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ホームセンター店員、過労死して異世界へ。聖剣もフォークリフトも俺にはただの「道具」ですが?【ウェポンズマスター】のDIY無双  作者: 月神世一


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20/21

EP 10

シェアハウスの宴

 数々の依頼トラブルを片付けた週末。

 シェアハウス『メゾン・ド・キャロット』のリビングは、かつてない熱気に包まれていた。

 今夜は、臨時収入と平和解決を祝っての、住人総出の大宴会だ。

「よし、仕込み完了だ」

 キッチンに立つ俺は、愛用の包丁(ミスリル製ではないが、スキル補正で切れ味は妖刀級)を置いた。

 カウンターに並ぶのは、俺が腕によりをかけて作った男飯の数々。

 山盛りの『特製唐揚げ』。

 ニンニクと生姜を効かせた醤油ダレに漬け込み、二度揚げでカリッと仕上げた自信作だ。

 その他にも、『豚バラとキャベツの回鍋肉風』、『だし巻き卵』、『無限枝豆』などが所狭しと並んでいる。

「ふふ、素晴らしい手際ですわね。まるで一流ホテルのシェフみたい」

 オーナーのリベラが、高級ワインのボトルを片手にキッチンを覗き込む。

「道具(包丁とフライパン)が良いですから。……それに、ブラック企業時代は自炊で食費を削るのが日課でしたので」

「あら、生活力のある殿方は素敵よ? さ、始めましょうか」

 ***

 リビングのテーブルには、既に腹を空かせた猛獣たちが待機していた。

「兄貴、まだかー! 俺様の胃袋が暴動を起こしてるぞ!」

「いい匂い……! これが本物の『おかず』の匂いなんですね……!」

「竜さーん、私、お腹と背中がくっつきそうですぅ~」

 俺が大皿をドスン、とテーブルに置いた瞬間、ゴングが鳴った。

「乾杯!」

 リベラの音頭と共に、グラスがぶつかり合う。

 俺の手には、キンキンに冷えた缶ビール(『タロー・ドライ』)。

 喉に流し込むと、炭酸の刺激が労働の疲れを洗い流していく。

「うめぇッ!」

 そして、宴が始まった。

「うおおお! なんだこの肉は! 噛んだ瞬間に汁が爆発したぞ!?」

 イグニスが唐揚げを頬張り、目を剥いている。

 「熱っ、ハフハフ、でも美味ぇ!」と叫びながら、次々と口へ放り込む。

「美味しい……! パンの耳じゃない、白いパンに合う……! お肉柔らかい……!」

 リーザは唐揚げを少し齧っては、感動のあまり涙ぐみ、白米(リベラ提供)をかきこんでいる。

「竜さん、これ何ですか? 緑の豆?」

「枝豆だ。皮は食うなよ」

「ん~、塩加減が絶妙ですぅ。……あ、竜さん。私、手が塞がってるので、あーんしてください♡」

「却下だ。自分で食え」

「ぶー。責任取ってくれないんですかぁ~」

 ルナが酔った勢いで絡んでくるのを、キャルルが苦笑しながら引き剥がす。

「もう、ルナちゃん飲みすぎ! 竜さんが困ってるでしょ!」

「キャルルも食えよ。成長期だろ」

「はい! 竜さんのご飯、お店より美味しいです!」

 騒がしい。

 実に騒がしい食卓だ。

 だが、不思議と不快ではなかった。

 前世の俺は、いつも一人だった。

 深夜のコンビニ弁当。パソコンの画面を見ながら、味のしない食事を胃に流し込むだけの日々。

 飲み会といえば、上司の自慢話を聞かされるだけの苦行(残業)だった。

 それが、どうだ。

 種族も、生まれもバラバラな連中が、俺の作った飯を美味いと笑って食っている。

「……ふっ」

 俺は自然と笑みがこぼれるのを止められなかった。

 ビールが、いつもより甘く感じる。

「あら、楽しそうですわね」

 リベラが隣でグラスを傾ける。

「ええ。……悪くないですね、こういうのも」

「ふふ、ここなら貴方を過労死させるような上司はいなくてよ? あるのは、賑やかな隣人と、ちょっとしたトラブルだけ」

「トラブルは勘弁願いたいですが……まあ、退屈はしなさそうです」

 ***

 数時間後。

 宴の跡には、満腹で幸福そうに眠る住人たちの死体(?)が転がっていた。

 イグニスはソファからはみ出して大の字になり、リーザは食べかけのパンを抱いて丸まっている。ルナとキャルルは寄り添って寝息を立てていた。

 リベラだけは、「お肌に悪いですから」と先に自室へ戻っていった。

 俺は一人、静かになったリビングを抜け出し、ベランダへと出た。

 夜風が心地よい。

 見上げれば、異世界特有の『二つの月』――赤い月と青い月が、夜空に浮かんでいる。

 俺はポケットから、相棒の『赤マル』を取り出した。

 カシュッ。

 ライターの火が顔を照らし、小さな赤い光が灯る。

「スーッ…………ふぅ」

 長く、ゆっくりと紫煙を吐き出す。

 煙は夜風に流され、二つの月の方へと昇っていく。

 血尿を出して死んだあの日から、どれくらい経っただろうか。

 気づけば、俺の手には『バスターソード』という重い武器と、それ以上に重くて手のかかる『仲間』たちがいる。

 社畜として死に、職人として蘇った。

 聖剣も勇者の称号もないけれど、俺にはこの「道具」と「技術」がある。

「さて……」

 俺は短くなったタバコを携帯灰皿に押し込んだ。

「明日は何を作るかな」

 より快適な生活スローライフのために。

 そして、この騒がしい居場所を守るために。

 俺のDIY(冒険)は、まだ始まったばかりだ。

 ベランダから戻った俺は、リビングの雑魚寝組に毛布を掛けてやり、自室へと向かった。

 明日は日曜日。

 アラームをかけずに眠れる、最高の夜だ。

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