8-3. ミッドナイト・ブレイク作戦
デザート・ピラー作戦から数日後、リオは再び作戦室へと呼び出された。仮設宿舎から司令部へ向かう道のりで、リオは自分の手のひらを見つめている。手のひらには、常に微かな熱が宿っている。それは、呪詛の力の証だ。息を吸うたびに、その熱が強まり、リオの肋骨を内側から押しつぶすように重い。
廊下を進む。石造りの壁に、古い戦争の記録が刻まれた石板が並んでいる。天井から吊り下げられた魔導灯が、黄色い光を放ち、リオの影を長く引き伸ばす。
作戦室に入ると、ヴィクトル総司令が机の前に立っている。壁は灰色の石造りで、天井は高く、その高さは五メートル以上ある。天井から吊り下げられた魔導灯が、薄暗い青白い光を放っている。その光は、作戦室全体を照らしているが、どこか冷たい印象を与える。
テーブルには、大きな地図と資料が広げられている。ヴィクトルは地図を見つめ、細い指揮棒で位置を示している。地図には、国境宿営地の位置が、大きな円で示されている。その周囲には、和平交渉の使節団の動きが描かれている。
「作戦の詳細を説明する」
ヴィクトルは地図を広げ、国境宿営地を示す。地図には、王国と敵国連合の国境付近に設置された宿営地が描かれている。そこに、和平交渉の使節団が訪れる。王国と敵国連合の間で停戦の可能性が浮上している。
ヴィクトルは地図上の位置を指差しながら、説明を続ける。
「使節団を『事故死』させろ。交渉を破綻させるためだ」
リオは、その言葉に驚いた。使節団を『事故死』させる――それは、和平交渉を妨害することだ。胸の中心が凍えるように痛む。
「停戦の可能性があるのに、それを妨害するなんてできません」
リオの手が震える。その震えが止まらない。ヴィクトルは一瞥もせず、地図を見続ける。
「命令だ」
リオは拳を固く握った。手のひらに汗が滲む。人を殺すことへの罪悪感が、胸の中心を締め付ける。
「人が死なない未来の可能性があるのに……」
リオは呼吸が早くなる。ヴィクトルを見た。
「停戦は、王国の利益にならない」
ヴィクトルの言葉は、きわめて合理的だ。戦争を続けるため、交渉を破綻させる必要がある。だが、リオには、その意味が分からない。その事実が、リオの心臓を握りしめる。
「そんな命令には従えません」
リオの手が小刻みに震える。ヴィクトルは、冷たい目でリオを見た。
「従え」
その声は、冷たい。リオは軽く頷いた。だが、心の中では重い気持ちが広がる。和平交渉を妨害すること――それは、リオが最も恐れることだった。
リオは剣の柄を固く握った。手のひらに汗が滲む。
「作戦は明日の夜だ。準備を整えろ」
リオは軽く頷き、作戦室を出た。
仮設宿舎に戻ると、ゼロ・ナイトが待っていた。ゼロは、リオの肩に手を置いた。
「どうした、リオ。顔色が悪いぞ」
ゼロの言葉が、リオの心に響く。
「ゼロさん……停戦の可能性を奪うことになるかもしれません」
リオは深く息を吸い込みながら、ゼロを見た。
「剣は命令に従うだけだ。お前は違う。お前には心がある。選択がある」
ゼロの言葉が、リオの胸の奥まで届く。それは、リオが長い間、聞きたかった言葉だ。
「でも、国家のために力を貸すと約束したんです」
ゼロは、リオの肩を軽く叩いた。
「約束は確かに守るべきものだ。だが、人の命を奪ってまで守り続けるべきものなのか、よく考えろ」
ゼロの言葉が、リオの胸の奥に染み込む。リオは、その言葉を胸に刻み、仮設宿舎の机の前に座った。
机の上には、シルヴァとセラフィナからの手紙が置かれていた。リオは、その手紙を手に取り、文字を追う。シルヴァの手紙には、「選ぶ権利がある」「逃げることも選択肢の一つよ」と書かれている。セラフィナの言葉も、同じようにリオを人間として見てくれている。
リオは、手紙を読み返していた。選ぶ権利がある。逃げることも選択肢の一つ。それは、リオが考えたことのない選択だ。リオは、その手紙を胸に当てた。紙の温かさが、指先から腕へと伝わる。
「僕は……どうすればいいのか」
リオは自分に問いかける。だが、答えは見つからない。時間だけが過ぎていく。
翌夜、リオは作戦に参加した。国境宿営地は、王国と敵国連合の国境付近に設置された宿営地だった。その宿営地は、和平交渉の使節団が訪れる場所だった。
リオは、宿営地の入り口に立った。使節団は、宿営地の中にいた。使節団のメンバーは、王国と敵国連合の代表者たちだった。彼らは、和平交渉のために集まっていた。
リオは心の中で覚悟を決めた。一念発起して、リオは、剣を抜かずに、使節団を逃がす。
リオは、宿営地の中へと進んだ。使節団は、宿営地の中心部にいた。リオは、使節団を見つけ、剣を抜いた。だが、すぐに剣を鞘に戻した。
「停戦の可能性を奪うことはできません」
使節団の一人は、目を見開いた。
「リオ・アーデン……『緩慢なる死神』だ」
使節団の一人の目に、恐怖と困惑が映っている。
「あなたは……和平交渉を妨害しないのか」
リオは、軽く頷いた。
「僕は、停戦の可能性を奪うことはできません」
使節団は困惑と驚きでざわつく。
「リオ・アーデン……あなたは、本当に『死神』なのか」
「僕は……人間です。人を殺すことを苦しむ、普通の人間です。兵器じゃない」
そういってリオは、使節団を逃がした。使節団は無事帰還した。リオはその光景を見て安堵するともに、これからのことを考えて呼吸が乱れる。命令違反。その事実がリオの肋骨を内側から押しつぶす。だがリオは、停戦の可能性を奪うことができなかった。
リオは、宿営地を出た。そこでは、ゼロ・ナイトが待っていた。ゼロは、リオの肩に手を置いた。
「お前には心がある。それが、お前を人間たらしめている。それを失うな」
ゼロの言葉が、リオの胸の奥まで届く。それは、リオが長い間、聞きたかった言葉だ。
「命令違反を犯しました。僕は人がもっと死ぬことになる未来を選びたくない」
ゼロは、リオの肩を軽く叩いた。リオはその温かさを感じながら、仮設宿舎へと戻った。
仮設宿舎に戻ると、リオは机の前に座った。机の上には、シルヴァとセラフィナからの手紙が置かれていた。リオは、その手紙を手に取り、文字を追う。シルヴァの手紙には、「選ぶ権利がある」「逃げることも選択肢の一つよ」と書かれている。セラフィナの言葉も、同じようにリオを人間として見てくれている。
リオは、手紙を読み返していた。選ぶ権利がある。逃げることも選択肢の一つ。それは、リオが考えたことのない選択だ。リオは、その手紙を胸に当てた。紙の温かさが、指先から腕へと伝わる。
「もう、これ以上人を殺したくない」
リオは心の中で心を決めた。このままでは誰も、何も救えない。
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