表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホームセンター店員、過労死して異世界へ。聖剣もフォークリフトも俺にはただの「道具」ですが?【ウェポンズマスター】のDIY無双  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/26

EP 6

福利厚生(スーパー銭湯回)

 冒険者ギルドから徒歩五分。

 大通りから一本入った場所に、その楽園はあった。

 『スーパー銭湯 極楽ごくらくの湯』。

 瓦屋根の和風建築に、巨大な『ゆ』の暖簾。

 煙突からは魔法で沸かされた蒸気が白く立ち上っている。

 太郎国が誇る、異世界文明の最高傑作の一つだ。

「ここが……風呂屋か? 城じゃねぇのか?」

「城よりも偉大な場所だ。行くぞ」

 俺たちは魔石式の券売機でチケットを買い、暖簾をくぐった。

 靴箱の鍵(木札)を抜き取り、番台へ。

「じゃあキャルル、一時間後にロビーで」

「はーい! ゆっくり温まってくださいね!」

 男湯と女湯に分かれる。

 ここからは、男たちの聖域だ。

 脱衣所で服を脱ぐ。

 イグニスは全裸になると、その筋骨隆々な肉体を見せつけるようにポーズをとった。

 周囲の客(人間やドワーフ)が「うおっ、デカい……」「あそこもドラゴ級か……」と引いている。

「よし兄貴! 一番風呂だぁ!」

「待て。まずは『かけ湯』だ。さらに言えば体を洗ってから入れ。マナー違反は即退場だぞ」

 俺はイグニスを洗い場へ連行し、ナイロンタオルとボディソープの使い方を叩き込んだ。

 元社畜として、公共の場でのルール遵守コンプライアンスは絶対だ。

 ***

 身を清めた俺たちは、広大な内湯へと足を踏み入れた。

 湯気の中に広がる、白湯、ジェットバス、電気風呂、そして日替わりの薬湯。

「すっげぇ! 温かい水がこんなに溜まってるぞ! 泳いでいいか!?」

「ダメだ。ここはプールじゃない。……まずは肩まで浸かって、ふぅ、と言うんだ」

 俺たちは広い白湯に浸かった。

 適温の四十二度。

 お湯が全身の毛穴から疲労物質を溶かし出していくようだ。

「……ふぅぅぅぅ……」

「……ほぉぉぉぉ……」

 イグニスも真似をして息を吐く。

 強張っていた筋肉がほぐれていくのがわかる。

「悪くねぇな……。川の水浴びとは全然違うぜ」

「まだだ。ここからが本番だぞ」

 俺は湯船から上がると、部屋の隅にある木の扉を指差した。

 『サウナ』の文字。

「兄貴、あっちの小部屋はなんだ?」

「『整う』ための修行場だ。来い」

 中に入ると、ムワッとした熱気が襲ってきた。

 九十度の高温乾燥室。

 三段あるベンチの最上段に俺は座った。

「なんだ、ただ暑いだけじゃねぇか。俺様は火竜の眷属だぞ? こんな熱さ、ブレスの残り火みたいなもんだ」

 イグニスは余裕しゃくしゃくで俺の横に座った。

 だが、俺は知っている。サウナの熱は、物理的な火の熱とは違う。

 湿度と熱気が、体の芯から水分を絞り出すのだ。

 五分後。

「……なんか、汗が止まんねぇぞ」

 十分後。

「あ、兄貴……息が……心臓がバクバクする……」

「もう少しだ。己との戦いに勝て」

 十二分。限界だ。

 俺たちはサウナ室を飛び出した。

「み、水だ! 水をくれぇ!」

「慌てるな。汗を流してから、あそこへ入れ」

 俺が指差したのは、キンキンに冷えた『水風呂』。

 イグニスは悲鳴を上げながら飛び込んだ。

「冷てぇぇぇッ!? ……あ、でも、気持ちいい……!?」

 火照った体に冷水が染み渡る。血管が収縮し、血液がポンプのように全身を巡る。

 そして最後は、露天風呂スペースにある『寝転び椅子』だ。

 俺たちはタオルを顔にかけて横たわった。

 外気浴。

 冷やされた体が、外気によって徐々に常温に戻っていく。

 その時、脳内で快楽物質が爆発する。

「……あ、あれ? 兄貴……世界が、回ってる……」

「それが『整う』だ。……何も考えるな。ただ宇宙を感じろ」

「宇宙……すげぇ……フワフワするぅ……」

 破壊の化身であるイグニスが、生まれたての赤ん坊のような顔で昇天している。

 俺も深く息を吐き、夜空を見上げた。

 ……最高だ。

 ***

 一方、女湯。

「あら~、キャルルちゃんじゃないですか~」

「あ、キャルルさん! 奇遇ですねぇ!」

 露天風呂でキャルルが出会ったのは、シェアハウスの住人であるルナとリーザだった。

 ルナは長い髪を優雅にまとめ、リーザは「このお湯、持って帰ってスープにできないかな」と呟きながらタオルを絞っている。

「二人とも来てたんですね!」

「ええ、リベラさんが回数券をくれたんです~。キャルルちゃんはお仕事帰り?」

「はい! 今日、すごいことがあったんですよ!」

 キャルルは湯船に浸かりながら、今日の武勇伝を語り始めた。

 統率されたボアウルフの群れ。

 ハイオーク・ジェネラルの出現。

 そして、竜が放った『絶対斬』の威力について。

「本当に凄かったんです! 竜さんの剣が青白く光って、ズドォォン!って! ハイオークが一撃で消し飛んだんですよ!」

「へぇ~、竜さんって見た目は地味ですけど、やる時はやるんですね~」

 ルナがのほほんと相槌を打つ。

 だが、リーザの目の色は違った。

「ハイオーク……ということは、報酬はガッポリ……?」

「はい! 山分けして、すごく貰っちゃいました!」

 リーザの瞳が、チャリーンという音と共に金貨の形になった。

「(強い、稼げる、しかも料理上手……。これは太い客……じゃなくて、頼れるスポンサーの予感!)」

「竜さん、今度ご飯奢ってくれないかなぁ……」

「えっ?」

 女湯では、竜の知らぬ間に彼の評価(主に経済面)が爆上がりしていた。

 ***

 風呂上がり。

 俺たちはロビーの休憩処で合流した。

 俺とイグニスは腰に手を当て、瓶入りの『コーヒー牛乳』を一気に煽る。

 ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ……プハァッ!!

「うめぇぇぇ! なんだこの甘くてほろ苦い飲み物は! 風呂上がりに染みるぜぇ!」

「風呂上がりの作法ルーティンだからな」

 キャルルたち女性陣は『フルーツ牛乳』を飲んでいる。

「ふぅ……生き返りました」

 俺は最後に、ロビーの隅に設置された『魔導マッサージチェア』に身を沈めた。

 コインを入れると、ウィーンという音と共に、背中の揉み玉が動き出す。

「……あ゛ぁ゛……そこ……」

 凝り固まった肩甲骨を、機械の指が的確に捉える。

 極楽。

 まさに店名の通りだ。

 隣ではイグニスがマッサージチェアの強さに悶絶し、キャルルがそれを笑って見ている。

 平和だ。

 数時間前まで命のやり取りをしていたのが嘘のようだ。

(……この瞬間のために、俺は戦ってるんだな)

 俺は目を閉じ、全身の力を抜いた。

 明日は明日の風が吹く。

 だが今は、この安らぎに身を委ねよう。

 俺たちの夜は、まだ始まったばかりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ