EP 4
俺流・絶対斬
キャルルの一撃で、ハイオーク・ジェネラルの巨体がぐらりと揺らいだ。
最大の隙。
だが、それはほんの数秒のことだ。奴はすぐに体勢を立て直し、反撃に転じるだろう。
――いや、させない。
俺は地面を蹴った。
背後に引きずった『廃材断ち(スクラップ・バスター)』が、地面の岩を削り、火花を散らす。
ギャリガリガリガリッ……!!
不快な金属音が、死刑執行へのカウントダウンのように響く。
走る俺の体の奥底から、熱い何かが湧き上がってくるのを感じた。
心拍数の上昇によるアドレナリンではない。
もっと物理的で、高密度な熱量。
丹田のあたりに、熱い液体燃料が注ぎ込まれたような感覚。
(……なんだ、これは)
俺は走りながら、冷静に自己分析を行った。
イグニスがブレスを吐く時に纏っていた赤い光。
キャルルが蹴りを放つ瞬間に脚を包んでいた白い光。
あれと同じものが、今、俺の中にも流れている。
(そうか……。この世界には『闘気』というエネルギーリソースが存在するのか)
ファンタジー小説なら、それを「神秘の力」や「魂の輝き」と呼ぶのかもしれない。
だが、元ホームセンター社員の俺には、もっと別のモノに見えた。
これは「電気」だ。あるいは「燃料」だ。
俺という肉体を駆動させるための、バッテリー。
スイッチを入れれば流れ出し、出力を上げればパワーが増す。
単純明快な物理現象。
「なら、話は早い」
俺は意識のスイッチを切り替えた。
セーフティ解除。リミッターカット。
体内のバルブを全開にするイメージ。
「出力全開だ」
ブォォォォォォンッ!!
俺の全身から、青白いオーラが爆発的に噴出した。
それは揺らめく炎ではなく、バチバチと放電するアーク溶接の光に近い。
俺は溢れ出るそのエネルギーを、握りしめたグリップを通じて、背後の鉄塊へと流し込む。
【導通】。
ただのスクラップの集合体だったバスターソードが、青白く脈動し始めた。
キィィィィィン……!!
鉄骨と鋼鉄板が共鳴し、高周波の唸りを上げる。
エネルギーを纏った質量兵器は、さらに重く、そして触れるもの全てを破壊する概念へと変質していく。
「――ッ!!」
ハイオークが、本能的な恐怖に顔を引き攣らせた。
迫りくる俺と、青白く輝く鉄塊を見て、回避は間に合わないと悟ったのだろう。
奴は咄嗟に腕を交差させ、全身の筋肉を硬化させた。
鋼鉄の鎧と、岩のような筋肉による絶対防御。
生半可な剣技なら、その守りに弾かれて終わるはずだ。
だが、俺は止まらない。
防御? 関係ない。
俺の武器は「切れ味」ではない。「質量」×「速度」×「闘気エネルギー」だ。
計算式が違うんだよ。
俺はハイオークの懐に踏み込み、全身のバネと遠心力を使って、輝く鉄塊を振り上げた。
「邪魔だ」
視界には、ただ一点の破壊点のみ。
「――『俺流・絶対斬』!!」
俺は、叩きつけた。
ドォォォォォォォォォォォォンッ!!!
それは斬撃音ではなかった。
至近距離で爆弾が炸裂したような、重低音の轟き。
青白い閃光が弾け、空間が歪む。
ハイオークの腕も、鎧も、筋肉も、意味をなさなかった。
圧倒的な質量エネルギーの前では、それらは等しく「豆腐」と同じだ。
ハイオークの巨体が、頭上から股下まで一直線に両断される――いや、圧し潰され、消し飛んだ。
衝撃波はそれだけに留まらない。
ハイオークの背後にあった大木が、地面が、森の景色そのものが、俺の剣筋に沿って抉り取られ、一直線に吹き飛んでいく。
ズズズ……ン……。
遅れてやってきた地響きと共に、もうもうと土煙が舞い上がる。
俺はバスターソードを振り抜いた姿勢のまま、ゆっくりと残心をとった。
……静寂。
風が吹き抜け、土煙を晴らしていく。
そこにはもう、ハイオークの姿はなかった。
あるのは、地面に深く刻まれた巨大な亀裂と、遥か後方まで切り開かれた森の「新しい道」だけ。
「……あ、あぅ……」
キャルルが腰を抜かし、震える声で呟いた。
「す、すごぉぉい……これ、剣の威力じゃないよぉ……」
イグニスが、煤けた顔でニカッと笑う。
「へへっ、さすが兄貴だぜ! 俺様でもあんなデタラメな破壊し方はしねぇぞ!」
俺はバスターソードを肩に担ぎ直し、ポケットから赤マルを取り出した。
指先から漏れる余剰の闘気で、タバコに火をつける。
深く吸い込み、青空に向かって紫煙を吐き出した。
「……ふぅ。いい運動になった」
業務完了。
俺はまだ微かに熱を帯びている鉄塊を撫でながら、次なる仕事(温泉とビール)へと思考を切り替えた。




