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魔法が廃れた時代の死神  作者: モノカキ
第七章

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7-1. 包囲網の構築

黒曜谷作戦から数週間が経った頃、リオは再び作戦室へと呼び出された。仮設宿舎から司令部へ向かう道のりで、リオは自分の手のひらを見つめている。手のひらには、常に微かな熱が宿っている。それは、呪詛の力の証だ。息をするたびに、その熱が強まり、リオの肋骨を内側から押しつぶすように重い。


廊下は、薄暗い石造りの通路だ。壁には、古い戦争の記録が刻まれた石板が飾られている。天井から吊り下げられた魔導灯が、黄色い光を放ち、廊下全体を薄暗く照らしている。その光は、リオの影を長く引き伸ばし、死神の影のようだ。


廊下には、兵士たちが行き交っている。彼らの足音は、石造りの床に響き、廊下に反響する。リオが近づくと、兵士たちは一斉に距離を取る。その視線は、リオを恐れている。兵士たちの目には、恐怖と警戒の色が浮かんでいる。


「リオ・アーデン……『緩慢なる死神』だ」


兵士の一人が、そう呟いた。その兵士は、若い男だった。おそらく、まだ二十歳にも満たない。その目には、恐怖と困惑が混ざり合っている。彼は、リオを見て、一歩後ずさりした。


「僕は……また、人を殺すことになる」


リオは心の中で自問した。だが、それでも進まなければならない。シルヴァからの手紙を思い出す。逃げることも選択肢の一つ――それは、リオが考えたことのない選択だった。だが、今はまだ逃げられない。国家のために力を貸すと約束した以上、進まなければならない。


リオは手のひらを見つめた。手のひらには、常に微かな熱が宿っている。それは、呪詛の力の証だった。この熱が、自分の心臓を握りしめているかのように感じられる。息をするたびに、その熱が強まり、リオの胸を締め付ける。


作戦室に入ると、ヴィクトル総司令が地図の前に立っている。作戦室は、広々とした部屋だ。壁は灰色の石造りで、天井は高く、その高さは五メートル以上ある。天井から吊り下げられた魔導灯が、薄暗い青白い光を放っている。その光は、作戦室全体を照らしているが、どこか冷たい印象を与える。


テーブルには、大きな地図と資料が広げられており、ヴィクトルはその前に立っている。地図には、赤い印と青い印が散りばめられており、戦線の状況を示している。ヴィクトルの手には、細い指揮棒があり、地図の上を動かしている。


その横には、リオが初めて見る女性がいる。白い軍服に身を包み、長い金髪を後ろで結んでいる。その姿は、どこか高貴な雰囲気を漂わせている。軍服は、上質な布で作られており、その白さは、作戦室の薄暗い光の中でも、ひときわ目立っている。その目は、リオを見つめている。悲しみと決意が混ざり合った、深い感情が、その瞳の奥に浮かんでいる。


「リオ・アーデン、こちらはセラフィナ・ヴァン・マグノリア王女だ」


リオは驚いた。王女が、最前線の作戦室にいる。セラフィナは、リオを見て軽く頷く。


「リオ・アーデン、あなたのことは聞いているわ。『緩慢なる死神』――そう呼ばれているのね」


セラフィナの声は、冷静で落ち着いていた。だが、その目には、リオを「兵器」として見る冷たさではなく、リオを「人間」として見る温かさが浮かんでいる。セラフィナの目は、リオの目を見つめていた。その視線が、リオの心の奥底まで届く。


「はい……その通りです」


リオは、小さな声で答えた。セラフィナは、リオの言葉を聞いて、軽く頷いた。


「でも、リオ・アーデン、あなたは死神じゃないわ。あなたは人間よ。人を殺すことを苦しむ、普通の人間よ」


セラフィナの言葉が、リオの心に深く響く。それは、リオが長い間、聞きたかった言葉だった。


「王女殿下、作戦の説明を始めます」


ヴィクトルは地図を指差す。そこには、空に浮かぶ塔都市の図が描かれている。


「ホロウスパイア――浮遊鉱石で空に浮かぶ塔都市だ。政治・宗教の中心地で、敵国連合の議会がここに集まっている」


ヴィクトルは地図上の位置を示しながら、説明を続ける。


「この都市を制圧すれば、王国は講和を有利に進められる。停戦ラインを確保し、戦争を終わらせるための重要な作戦だ」

「でも、僕は……人を殺したくありません」


リオは小さな声で言った。ヴィクトルは、冷たい目でリオを見た。


「またか」


ヴィクトルは一瞥もせず、地図を見続ける。


「でも、僕は……味方まで殺してしまった。自分を制御できない。触れたら終わり――そんな力を持っている」

「それは、作戦の効率を上げるためのデータだ。エレナの報告によれば、君の力は予想以上に有効だった」

「でも、僕は……人を殺したくありません。味方まで死なせた……」

「戦争だ。君の力で、戦争を早く終わらせることができる。それで、多くの命が救われる」


ヴィクトルの言葉は、きわめて合理的だ。だが、リオの肋骨が、内側から押しつぶされるように重い。人を殺すことへの罪悪感が、リオの胸を締め付ける。


「作戦の詳細を説明する」


ヴィクトルは地図を広げ、ホロウスパイアの周囲を示す。地図には、ホロウスパイアの位置が、大きな円で示されている。その周囲には、三つの矢印が描かれており、それぞれが包囲網の方向を示している。


「包囲網は三方向から構築する。空挺部隊が東側から、魔導滑空艇が西側から、そして南側からは主力部隊が進む」


ヴィクトルは、地図上の位置を指差しながら、説明を続ける。


「リオ・アーデン、お前には単騎で外壁突破を命じる。浮遊鉱石の共鳴を利用して、外壁を駆け上がれ」


ヴィクトルは地図を指差す。その指先が、ホロウスパイアの位置を示している。


「浮遊鉱石の共鳴……?」


リオは、その言葉に疑問を感じる。浮遊鉱石の共鳴――それは、リオが聞いたことのない言葉だ。


「ホロウスパイアは、浮遊鉱石の力で空に浮かんでいる。その鉱石は、特定の周波数で共鳴する。お前の剣に、共鳴装置を取り付ける。それで、外壁を駆け上がることができる」


ヴィクトルの説明は、きわめて簡潔だ。だが、リオには、その意味が分からない。


「でも、僕は……また、人を殺すことになるのか……」


リオは、小さな声で言った。声が震える。手のひらに汗が滲む。


「作戦だ。衛兵を切り伏せ、議会を拘束する。それが、お前の役割だ」


ヴィクトルの言葉は、きわめて冷徹だ。リオは頷いた。だが、心の中では重い気持ちが広がる。また、人を殺すことになる。衛兵を切り伏せ、議会を拘束する。それはリオが望むことではない。


リオは剣の柄を握りしめた。指先に力が入り、手のひらに爪が食い込む。


「セラフィナ王女、後方で情報戦を統括していただきたい」


セラフィナは、軽く頷く。その目は、リオを見つめている。悲しみと決意が、その瞳の奥に混ざり合っている。


「分かったわ。犠牲を抑える方策を探る。ただし、決定権はないけれど」


セラフィナの言葉には、どこか諦めのような響きがある。リオは、その言葉に何かを感じた。王女も、この作戦に疑問を抱いているのかもしれない。セラフィナの目は、リオの目を見つめている。その視線が、リオに何かを伝えようとしている。


「王女殿下、犠牲を抑える方策とは……」


リオは、小さな声で聞いた。セラフィナは、リオの言葉を聞いて、軽く微笑んだ。


「情報戦よ。敵の動きを先読みし、無駄な戦闘を避ける。でも、決定権は、ヴィクトル総司令にあるの」


セラフィナの言葉が、リオの心に響く。犠牲を抑える方策――それは、リオが最も望んでいることだった。


「作戦は明日の夜明け前だ。準備を整えろ」


リオは頷き、作戦室を出る。


廊下で、セラフィナがリオに声をかけた。廊下は、薄暗く、その中でセラフィナの白い軍服が、ひときわ目立っていた。


「リオ・アーデン、少し話を聞かせてもらえるかしら」


リオは、その言葉に頷いた。


「はい……」

「あなたは、この作戦をどう思っているの?」


セラフィナの質問に、リオは言葉に詰まった。どう思っているか――それは、リオ自身も分からない。リオは、自分の手のひらを見た。手のひらには、常に微かな熱が宿っている。それは、呪詛の力の証だった。


「僕は……人を殺したくありません。でも、国家のために力を貸すと約束した。だから、進まなければならない」


リオは、小さな声で答えた。胸が締め付けられる。息が浅くなる。


「そう。でも、あなたは人間よ。兵器じゃない」


セラフィナの言葉は、シルヴァの言葉と重なった。リオは、その言葉に何かを感じた。それは、リオが長い間、聞きたかった言葉だった。


「王女殿下、なぜそんなことを……」


リオは、その言葉に疑問を感じた。なぜ、王女が、そんなことを言うのか。


「私は、作戦記録を見たの。あなたが、人を殺すことを苦しんでいる。それは兵器にはない感情よ。」


セラフィナは、リオの肩に手を置いた。その手は、温かかった。


「リオ・アーデン、あなたは英雄じゃない。あなたは人間よ。人を殺すことを苦しむ、普通の人間よ。それを忘れないで」


セラフィナの言葉が、リオの心に響く。王女も、リオを人間として見てくれている。それは、リオにとって、小さな救いだった。


「ありがとうございます、王女殿下」

「いいえ。それでは、明日の作戦、気をつけて」


セラフィナの言葉は、シルヴァの言葉と重なる。リオは、その言葉に何かを感じた。逃げることも選択肢の一つ――それは、リオが考えたことのない選択だった。


セラフィナは、リオに軽く頷いて、去っていく。その背中には、白い軍服が揺れている。その姿は、廊下の薄暗い光の中に、次第に消えていく。


リオは、仮設宿舎へと戻る。仮設宿舎は、簡素な部屋だ。壁は、薄い板で作られており、その隙間から、外の光が差し込んでいる。机は、古い木製の机で、その上には、シルヴァからの手紙が置かれている。


リオは、その手紙を手に取る。手紙は、白い封筒に入っており、その封筒には、シルヴァの字で「リオへ」と書かれている。リオは、その字を見て、シルヴァの顔を思い浮かべる。シルヴァの優しい笑顔が、リオの心に浮かぶ。


リオは封を切り、手紙を広げる。手紙には、シルヴァの字で、丁寧に書かれている。


「リオ、あなたがホロウスパイア包囲作戦に参加することを聞いたわ。王都でも、その噂が広がっているの。あなたは『緩慢なる死神』と呼ばれているけれど、リオ、あなたは死神じゃない。人を殺すことを苦しむ、普通の人間よ。

作戦は危険だと思う。でも、もしあなたが本当に苦しんでいるなら、無理をしないで。あなたには、選ぶ権利があるのよ。いつでも、私のところに来て。あなたを、人間として受け入れる場所があるのよ。


シルヴァより」


その手紙を読み終えた時、リオの目から涙が溢れる。涙は、リオの頬を伝い、手紙の上に落ちる。リオは、その涙を拭いながら、手紙を読み返す。シルヴァとセラフィナ――二人の言葉が、リオの胸に染み込んでいく。選ぶ権利がある――それは、リオが考えたことのない選択だ。だが、今はまだ逃げられない。国家のために力を貸すと約束した以上、その約束を果たさなければならない。


夜、リオは眠れない。仮設宿舎のベッドに横たわりながら、リオは天井を見つめている。天井は、薄い板で作られており、その隙間から、月の光が差し込んでいる。その光は、リオの顔を照らしている。


手のひらに宿る微かな熱が、息をするたびに強まる。その熱が、リオの肋骨を内側から押しつぶすように重い。この力が、自分を支配しているのではないか。その疑問が、リオの心を蝕んでいく。


「もし、僕が死ねば……この力も消えるのでは……」


リオは心の中で自問した。だが、その答えは見つからず、時間だけが過ぎていく。リオは、目を閉じた。だが、眠れなかった。シルヴァとセラフィナの言葉が、リオの心に響いていた。選ぶ権利がある――それは、リオが考えたことのない選択だった。


翌日の夜明け前、リオは準備を整えた。空は、まだ暗く、星が輝いていた。その星の光は、リオの顔を照らしていた。リオは、その光を見つめながら、準備を整えた。


ゼロが、共鳴装置を取り付けた剣を手渡す。その剣は、通常の剣よりも重く、その重さは、リオの手に伝わってくる。共鳴装置は、剣の柄に取り付けられており、その装置は、微かに光を放っている。


「リオ、これで外壁を駆け上がることができる。ただし、共鳴装置は限界がある。時間をかけるな」


リオは、その言葉に頷いた。


「分かりました」

「リオ、正しく力を使えば問題ない。それを忘れるな」


ゼロの言葉が、リオの胸に響く。だが、それでもリオはこの力が自分を支配しているのではないかという不安に呑まれていく。


「ゼロさん、僕は……また、人を殺すことになる」


リオは、小さな声で言った。声が震える。


「お前は、人を殺すことを苦しんでいる。それが、お前の強さだ。兵器なら、そんな感情は持たない」


ゼロの言葉が、リオの心に響く。だが、それでもリオはこの力が自分を支配しているのではないかという不安に呑まれていく。


「でも、それでも僕は……やっぱりこの力が怖い」


リオの言葉に、ゼロは何も言えなかった。ゼロは、リオの肩を叩いた。その手は、温かかった。だが、その温かさは、リオの不安を消すことはできなかった。


空挺部隊と魔導滑空艇が、ホロウスパイアの周囲に集結し始める。空挺部隊は、東側から接近し、その影が、地面に落ちている。空挺部隊の兵士たちは、背中に翼のような装置を背負っており、その装置が、微かに光を放っている。彼らの姿は、空に浮かび、鳥のようだ。


魔導滑空艇は、西側から接近し、その音が、空に響いている。魔導滑空艇は、巨大な船のような形をしており、その表面には、浮遊鉱石が埋め込まれている。その鉱石は、微かに光を放ち、空に浮かんでいる。魔導滑空艇の音は、低い唸り声のように響き、空に反響する。


主力部隊は、南側から接近し、その足音が、地面を震わせている。主力部隊の兵士たちは、重装備を身に着けており、その装備は、金属で作られている。彼らの足音は、地面に響き、地震のように聞こえる。


三方向からの包囲網が、徐々に構築されていく。リオは、その光景を見つめながら、空を見上げる。空には、ホロウスパイアが浮かんでいる。その姿は、天に届く塔のようだ。


「僕は……人間だ。兵器じゃない」


リオは心の中で呟いた。だが、周りはリオを兵器として見なしている。英雄として称賛し、恐れている。それは、リオが望んだことではなかった。


包囲網が完成した時、ヴィクトルが合図を出す。


「作戦開始だ。リオ・アーデン、外壁突破を開始せよ」


その瞬間、三方向からの包囲網が動き始める。リオは、共鳴装置を取り付けた剣を握りしめる。手のひらに走る熱を感じながら。


リオは頷き、共鳴装置を取り付けた剣を握りしめる。浮遊鉱石の共鳴を利用して、外壁を駆け上がる。それは、リオにとって、新たな試練だ。だが、それでも国家のために力を貸すと約束した以上、進まなければならない。


次の戦いが、リオ・アーデンという人間を決定的に変えるものになることを、まだ誰も知らない。

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