」
俺は最後に、自分を指差した。
「俺は演出家だ。裏で噂を流し、舞台を整える」
全員の顔を見渡す。
緊張と、少しの興奮が混ざり合っている。
「期限は、ルナの魔法が解ける『三日後』までだ。それまでに全てを終わらせる」
俺は赤マルを灰皿に押し付けた。
「業務開始だ。……派手に騙してやるぞ」
***
数分後。
ルナの部屋から、まばゆい光が漏れ出した。
「えいっ♪ できました~!」
ルナが持ってきたトレイの上には、目が眩むような財宝が積まれていた。
純金のインゴット、大粒のルビー、サファイアのネックレス。
どれも国宝級の輝きだ。
「すげぇ……これ全部偽物なのか?」
イグニスが恐る恐る触れる。
「はい! 触り心地も重さも本物と一緒です! でも、三日経つと河原の石ころに戻っちゃいます」
俺は【ウェポンズマスター】の解析眼(鑑定スキルに近いもの)で確認した。
……完璧だ。
分子構造まで模倣されている。これを見破れる鑑定士はこの街にはいないだろう。
「上出来だ。これならいける」
俺は財宝を布袋に詰め込み、青ざめるリーザに押し付けた。
「行くぞリーザ。まずは質屋だ。……震えるなよ?」
「む、無理ですぅぅ……足がガクガクしますぅ……」
「それでいい。その『切羽詰まった感』が武器になる」
俺たちはシェアハウスを出発した。
太郎国の裏社会を揺るがす、痛快な詐欺劇の幕開けである。




