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魔法が廃れた時代の死神  作者: モノカキ
第五章

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5-2. サイレントブルーム作戦

夜明け前、不治の刃は夜泣き沼へ向けて出発した。前線基地の門をくぐる時、リオは振り返った。基地の灯りが、遠くに小さく見えていた。その光が、リオの目に焼きつく。


「リオ、進め。時間がない」


ゼロの声が、リオの背筋を走る。リオは頷き、隊列の先頭に立った。一歩、また一歩。その一歩が、重いが確かだ。


夜泣き沼に到着した時、霧が深く、手を伸ばしても指先が見えないほどの濃霧だった。息が白く、それが霧に溶けていく。リオは先頭に立ち、慎重に進んでいく。


足元は、ぬかるんでいた。泥が、リオの靴に絡みつく。その感触は、不快だった。周りには、枯れた草が生えており、その葉が、リオの服に触れるたびに、かすかな音を立てる。


「リオ、敵の哨戒線は前方五百メートルだ。静かに進め」


ゼロが小声で指示を出した。その声は、霧に吸い込まれるように消えた。リオは頷き、剣を抜いた。手のひらに走る熱を感じながら、リオは霧の中を進む。その熱が、指先から腕へと伝わる。


剣を抜く音は、静かだった。だが、リオの耳には、その音が大きく響いた。


前方に、敵の哨兵の姿が見えた。二人の兵士が、霧の中を警戒しながら歩いている。一人は、若い兵士で、その目には不安の色が浮かんでいた。もう一人は、年配の兵士で、その目には疲労の色が浮かんでいた。


若い兵士は、マルクスという名だった。故郷に恋人を残しており、戦争が終われば、結婚する約束をしていた。年配の兵士は、グレゴリーという名だった。故郷に妻と子供がおり、戦争が終われば、家族の元に帰るつもりだった。


リオは息を殺し、彼らの背後に回り込んだ。足音は、泥に吸い込まれるように消えた。


「すまない……」


リオは心の中で呟き、剣を振ろうとした。その瞬間、一瞬躊躇する。人を殺したくない。だが進まなければならない。


リオは手を震わせながら、剣の切っ先をわずかにずらした。致命傷ではなく浅い切り傷だけをつける。剣が、マルクスの腕を掠めた。その瞬間、マルクスは驚いて振り返った。リオの心臓が、早鐘を打つ。


「何だ、お前は……」


マルクスの声は、霧に消えた。リオは、次の瞬間、グレゴリーの足に、浅い切り傷をつけた。


二人の兵士は、気づく間もなく切り傷を負った。浅い傷だったが、リオの力が発動している。治らぬ傷が、彼らの体に宿る。その瞬間、リオは「殺さない」という自分の意思を貫く方法を見つけ始める。


「この傷……治らない……」


マルクスは、自分の腕を見て驚いた。傷口からは、血が滲み出ていた。だが、その傷は、治らない。マルクスの目には、恐怖の色が浮かんだ。故郷に恋人を残しており、戦争が終われば、結婚する約束をしていた。その約束が、今、遠のいていく。マルクスは手を震わせながら、包帯を巻こうとした。その手の震えが、止まらない。


「何だ、この傷は……」


グレゴリーは、自分の足を見て驚いた。傷口からは、血が滲み出ていた。だが、その傷は、治らない。グレゴリーの顔が、青ざめた。故郷に妻と子供がおり、戦争が終われば、家族の元に帰るつもりだった。その家族の顔が、頭に浮かぶ。グレゴリーは目を閉じ、深く息を吸い込んだ。その呼吸が、体の奥まで届かない。


兵士たちは驚いて振り返ったが、リオは既に次の敵へと向かっていた。傷を負った兵士たちは、戦場を離脱しようとした。だが、その傷は治らない。後方で、治療不能の患者として扱われることになる。


リオは次々と敵の哨兵を切り裂いていく。数を数えようとしたが、すぐに止めた。数を数えることは、自分がどれだけの人を傷つけたかを知ることになる。それは、リオには耐えられなかった。


霧の中を進むリオの前には、次々と敵の哨兵が現れた。リオは、一人ずつ、浅い切り傷をつけていく。手が震える。心臓が、早鐘を打つ。だが、それでも進まなければならない。


「リオ、魔力塔は前方だ。あと少しだ」


ゼロの声が、リオの耳に届いた。その声は、霧に包まれていた。リオは振り返り、隊員たちを見た。隊員たちの目が、リオを見つめている。


エレナは記録を取りながら、リオの動きを観察している。その手には、魔導装置が握られており、リオの動きを記録していた。エレナの目には、科学者としての冷静さだけが浮かんでいた。だが、その手の動きが、わずかに早い。リオの力を研究することへの興奮が、指先に表れている。


三名の魔刀使いは、無表情でリオを見つめている。テオは、雷の魔刀を握りしめており、その目は虚空を見つめていた。コレットは、氷の魔刀を背負っており、その目は冷たかった。バルドは、重い盾を背負っており、その体は常に緊張していた。


「分かりました」


リオは魔力塔へと向かった。塔の周りには、多くの敵兵が配置されていた。リオは霧に紛れ、一人ずつ切り裂いていく。


切り傷を負った兵士たちは、戦場を離脱した。だが、後方の野戦病院では、治療不能の患者が爆発的に増えていた。


野戦病院の医師、アンナは、この傷が何なのか理解できず、困惑していた。アンナは、故郷に子供がおり、戦争が終われば、家族の元に帰るつもりだった。だが、この傷を治すことができず、アンナの心は重くなった。


「これは……感染症かもしれない」


アンナは、傷口を見て、そう言った。傷口からは、血が滲み出ていた。だが、その傷は、治らない。アンナは手を震わせながら、包帯を巻き直した。その手の震えが、止まらない。医師として、患者を救えない。その事実が、アンナの胸を締め付ける。


「隔離が必要だ。他の患者に移る可能性がある」


アンナの同僚、トーマスは、そう言った。トーマスは、故郷に妻がおり、戦争が終われば、家族の元に帰るつもりだった。だが、この傷を治すことができず、トーマスの心は重くなった。トーマスは目を閉じ、深く息を吸い込んだ。その呼吸が、体の奥まで届かない。治癒魔法も、薬も、何も効かない。トーマスは、自分の無力さを感じた。


敵司令部は、この異常事態を感染症と誤診した。そして、患者たちを隔離し、処刑を決定した。それは、自滅的な混乱を招くことになる。


リオは魔力塔の前に立った。塔は高く、頂上には魔力の光が輝いている。その光は、霧の中でも、はっきりと見えた。


塔の周りには、多くの敵兵が配置されていた。リオは霧に紛れ、一人ずつ切り裂いていく。


「リオ、塔の内部には敵兵がいる。気をつけろ」


ゼロの警告が、リオの耳に届いた。その声は、霧に包まれていた。リオは頷き、塔の中へと入った。


塔の内部は、薄暗い通路が続いていた。壁には、魔導灯が設置されており、その光が、通路を照らしていた。だが、その光は、薄暗く、リオの目には、ほとんど見えなかった。


リオは慎重に進み、敵兵を見つけるたびに切り裂いていく。通路には、敵兵が数名配置されていた。リオは、一人ずつ、浅い切り傷をつけていく。手が震える。心臓が、早鐘を打つ。だが、それでも進まなければならない。リオは足を前に踏み出した。


塔の階段を上るリオの足音は、静かだった。だが、リオの耳には、その音が大きく響いた。


塔の最上階に、リオは辿り着いた。そこには、魔力塔の核心がある。核心は、巨大な結晶で、その中には、魔力が渦巻いていた。


リオは剣を振り、核心を破壊した。剣が、結晶に当たった瞬間、大きな音が響いた。その音は、塔全体に響き渡った。


核心が破壊されると、魔力塔は、轟音と共に崩壊し始めた。リオは急いで塔を出ると、隊員たちが待っていた。


「リオ、無事か?」


ゼロが、リオに声をかけた。その声には、心配の色が浮かんでいた。


「ええ、大丈夫です」


リオは答えながら、自分の手を見た。血が付いている。それは、敵兵の血だ。リオは手を震わせながら、血を拭いた。その手の震えが、止まらない。


「作戦は成功だ。魔力塔の崩壊で、敵の補給線が寸断された」


エレナが記録を取りながら、報告した。その声には、科学者としての冷静さが浮かんでいた。


「リオ・アーデン、君の力は予想以上に有効だった。切り傷を負った兵士は、すべて後方で治療不能だ」


その言葉を聞いた瞬間、リオの胸が押しつぶされそうになる。治療不能――それは、死を意味する。リオは目を閉じ、深く息を吸い込んだ。その呼吸が、体の奥まで届かない。


「でも、僕は……人を殺したくありませんでした」

「これは戦争だ。君の力で、戦争を早く終わらせることができる。それが君にとっても救いになるだろう?」


エレナは記録を取りながら、そう言った。その声には、科学者としての冷静さが浮かんでいた。リオは反論できなかった。だが、それでもリオの肩が重い。リオは手を握りしめた。指先に力が入り、手のひらに爪が食い込む。


「リオ、帰還する。前線基地に戻ろう」


ゼロがリオの肩を叩いた。その手の温かさが、指先から腕へと伝わる。リオは、少しだけ息を楽に吸えた。


リオは頷き、隊員たちと共に前線基地へと向かった。


帰路、リオは後ろを振り返った。夜泣き沼は、霧に包まれていた。その中で、リオが切り裂いた敵兵たちが、治療不能の患者として苦しんでいる。


リオの胸が、押しつぶされそうになる。自分は人を殺している。それは、間違いない事実だ。リオは目を閉じ、敵兵たちの顔を思い浮かべた。マルクスとグレゴリーの顔が、頭に浮かぶ。


前線基地に戻ると、リオは仮設宿舎へと向かった。机の上には、シルヴァからの手紙が置かれていた。リオは封を切り、手紙を広げた。


「リオ、あなたの作戦のことを聞いたわ。夜霧の死神――そう呼ばれているそうね。でも、リオ、あなたは死神じゃない。あなたは人間よ。それを忘れないで。


シルヴァより」


その手紙を読み終えた時、リオの目から涙が溢れた。涙が、頬を伝う。


「シルヴァ……ありがとう」


リオは手紙を握りしめ、ベッドに横たわった。天井を見つめながら、リオは考えた。自分は人を殺している。それは、間違いない事実だ。


窓の外には、太陽が輝いていた。その光が、リオの手のひらに落ちる。だが、その温かさが、胸まで届かない。リオは目を閉じ、敵兵たちの顔を思い浮かべた。彼らは、まだ生きている。でも、いつか死ぬ。それは、リオのせいだ。


リオは手のひらを見つめた。その熱が、少しだけ和らいだ。でも、その温かさが、胸の奥まで届かない。リオは、この力を使い続ければ、どれだけの人が死ぬのだろう。その答えは、まだ見つからない。

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