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魔法が廃れた時代の死神  作者: モノカキ
第六章

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6-1. 黒曜谷への道

サイレントブルーム作戦から数ヶ月が経った。リオは、前線基地で日々を過ごしていた。仮設宿舎の窓からは、訓練場で兵士たちが剣を振る音が響いている。その音は、リオの心をざわつかせた。


王都では英雄「夜霧の死神」として称賛され続けていたが、前線の兵士たちは相変わらずリオを恐れていた。リオが訓練場に近づくと、兵士たちは距離を取った。一部の兵士たちの間では、既に「触れたら数日後に死ぬ」という噂が広がり始めており、王都とはまた別の雰囲気となっていた。


「リオ、新しい作戦が決まった」


ゼロがリオの元へとやってきた。その足音は静かだった。リオは机から顔を上げ、ゼロを見た。ゼロの目には、心配の色が浮かんでいた。


「黒曜谷――敵連合の兵器製造拠点を奪取する作戦だ」

「黒曜谷……?」

「黒曜石鉱山と火薬庫が連なる峡谷だ。そこを制圧すれば、王国は資源優位に立てる」


リオは頷いた。肩に、見えない重りがのしかかる。また、人を殺すことになる。その事実が、リオの背骨を押し下げる。


「リオ、作戦の詳細を説明する」


ヴィクトル総司令が、作戦室へとリオを呼び寄せた。作戦室の天井は高く、五メートル以上あった。その高さが、リオを小さく見せた。天井から吊り下げられた魔導灯が、青白い光を放ち、リオの影を長く引き伸ばす。壁は灰色の石造りで、テーブルには地図と資料が広げられており、ヴィクトルはその前に立っていた。


作戦室には、エレナ・ブライトもいた。彼女は記録を取りながら、リオの反応を観察している。手には、記録用の魔導装置が握られており、リオの動きを記録する準備ができていた。


「オブシディアン・ヴァレー作戦――目的は、黒曜谷の火薬庫の破壊と鉱山施設の制圧だ」


ヴィクトルは地図を広げ、黒曜谷の位置を示した。地図には、敵の哨戒線と火薬庫の位置が、赤い印で示されていた。


「黒曜谷は、敵連合の重要な資源拠点だ。ここを奪取すれば、王国は戦争を有利に進められる」

「でも、僕は……また人を傷つけることになるのですか」


リオは小さな声で言った。声は作戦室の壁にぶつかり、かき消された。ヴィクトルは冷たい目でリオを見た。


「またか」


ヴィクトルは一瞥もせず、地図を見続ける。その声は、冷たく、リオの胸を凍りつかせる。


「いいえ……でも、僕は……」

「戦争だ。敵を殺さなければ、味方が死ぬ。それだけだ」


ヴィクトルの言葉は、論理的だった。リオは自分の指先を見つめた。指先には、微かな熱が走る。それは、呪詛の力の証だった。その熱が、指先から手首へ、手首から腕へと伝わる。胸の中心が、重くなる。


「リオ、作戦は夜明け前だ。準備を整えろ」


ゼロがリオの肩を叩いた。その手の温かさが、リオの心に少しだけ安らぎを与えた。リオは頷き、作戦室を出た。


夜、リオは仮設宿舎で一人、ベッドに横たわっていた。机の上には、シルヴァからの手紙が置かれていた。封筒には、シルヴァの字で「リオへ」と書かれている。その字は、丁寧で、優しかった。


リオは封を切り、手紙を広げた。紙には、シルヴァの香りが残っていた。


「リオ、あなたが新しい作戦に参加することを聞いたわ。でも、リオ、あなたは人間よ。人を殺すことを苦しむ、普通の人間よ。どんなに周りがあなたを兵器として扱っても、あなた自身がそれを忘れないで。私は、あなたの味方よ。いつでも、あなたを人間として見ている。


シルヴァより」


その手紙を読み終えた時、リオの目から涙が溢れた。涙は、手紙の上に落ち、文字を滲ませる。シルヴァの言葉が、胸の奥を温める。その温かさが、指先から腕へと伝わる。


「シルヴァ……ありがとう」


リオは手紙を握りしめ、目を閉じた。明日、また人を殺すことになる。それは、リオが望んだことではない。


窓の外には、月が雲に隠れていた。その光は、机の上の手紙を微かに照らしている。リオは目を閉じた。目を閉じても、指先に走る熱は消えない。それは、呪詛の力の証だった。その熱が、指先から手首へ、手首から腕へと伝わる。肋骨が、内側から押される。


夜明け前、不治の刃は黒曜谷へ向けて出発した。前線基地の門をくぐる時、リオは振り返った。基地の灯りが、遠くに小さく見えていた。


月が雲に隠れ、闇が深い。リオは先頭に立ち、慎重に進んでいく。背中には、灰霧の呪符と雷瓶が詰まった背嚢を背負っている。その重さが、リオの肩にのしかかっていた。


足元は、石だらけの道だった。一歩間違えれば、転倒してしまう。リオは慎重に進んでいく。


「リオ、黒曜谷は前方三キロだ。敵の哨戒線を突破する必要がある」


ゼロが小声で指示を出した。声は、霧に包まれ、かき消された。リオは頷き、剣を抜いた。手のひらに走る熱を感じながら、リオは闇の中を進む。


剣を抜く音は、静かだった。だが、リオの耳には、その音が大きく響いた。


黒曜谷は、両側を切り立った崖に囲まれた峡谷だった。崖は高く、その上には敵の哨戒塔が建っていた。谷底には、黒曜石を採掘する鉱山施設が並び、その奥に火薬庫が建っていた。火薬庫の煙突からは、煙が立ち上っている。


敵連合は、この資源拠点を守るため、谷の入り口に厳重な哨戒線を張っていた。哨兵たちは、ランタンを手に持ち、周囲を見回している。


「テオ、陽動を開始する。敵の注意を引きつけろ」


ゼロがテオに指示を出した。テオは無言で頷き、雷の魔刀を抜いた。青白い電光が、闇を切り裂いた。その光は、谷の入り口を照らし、敵の哨兵たちの注意を引きつけた。


「バルド、リオを守れ。コレット、術式解析の準備を」


バルドは重い盾を構え、リオの前に立ちはだかった。その盾は、リオの体を隠すほど大きかった。コレットは氷の魔刀を抜き、換気坑の位置を確認している。その目は、虚空を見つめているようだった。


雷光が谷の入り口を照らした。敵の哨兵たちが、一斉にそちらへと注意を向けた。その隙に、リオたちは霧に紛れて斜面を降下した。


作戦は、ここから始まる。リオは、また人を殺すことになる。その事実が、手のひらに走る熱を強める。黒曜谷の闇の中で、リオが何を見つけるのか。それは、まだ誰にも分からない。

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