第31話 〝減速vs.神速〟
構え太刀を見た瞬間に思った。
避けられない――と。
魔術紋に追加で魔力を注ぎ込み、皮膚の動きを極限まで遅くする。
刹那。
山をも切れそうな風の刃が、凄まじい速度で俺の体に到達した。
§
「――破れない、か」
上級魔術を持ってしても、ナギサの体に傷は付けられなかった。殴った感じからして、表皮は斬れると思ったのだが、見通しが甘かったようだ。
結果だけ見れば、ただ上衣を斜めに大きく切り裂いただけ。だが、これで減速の硬さを測ることができた。
神速を使うことができる――!
右足で地面を強く蹴り、ナギサに迫る。
ナギサは逃げようとしない。
神速を使われると思ってないのか?
「来いよ、ユアン」
オレの間違いを正すように、ナギサが言う。
上級魔術を防げたことで調子に乗っているのか知らないが、都合がいい。
さあ、決めよう。
最強の矛と最強の盾どちらが強いか――!
ナギサの間合いに踏み込む。
繰り出される拳。
オレはそれを避けると、魔術紋に大量の魔力を注ぎ込んだ。体に刻まれた魔術紋が唸りを上げる。
「――死ぬなよ」
「――ッ!」
直後、オレは神速を発動した左腕で、ナギサの腹に拳撃を打ち込んだ。
左拳は壊れていない。
ごく僅かにナギサの腹に食い込んでいる。
減速を破れた。
だが、まだ威力が足りていない。
神速は発動できてあと一回。
ならば――、
「――超神速」
身体強化を切らずに、左腕に神速を発動させる。拳が異次元な速度で加速し、
「拳――ッ!!」
ナギサの腹にめり込んだ。
§
ユアンの強烈な一撃を受け、俺の体は後方に弾き飛ばされていた。減速を発動しているのにもかかわらず、体が地面を転がっていく。
痛い痛い痛いいたい。
痛みで意識が飛びそうだ。
「あぁ……くそ」
――当たり前だ。
当たり前の話だった。
俺とユアンじゃ、才能に雲泥の差がある。
今まで、積み重ねてきた努力が違う。踏んだ場数も、強さへの執着も、何もかもが負けている。
今更腕を磨いたところで、実力の差は覆らない。無為に過ごした時間は戻らない。世界はオマエに都合よくできていない。
――普通のやり方で、ナギサ・グローティーがユアン・グラネルドに勝てるわけがなかったのだ。
「ナギサ」
俺の名前を呼びながら、ユアンがこちらに近づいてくる。痛む腹を、込み上げる吐き気を、根性で抑え込む。
「お前じゃ、オレには敵わない」
「確かに……そうだな」
地面に手を突いて、立ち上がる。
俺の言葉を受けて、ユアンが立ち止まった。
「――だから」
残りの魔力はごくわずか。
身体強化なんて夢のまた夢。
土弾さえも作れない。
体だって、もう満足には遅くできないだろう。
「今この瞬間に、お前を超える」
深呼吸をして。
全身に存在する血管の一本一本を意識する。
失敗したら死ぬかもしれない。
そんな恐怖で体が震える。
成功しても無事では済まない。
そんな不安で舌が痺れる。
――ああ、でも。
既にオマエは、コツを掴んでいるのだろう?
「――Mezzo Forte」




