EP 5
超電光流星脚
「――行きますッ!!」
キャルルが叫んだ瞬間、彼女の足元が爆発した。
比喩ではない。
俺が『安全靴・改』のソール内部に埋め込んだ『雷竜石』が起動し、圧縮された雷属性の魔力が物理的な推進力へと変換されたのだ。
バチバチバチバチッ!!
紫色の稲妻が、キャルルの細い脚を螺旋状に包み込む。
彼女はさらに、自身の持つ全『闘気』を下半身に集中させた。
クラウチングスタートからの、爆発的な加速。
一歩目で地面のアスファルト(街道の舗装)が粉砕され、二歩目で彼女の姿がブレた。
「速い……ッ!」
イグニスが目を丸くする。
三歩、四歩。
加速は留まるところを知らない。
周囲の景色が後方へ置き去りにされ、風の音が消える。
音すらも、彼女には追いつけない。
「私は……音速を超える!!」
ドンッ!!
空間を突き破るような衝撃波が発生した。
マッハ1への到達。
紫電を纏ったキャルルは、一筋の雷光となってキメラへと肉薄する。
キメラの獅子の目が、驚愕に見開かれた。
だが、その時にはもう、キャルルはキメラの懐に潜り込み――そして、天へと跳躍していた。
キリモミ回転を加えながらの前方宙返り。
遠心力、重力、超音速の運動エネルギー、そして雷の魔力。
その全てを、安全靴の「鋼鉄製先芯」の一点に集約させる。
「これで……終わりですッ!!」
空中で回転するキャルルの踵が、流星のような輝きを放つ。
狙うは、キメラの中央、獅子の顔面。
「でええええい!! 『超電光流星脚』ッ!!」
バリバリバリバリッ!!!
落雷の轟音と共に、光の踵が突き刺さった。
ドガガガアアアアン!!!
閃光が視界を白く染め上げる。
鋼鉄をも貫く俺特製の安全靴と、キャルルの脚力が生み出した破壊力は、Aランク魔獣の耐久値を遥かに凌駕していた。
『GY……!?』
断末魔すら上げる暇はなかった。
獅子の顔面がひしゃげ、眼球が飛び出し、頭蓋骨が粉砕される。
さらに雷撃の熱量が肉を焼き焦がし、炭化させていく。
ズドォォォォン……!
巨体のキメラが、まるで砲弾に撃たれたように後方へ吹き飛んだ。
大木を数本なぎ倒し、地面を削りながら数十メートル転がって、ようやく停止する。
ピクリとも動かない。
黒焦げになった頭部からは、黒い煙が上がっていた。
完全沈黙。
静寂が戻った森に、キャルルがスタッと華麗に着地する。
靴底からパチパチと放電の余韻を響かせ、彼女はVサインを作った。
「討伐完了です!」
俺は樹上からその光景を見届け、弓を下ろした。
「……やりすぎだ。素材(顔の皮)が台無しじゃないか」
口では文句を言いながらも、俺は満足げに笑い、ポケットから赤マルを取り出した。
最高の新兵器実験だった。
***
数時間後。
俺たちは冒険者ギルドへ帰還し、マスターに報告を行った。
「……まさか、本当にキメラを倒してくるとはな」
ギルドマスターは、台車に積まれた黒焦げの死体を見て絶句し、次いで豪快に笑い飛ばした。
「ハッハッハ! 痛快だ! これだけの戦果だ、文句なしの達成だぞ!」
「素材の買取査定、色をつけてくださいね。焦げたのは仕様ですから」
「わかってるよ。……お前ら、今日からCランクに昇格だ。誰も文句は言わん」
こうして、俺たちは多額の報酬と名声を手に入れた。
懐は温まり、パーティーの連携も深まった。
全ては順風満帆――に見えた。
だが、俺たちは忘れていた。
シェアハウスには、まだ「解決していない問題」を抱えた住人がいることを。
帰宅した俺たちを待っていたのは、この世の終わりのような顔をした、貧乏アイドル・リーザの姿だった。




