6-8. 揺らぐ心
味方死亡の報告を受け、リオは剣を置き、声を震わせながら言った。
「もう二度と使わない。この力は、もう使わない」
「リオ……」
ゼロがリオに声をかけた。
「僕は……自分を制御できない。触れたら終わり――そんな力を持っている」
「リオ、それは違う。お前は人間だ。人を殺すことに忌避感を感じる、普通の人間だ。それが、お前の強さだ」
「でも、僕は……自分を制御できない。僕が死ねば全て終わるのでは……」
「それは違う。死んで罪を消すのではなく、生きて償うんだ」
ゼロの言葉は重く、リオの胸に響く。リオは震える手で剣を再び握る。その時、リオは「逃げるのではなく、自分の力と向き合う」という選択を初めて下す。自責の念は消えないが、死で解決しようとする思考から、生きて償うという方向へと転換する。
訓練が終わると、リオは宿舎へと戻った。机の上には、シルヴァからの手紙が置かれていた。リオは封を切り、手紙を広げた。
「リオ、あなたが『緩慢なる死神』と呼ばれていることを聞いたわ。でも、リオ、あなたは死神じゃない。あなたは人間よ。人を殺すことを苦しむ、普通の人間よ。味方まで殺してしまった――それは、あなたが望んだことじゃないわよね。でも、リオ、あなたは人間よ。それを忘れないで。私は、あなたの味方よ。いつでも、あなたを人間として見ている。
もし何かおかしいと思ったら、すぐに逃げて。あなたは、逃げることも選択肢の一つよ。
シルヴァより」
その手紙を読み終えた時、リオの目から涙が溢れた。窓の外では、月が雲の間から顔を出していた。その光が、机の上の手紙を微かに照らしている。シルヴァの文字が、月明かりの中で柔らかく光っているように見えた。その光を見つめながら、リオは少しだけ心が落ち着いた。遠くに、自分を支えてくれる人がいる。その事実が、暗闇の中で小さな希望となって輝いていた。
「シルヴァ……ありがとう」
リオは手紙を握りしめ、目を閉じた。逃げることも選択肢の一つ――それは、リオが考えたことのない選択だった。
「でも、僕は……逃げることができるのか?」
リオは心の中で呟いた。
翌日、エレナがリオの元へとやってきた。
「リオ・アーデン、次の作戦の準備だ」
「次の作戦……?」
「ホロウスパイア包囲作戦だ。浮遊都市を制圧する作戦だ」
リオは頷いた。肩に、見えない重りがのしかかる。また、人を殺すことになる。その事実が、リオの背骨を押し下げる。
「リオ、作戦の詳細を説明する」
ヴィクトル総司令が、作戦室へとリオを呼び寄せた。作戦室の天井は高く、五メートル以上あった。その高さが、リオを小さく見せた。天井から吊り下げられた魔導灯が、青白い光を放ち、リオの影を長く引き伸ばす。壁は灰色の石造りで、テーブルには地図と資料が広げられており、ヴィクトルはその前に立っていた。
「ホロウスパイア包囲作戦――目的は、敵議会の拘束と停戦ラインの確保だ」
ヴィクトルは地図を広げ、ホロウスパイアの位置を示した。地図には、浮遊都市の位置と包囲網の配置が示されていた。
「ホロウスパイアは、浮遊鉱石で空に浮かぶ塔都市。政治・宗教の中心地だ。ここを制圧すれば、王国は講和を有利に進められる」
「でも、僕は……人を殺したくありません」
リオは小さな声で言った。声は作戦室の壁にぶつかり、かき消された。ヴィクトルは、冷たい目でリオを見た。
「またか」
ヴィクトルは一瞥もせず、地図を見続ける。その声は、冷たく、リオの胸を凍りつかせる。
「でも、僕は……味方まで殺してしまった。自分を制御できない」
「これは戦争だ。君の力で戦争を早く終わらせることができる。多くの命が救われることになる」
ヴィクトルはきわめて合理的だった。リオは、自分の指先を見つめた。指先には、微かな熱が走る。その熱が、指先から手首へ、手首から腕へと伝わる。肋骨が、内側から押される。
「リオ、作戦は明日の夜明け前だ。準備を整えろ」
ゼロがリオの肩を叩いた。リオは頷き、作戦室を出た。
夜、リオは仮設宿舎で一人、ベッドに横たわっていた。
「それとも、僕は……逃げてもいいのか?」
シルヴァの言葉が、リオの心に深く響いた。逃げることも選択肢の一つ――それは、リオが考えたことのない選択だった。
「でも、僕は……逃げることができるのか?」
リオは、自分の指先を見つめた。指先には、微かな熱が走る。それは、呪詛の力の証だった。その熱が、指先から手首へ、手首から腕へと伝わる。胸の中心が、重くなる。
「僕は……人間だ。兵器じゃない」
リオは心の中で呟いた。だが、周りはリオを兵器として見ている。英雄として称賛し、恐れている。それは、リオが望んだことではない。
リオは目を閉じ、シルヴァの手紙を思い出した。手紙を握りしめ、眠りにつこうとした。だが、眠れなかった。手紙を握る指先に、微かな熱が走る。それは、呪詛の力の証だった。その熱が、指先から手首へ、手首から腕へと伝わる。胸の中心が、重くなる。自分を制御できない恐怖が、リオの心を侵食していく。
「僕が死ねば……全て終わるのでは……」
リオは心の中で繰り返した。だがそれでも答えは出ず、時はリオを待ってはくれない。
明日の夜明け前、ホロウスパイア包囲作戦が始まる。リオは、また人を殺すことになる。その事実が、リオの背骨を押し下げる。逃げることも選択肢の一つ――シルヴァの言葉が、リオの心に深く響く。だが、リオは逃げることができるのか。それとも、自分の力と向き合い、生きて償う道を選ぶのか。答えは、まだ出ていない。浮遊都市の空で、リオが何を見つけるのか。それは、まだ誰にも分からない。
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