8-1. デザート・ピラー作戦
ホロウスパイア包囲作戦から数週間が経ち、リオは再び作戦室へと呼び出された。仮設宿舎から司令部へ向かう道のりで、リオは自分の手のひらを見つめている。手のひらには、常に微かな熱が宿っている。それは、呪詛の力の証だ。息を吸うたびに、その熱が強まり、胸骨を内側から押す。
廊下は、薄暗い石造りの通路だ。壁には、古い戦争の記録が刻まれた石板が飾られている。天井から吊り下げられた魔導灯が、黄色い光を放ち、廊下全体を薄暗く照らしている。その光は、リオの影を長く引き伸ばす。
廊下には、兵士たちが行き交っている。彼らの足音は、石造りの床に響き、廊下に反響する。リオが近づくと、兵士たちは一斉に距離を取る。その視線は、リオを恐れている。兵士たちの目には、恐怖と警戒が混ざり合っている。
「リオ・アーデン……『緩慢なる死神』だ」
兵士の一人が、そう呟いた。その兵士は、若い男だ。おそらく、まだ二十歳にも満たない。目に恐怖と困惑が映っている。彼は、リオの姿を見て、一歩後ずさりした。
リオは手のひらを見つめた。指先に走る熱が、心臓の鼓動と重なる。息を吸うたびに、その熱が強まり、胸骨を内側から押す。
作戦室に入ると、ヴィクトル総司令が地図の前に立っている。作戦室は、広々とした部屋だ。壁は灰色の石造りで、天井は高く、その高さは五メートル以上ある。天井から吊り下げられた魔導灯が、薄暗い青白い光を放っている。その光は、作戦室全体を照らしているが、どこか冷たい印象を与える。
テーブルには、大きな地図と資料が広げられており、ヴィクトルはその前に立っている。地図には、赤い印と青い印が散りばめられており、戦線の状況を示している。ヴィクトルの手には、細い指揮棒があり、地図の上を動かしている。
「作戦の詳細を説明する」
ヴィクトルは地図を広げ、砂漠の集落を示す。地図には、砂漠に突き出した岩柱と、その周囲に広がる村落群が描かれている。その集落は、遠くから見ると巨大な塔のように見える。
「デザート・ピラーだ。敵参謀が潜伏している」
ヴィクトルは地図を広げ、砂漠に突き出した岩柱と地下水脈の村落群を示す。ヴィクトルは地図上の位置を指差しながら、説明を続ける。
「敵参謀を討て。証拠隠滅のため、村人も排除せよ」
リオは、その言葉に驚いた。村人も排除する――それは、無実の民を殺すことだ。胸の中心が凍えるように痛む。
「村人を殺すことはできません」
リオの声が震える。手のひらに汗が滲み、指先が冷たくなる。ヴィクトルは一瞥もせず、地図を見続ける。
「命令だ」
リオは拳を握りしめた。指の関節が白くなる。人を殺すことへの罪悪感が、胸の中心を締め付ける。
「罪のない人たちに手を出すことはできません」
リオの手が震える。その震えが止まらない。ヴィクトルは、冷たい目でリオを見た。
「証拠隠滅のためだ」
ヴィクトルの言葉は、きわめて合理的だ。敵参謀が村人に情報を流した可能性がある。その可能性を排除するため、村人も排除する。だが、リオには、その意味が分からない。無実の民を殺すこと。その事実が、リオの心臓を握りしめる。
「そんな命令には従えません」
リオは呼吸を整えながら、ヴィクトルを見た。
「従え」
ヴィクトルの声が、リオの背筋を冷たく走る。リオは軽く頷くしかなかったが、心の中では重い気持ちが広がる。
無実の民を殺すこと。リオは目を伏せ、深く息を吸い込んだ。その呼吸が、体の奥まで届く。気乗りしない気持ちが、肩を押しつける。
リオは剣の柄を固く握った。手のひらに汗が滲む。
「作戦は明日の夜明け前だ。準備を整えろ」
リオは軽く頷き、作戦室を出た。
仮設宿舎に戻ると、ゼロ・ナイトが待っていた。ゼロは、リオの肩に手を置いた。
「どうした、リオ。顔色が悪いぞ」
ゼロの言葉が、リオの心に響く。
「ゼロさん……村人も殺せという命令が下りました」
リオは深く息を吸い込みながら、ゼロを見た。
「剣は命令に従うだけだ。お前は違う。お前には心がある。選択がある」
ゼロの言葉が、リオの胸の奥まで届く。それは、リオが長い間、聞きたかった言葉だ。
「でも、国家のために力を貸すと約束したんです」
ゼロは、リオの肩を軽く叩いた。
「約束は守るべきものだ。だが、人の命を奪ってまで守り続けるべきものなのか、よく考えろ」
ゼロの言葉が、リオの胸の奥に染み込む。リオは、その言葉を胸に刻み、仮設宿舎の机の前に座った。
机の上には、シルヴァとセラフィナからの手紙が置かれていた。リオは、その手紙を手に取り、文字を追う。シルヴァの手紙には、「選ぶ権利がある」「逃げることも選択肢の一つよ」と書かれている。セラフィナの言葉も、同じようにリオを人間として見てくれている。
リオは、手紙を読み返していた。選ぶ権利がある。逃げることも選択肢の一つ――それは、リオが考えたことのない選択だ。リオは、その手紙を胸に当てた。紙の温かさが、指先から腕へと伝わる。この選択が、リオを変えるものになることを、まだ誰も知らない。ヴィクトルが、この選択を知った時、何が起こるのか。リオは、その答えを知らない。
夜、リオは眠れなかった。無実の民を殺すこと――それは、リオが最も恐れることだ。リオは、仮設宿舎の窓から外を見た。街の灯りが、遠くで揺らめいている。その光を見て、リオは少しだけ心が落ち着いた。
「どうすればいいのか」
リオは自分に問いかける。だが、答えは見つからない。時間だけが過ぎていく。明日の夜明け前、リオは選択を迫られる。その選択が、リオの運命を変えることを、まだ誰も知らない。ヴィクトルが、この選択を知った時、何が起こるのか。リオは、その答えを知らない。その答えが、リオの胸の奥で重くのしかかる。重さが、肩から背中へと広がる。
翌朝、リオは作戦に参加した。デザート・ピラーは、砂漠に突き出した岩柱と、その周囲に広がる村落群だ。その集落は、遠くから見ると巨大な塔のように見える。岩柱の周囲には、地下水脈を利用した村落群が広がっている。村人たちは、砂漠の過酷な環境の中で、地下水脈を頼りに生活している。
リオは、村の入り口に立った。村人たちは、リオの姿を見て、一歩後ずさりした。目に困惑と不安が映っている。
「村人には手を出さない」
リオは心の中で覚悟を決めた。決めた覚悟を以ってして敵参謀を討つ。だが、村人には手を出さない。故意に剣を外して、村人を逃がす。
リオは、村の奥へと進んだ。敵参謀は、村の中心部に潜伏していた。リオは、敵参謀を見つけ、剣を抜いた。敵参謀の目が、大きく見開かれた。目に恐怖が映っている。
「リオ・アーデン……『緩慢なる死神』だ」
敵参謀の目には、恐怖と困惑が混ざり合っている。
リオは、敵参謀に剣を向けた。だが、すぐに剣の切っ先をわずかにずらした。致命傷ではなく、浅い切り傷だけをつける。敵参謀は、その傷を見て、目を見開いた。
「なぜ……致命傷ではないのか」
敵参謀の目には、困惑が浮かんでいる。
「あなたを殺すつもりはありません」
リオは剣の切っ先をわずかにずらした。致命傷ではなく、浅い切り傷だけをつける。村人には手を出さない。敵参謀は、その言葉に目を見開いた。
「村人を……逃がすのか」
リオは、軽く頷いた。
「罪のない人たちには手を出せません」
敵参謀は、目を見開いた。目に困惑と驚きが映っている。
「リオ・アーデン……あなたは、本当に『死神』なのか」
「僕は……人間です。人を殺すことを苦しむ、普通の人間です」
敵参謀は、その言葉に目を見開いた。
リオは、村人たちを見た。リオは、故意に剣を外して、村人を逃がした。村人たちは、リオの姿を見て、困惑を浮かべた。だが、リオは、村人たちに手を出さなかった。
村人たちは、逃げ延びた。リオは、その光景を見て、呼吸が乱れる。命令違反。その事実が、リオの肋骨を内側から押しつぶす。だが、リオは、無実の民を殺すことができなかった。
リオは、敵参謀を討った。だが、村人には手を出さなかった。それは、リオにとって、大きな選択だ。
命令違反。それは、リオが国家と約束したことへの背信だ。だが、リオは、無実の民を殺すことができなかった。ヴィクトルが、この命令違反を知った時、何が起こるのか。リオは、その答えを知らない。その答えが、リオの胸の奥で重くのしかかる。重さが、肩から背中へと広がる。その選択が、リオの運命を変えることを、まだ誰も知らない。
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