EP 5
残業代請求(ギルド報告)
戦闘終了後。
俺たちはすぐに街へ帰ることはしなかった。
なぜなら、現場には大量の「成果物」が転がっていたからだ。
「兄貴、これ全部持って帰るのか? 俺様でも流石に重いぜ……」
「全部だ。素材は金になる。残さず回収するぞ」
俺は周囲の木材と、ハイオークが着ていた鎧の残骸、それに蔦を使って、即席の『大型台車』をDIYした。
車輪には、倒木を輪切りにして中心に穴を開け、脂を塗って回転を良くしたものを使用。
見た目は不格好だが、積載量はトラック並みだ。
そこにボアウルフの毛皮や牙、肉、そしてハイオーク・ジェネラルの巨大な角とモーニングスターを積み上げる。
「よっこらせ、と。……よし、搬出準備完了」
「竜さん、手先が器用すぎます……」
「兄貴、これ人間が引ける重さじゃねぇぞ?」
「お前が引くんだよ、イグニス」
「やっぱ俺様かよぉ!」
文句を言いながらも、イグニスは台車を軽々と引いて歩き出した。
さすがは重機(竜人族)。馬力が違う。
***
夕暮れ時。
俺たちは冒険者ギルドに帰還した。
自動ドアが開き、俺たちがロビーに入った瞬間、賑やかだった空間が水を打ったように静まり返った。
それも当然だ。
先頭には、全長二メートルの鉄塊を担いだ俺。
後ろには、山のような魔物の死体を積んだ台車を引く、巨漢の竜人。
そして、その上で「到着~!」と手を振るウサギ耳の少女。
異様すぎる集団に、冒険者たちの視線が釘付けになる。
「おい、あいつら……生きて戻ったのか?」
「ていうか、なんだあの量は……」
「あれ、ハイオークの角じゃねぇか!? なんでFランクが持ってるんだよ!」
ざわめきの中、俺は一直線に受付カウンターへと向かった。
対応するのは、登録時と同じ眼鏡の受付嬢だ。
彼女は俺たちの姿を見ると、目を見開いて絶句した。
「か、鍵田様……? ご無事だったのですか?」
「ええ。業務完了しました」
俺はイグニスに目配せし、台車から「証拠品」をドサドサとカウンターに下ろさせた。
ボアウルフの討伐証明部位(耳)。三十頭分。
そして、ドスンと重い音を立てて置かれた、ハイオーク・ジェネラルの首と角。
「依頼されたボアウルフの討伐、完了です。それと……」
俺は懐から、羊皮紙の束を取り出した。
帰りの道中で書き上げた『業務報告書』だ。
「これをご確認ください」
「は、はい……えっ? 報告書?」
受付嬢が戸惑いながら紙を受け取る。
そこには、俺の達筆(元社畜スキル)で、事細かに現場の状況が記されていた。
『発生事案:想定外の上位種による群れの統率』
『対応内容:当パーティーによる殲滅および安全確保』
『被害状況:特になし(消耗品の消費あり)』
「こ、これは……ハイオーク・ジェネラル!? Bランク相当の指揮官個体ですよ!? まさか、あなた方が倒したのですか?」
「見ての通りです。現場の仕様が、事前の求人票(クエスト情報)と大きく異なっていました」
俺はカウンターを指先でトントンと叩き、事務的な口調で告げた。
「明らかに契約外の業務が発生しています。よって、規定の報酬に加え、危険手当およびイレギュラー対応費の上乗せを請求します」
「は、はい!?」
受付嬢がパニックになる。
冒険者が「もっと金を出せ」と荒れることはよくあるが、ここまで理路整然と「追加請求」をしてくるFランクは前代未聞なのだろう。
「しょ、少々お待ちください! ギルドマスターに確認してきます!」
彼女が奥へ駆け込んでいく。
数分後。
奥の扉から、一人の初老の男が現れた。
白髪をオールバックにし、片目には眼帯。歴戦の猛者といった雰囲気の爺さんだ。
「お前さんか。新人のくせに、残業代を寄越せと抜かす命知らずは」
「正当な対価を求めているだけです。ギルドマスター」
俺は臆することなく爺さんの目を見返した。
ブラック企業の上司に比べれば、この程度の威圧感は大したことない。
ギルドマスターは、俺の目をじっと見つめ、次にカウンターの上のハイオークの首を見た。
切断面を一瞥する。
熱で溶け、かつ押し潰されたような、異常な切断面。
「……ほう。『焼いて』『叩き潰した』か。しかも一撃で」
「道具が良かったので」
俺が背中のバスターソードを示すと、ギルドマスターはニヤリと笑った。
「面白い。Fランクの仕事じゃねぇな」
「ええ。ですから、適正な評価をお願いします」
ギルドマスターは受付嬢に向き直り、豪快に指示を出した。
「おい、金庫から金貨を出せ! ハイオークの討伐報酬と、素材の買取金、それに……『迷惑料』として色をつけてやれ!」
「は、はいっ!」
「それと、こいつらのランクをE……いや、特例でDまで上げとけ。Fランクのままじゃ、こっちの手続きが面倒だ」
話のわかる上司で助かる。
俺は小さく頭を下げた。
「感謝します」
「フン、次はもっと骨のある依頼を回してやるよ。精々生き残るこったな、『職人』」
***
ギルドを出た俺たちの懐には、ずっしりと重い革袋があった。
中には、金貨がジャラジャラと入っている。
サラリーマン時代の初任給よりも多いかもしれない。
「すっげぇ! 大金だ! 兄貴、これ全部俺たちのモンか!?」
「ああ。経費を引いて、きっちり三等分だ」
俺が金貨を分けると、キャルルが目を輝かせて受け取った。
「やったぁ! これで新しいインソールが買えます!」
「俺様は肉だ! 最高級の肉を食うぞ!」
二人がはしゃぐ姿を見て、俺も安堵の息を吐き出した。
ポケットから赤マルを取り出し、火をつける。
「ふぅ……」
これで当面の家賃は払える。
食うものにも困らない。
そして何より――。
「竜さん、この後はどうします?」
「決まってるだろ」
俺は紫煙越しに、街のネオンサインを指差した。
『スーパー銭湯 極楽の湯』。
「いい仕事をした後は、体のメンテナンスだ。……行くぞ、福利厚生の時間だ」
「「おーっ!」」
俺たちの足取りは、行きよりもずっと軽かった。




