10-1. 絶体絶命と救いの手
リオは荒野の中心で立ち尽くしていた。乾いた土と岩が、視界の果てまで続いている。地平線まで続く荒涼とした風景が、リオの視界を支配する。四方から迫る足音が、次第に大きくなっていく。王国軍の討伐隊が前方から、敵国連合の特殊部隊が後方から、左右からも追跡部隊が迫ってくる。包囲網が完成し、リオの逃げ場は完全に失われた。
リオは手のひらを見つめた。そこには、常に微かな熱が宿っている。それは、呪詛の力の証だ。息を吸うたびに、その熱が強まり、リオの肋骨を内側から押しつぶすように重い。力を使いたい。だが、使えば、追跡される。その矛盾が、リオの胸骨を内側から押す。
前方から、王国軍の討伐隊が迫ってくる。その中に、ガルド・ストームの姿が見える。雷の魔刀を肩に担ぎ、その刃に青白い稲妻が走っている。その光が、荒野を照らしている。討伐隊の兵士たちは、剣を構え、リオを見つめている。その視線が、リオの背筋を冷たく走る。背中に、重りを背負ったような感覚が広がる。
後方には、敵国連合の特殊部隊が配置されている。黒い軍服に身を包んだ兵士たちが、リオの動きを予測し、先回りして待ち構えている。その中に、リリウム封鎖官の姿も見える。手には、血刻殻の装置を持っている。その装置が、静かに光を放っている。その光が、リオの目を焼きつけるように痛い。
リオは拳を握りしめた。指の関節が白くなる。手のひらに、汗が滲む。その汗が、手のひらを滑らかにする。だが、動けない。足が重く、一歩も踏み出せない。膝が震え、足首が重い。力を使うことも、逃げることもできない。絶体絶命の状況の中で、リオは最後の選択を迫られる。
四方から迫る敵。逃げ場はない。このままでは、捕まるか、殺されるか。どちらにしても、自分の力は兵器として使われる。その恐怖が、リオの胸を締め付ける。一人では、もう限界だ。誰か、誰か助けてほしい。その願いが、リオの心から溢れ出る。
「誰か……誰か助けて」
リオは心の中で叫んだ。声が出ない。喉が渇き、声がかすれる。声帯が震え、言葉が喉の奥で詰まる。だが、誰も聞いていない。誰も助けてくれない。一人では限界がある。その事実が、リオの肩を押しつぶす。肩の関節が、重りを背負ったように痛む。
その時、リオの耳に、かすかな音が届いた。それは、風に運ばれてくる声だった。その声は、古い言葉で何かを唱えている。リオは、その声の方向を見た。そこには、辺境の廃神殿が立っていた。
廃神殿は、古い石造りの建物だ。壁には、古い魔術の刻印が残っている。その刻印は、風化しており、ほとんど読み取れない。だが、その刻印から、微かな光が放たれている。その光が、リオの目を引いた。その光が、まるで自分を呼んでいるかのように感じられる。
リオは、その光を見つめた。その光が、視界の中心に浮かび上がる。リオは、足を動かそうとした。だが、足が重い。一歩も踏み出せない。膝が震え、足首が重い。それでも、リオは足を前に出した。
「ここに来なさい」
その声が、リオの耳に届いた。それは、女性の声だった。その声は、温かく、優しい。その声が、リオの背中を押す。リオは、その声に導かれるように、足を動かした。一歩、また一歩。その一歩が、重いが確かだ。足の裏が、乾いた土を踏みしめる。その感触が、リオの足の裏に伝わる。
リオは、廃神殿へと向かった。その道のりは、短いものだった。だが、その短い道のりが、リオには永遠のように感じられる。足が重く、一歩踏み出すたびに、膝が震える。それでも、リオは歩き続ける。呼吸が浅くなり、胸が痛む。それでも、リオは歩き続ける。
廃神殿の入口に近づくと、リオの目に、一人の女性の姿が映った。その女性は、白いローブに身を包み、長い銀髪を後ろで結んでいる。その姿は、どこか高貴な雰囲気を漂わせている。その女性の目には、深い悲しみが宿っている。その悲しみが、リオの心を少しだけ軽くする。
女性は、リオの手のひらを見つめた。掌に宿る微かな熱を、彼女は感じ取っている。永劫縛鎖の証。長い間、探していた存在が、今、目の前にいる。
「リオ・アーデン……あなたが、永劫縛鎖の使い手ね」
その女性が、リオに話しかけた。その声は、温かく、優しい。だが、その声には、深い悲しみが混ざっている。その悲しみが、リオの心に染み込む。女性は、リオが何を背負っているかを知っている。だからこそ、その悲しみが深いのだ。
リオは、その女性を見つめた。複雑な感情が、その目に宿っている。恐怖でも敵意でもない。共感と悲しみが混ざり合った、それだった。それに、かすかに背中を押される。
この女性は、敵ではない。だが、味方なのかも分からない。リオは、警戒しながらも、その温かさに惹かれる。誰なのか。なぜ、ここにいるのか。その疑問が、リオの心を揺さぶる。
「あなたは……誰ですか」
リオは、震える声で尋ねた。その声が、喉の奥で詰まる。その女性は、優しく微笑んだ。その微笑みが、リオの心を少しだけ温める。女性は、リオの警戒心を理解している。だからこそ、優しく答える。
「私は、ミラ・シルバー。古き知恵の会の一員よ。あなたを保護するために、ここに来たの」
ミラは、リオの目を見つめながら、そう言った。古き知恵の会。それは、エリーザの時代から続く、魔法使いの残党の組織だ。ミラは、リオが永劫縛鎖の使い手であることを知り、保護するためにここに来た。それは、エリーザの遺志を継ぐためでもある。
その言葉が、リオの心に染み込む。保護する。それは、リオが長い間、聞きたかった言葉だ。だが、その言葉が、本当に信頼できるものなのか、リオには分からない。胸の中心が、重りを背負ったように痛む。これまで、何度も裏切られてきた。今度も、同じなのか。
ミラは、リオの肩に手を置いた。触れられた肩が、わずかに温かくなる。重さが、ほんの少し抜けた。
ミラは、リオの目を見つめた。その目には、深い悲しみが宿っている。それは、リオと同じ苦しみを知っている者の目だ。ミラも、魔法使いの残党として、長い間、一人で戦ってきた。だからこそ、リオの孤独を理解している。
「安心して。あなたは、もう一人じゃない」
その言葉が、胸の奥まで届く。一人じゃない。聞きたかった言葉だ。肋骨を押していた重さが、わずかにゆるむ。ミラは、自分を支えてくれる。その確信が、かすかな安堵を残した。
ミラは、リオの周囲に、古い呪詛陣を展開した。その呪詛陣は、複雑な模様を描いており、その模様から、微かな光が放たれている。その光が、リオの体を包み込む。その瞬間、手のひらに宿っていた微かな熱が、わずかに弱まった。肋骨を押しつぶしていた重さが、少しだけ和らぐ。
ミラは、古い魔術の言葉を唱えながら、呪詛陣を完成させた。これは、300年前の魔術体系の技術だ。エリーザが封印した呪詛体系の、ほんの一部に過ぎない。だが、それでも、リオの力を一時的に封印することはできる。それは、追跡を遅らせるためだ。
「これは、一時封印の呪詛陣よ。あなたの力を一時的に封印し、追跡を遅らせるの」
ミラの説明が、リオの耳に届く。一時封印。力を使わずに生き延びる。求めていたものだった。ミラは、リオを救うために、古い魔術を使った。その事実が、かすかな安堵を残す。
リオは、その呪詛陣を見つめた。微かな光が、体を包み込む。手のひらの熱が、また少し弱まった。胸の中心の重さが、和らぐ。
リオは、ミラの目を見つめた。その目には、深い悲しみが宿っている。だが、その悲しみの中に、希望の光が混ざっている。ミラは、リオを救うために、ここに来た。その事実が、リオの心を少しだけ温める。
「ありがとう……ございます」
震える声で、リオは答えた。言いたかった言葉が、自然に溢れ出る。ミラは、支えてくれる。その確信が、胸の奥で温かくなる。
ミラは、優しく微笑んだ。その微笑みが、リオの胸の奥まで届く。中心の重さが、和らぐ。
ミラは、リオの手を取った。手の温もりが、腕に広がる。ミラは、リオを古き知恵の会の隠れ家へと導く。そこには、リオの力の真実を知る者がいる。それは、オルド・ウィズダムだ。300年前の魔術体系を継承する最後の大魔導師。その者が、リオを導いてくれる。
「さあ、行きましょう。古き知恵の会の隠れ家へ。そこでは、あなたの力の真実を知ることができるわ」
真実を知る。それは、リオが求めていたものだった。自分の力の真実を知る。その選択が、リオの新しい希望になる。リオは、その希望を胸に抱き、ミラの後を追った。一歩が重い。それでも確かだ。一人では限界がある。今は、支えがある。肩の重さが、少し和らぐ。
その支えが、リオの運命を変えることになることを、まだ誰も知らない。
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