EP 3
合成獣の咆哮
冒険者ギルドのロビーは、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
負傷した冒険者が担ぎ込まれ、職員たちが治療薬を持って走り回っている。
「道を開けろ! 重傷者だ!」
「ポーションが足りない! 倉庫から在庫を出せ!」
その殺伐とした空気の中、俺たちはギルドマスターの執務室へと通された。
眼帯の老人、ギルドマスターは、広げた地図を睨みながら渋い顔をしていた。
「よく来たな、『職人』。それに火トカゲとウサギもだ」
「緊急招集と聞きましたが。状況は?」
俺が単刀直入に聞くと、マスターは地図の一点を指差した。
街から北へ続く街道沿いの森。
先日のボアウルフ討伐よりもさらに奥のエリアだ。
「『キメラ』が出た」
「……キメラ?」
「獅子、山羊、蛇。三つの生物が混ざり合った合成獣だ。ランクはA相当。……下手な小隊じゃ、餌になるだけの化け物だ」
Aランク。
これまでの相手とは桁が違う。
現場では既に複数のパーティーが壊滅し、街道が封鎖されているらしい。
「被害拡大を防ぐため、腕の立つ奴らをかき集めてる。……お前たち、やれるか?」
マスターの鋭い眼光が俺たちを射抜く。
普通なら尻込みする案件だ。だが、俺は冷静にソロバンを弾いた。
Aランク討伐の報酬は破格。
それに何より、完成したばかりの『新兵器』と『新魔法』の実戦データを取りたい。
「報酬は?」
「金貨二十枚。加えて、キメラの素材の所有権はお前たちにやる」
「交渉成立です」
俺は即答した。
イグニスがニヤリと笑い、拳を鳴らす。
キャルルも「特大ボーナスですね!」と耳をピンと立てた。
***
現場の森に到着すると、そこは既に地獄絵図と化していた。
木々はなぎ倒され、あちこちで火災が発生している。
鼻をつく硫黄の臭いと、獣の腐臭。
「……酷い匂い。鼻が曲がりそう」
キャルルが鼻をつまんで顔をしかめる。
「生存者は?」
「あそこの岩陰に数人! でも、動けないみたい!」
視線の先、開けた場所で数人の冒険者が追い詰められていた。
剣は折れ、盾は溶解し、絶体絶命の状況だ。
そして、その中心に「それ」はいた。
『GRUUUAAAAAA!!』
鼓膜を揺さぶる咆哮。
体長は五メートル超。
筋骨隆々たる獅子の胴体に、鬣を揺らす凶暴なライオンの頭部。
その背中からは、捻じれた角を持つ山羊の頭が生え、邪悪な魔力を漂わせている。
さらに、尻尾は巨大な毒蛇となって鎌首をもたげ、シューシューと舌を出していた。
「へぇ……ありゃまた、趣味の悪いツギハギだな」
イグニスが嫌悪感と闘争心をない交ぜにした表情で言う。
キメラが冒険者たちにトドメを刺そうと、獅子の前足を振り上げた。
一刻の猶予もない。
「総員、戦闘配置!」
俺は背負っていたバスターソード……ではなく、手に持った『複合弓』を構えた。
今回の俺は、前衛じゃない。
戦場全体を見渡し、支配する『管制塔』だ。
「イグニス、前衛でヘイト(敵視)を買え! キャルルは遊撃、負傷者の確保を最優先だ!」
「了解ッ! 派手に暴れてやるぜ!」
「ラジャー! 救助班、行きます!」
二人が飛び出すと同時に、俺は矢をつがえた。
脳内の回路を起動する。
「ターゲット確認。……『害獣駆除』を開始する」
Aランクモンスター、キメラ。
俺たちの新装備お披露目会の相手としては、不足なしだ。




