表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
減速の冒険者  作者: 加ヶ谷優壮
第一章 〝二つの幻影〟

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/35

第30話 〝減速vs.〟


 ナギサが減速(リテヌート)を使えるようになっていた。

 その想定外の事実に、ユアンは顔をしかめていた。


「気に食わねぇな。なぜ最初から努力しなかった、ナギサァア!」


 一年も猶予があったのに……!

 最初からお前が本気を出していたら、オレたちは仲間でいられたのに……!

 どうして、どうして追放後(いま)なんだ……!?

 いま、なんだよ……?


「――――」


 ナギサは目を伏せて、答えない。

 ぶん殴ってやりたい衝動に駆られるが、深呼吸をして己を抑える。


 ――整理、しよう。

 ナギサが減速(リテヌート)を使えると判明した時点で、この戦いの様相は大きく変わった。


 力押しでは負ける。

 戦いで鍵を握るのは、いつだって思考力だ。理解しろ、分析しろ、推論しろ、判断しろ、創造しろ。常に最善の一手を考え抜け――!


 考えるべきは、やはり減速(リテヌート)についてだろう。魔力で強化したオレの拳を破壊するほどの硬さ……普通じゃない。


 神速(ディヴェロチタ)を使えばあの硬さを破れるかもしれないが、あれは最終手段だ。硬さの程度が正確にわからない以上、あれを直接肉体に叩き込むのは危険すぎる。


 減速(リテヌート)発動前の体に打撃をぶち込む……という案もあるが、これは現実的じゃない。今の魔力量では神速(ディヴェロチタ)を使っての移動はできない。身体強化のみで、ナギサの反応速度を上回ることは不可能に近いだろう。


 これらのことを踏まえると、事実上神速(ディヴェロチタ)の使用が封じられている今のオレに、肉弾戦で勝ち目はない。


 ならば、剣を使うか?

 いや、ナギサに抜剣する気配はない。

 それに、片手は壊れている。


 両手で剣を振れない以上、身体強化を持ってしても、あの減速(てっぺき)を突破することは不可能だろう。ナギサの肌の硬さに負けて、剣が折れるのがオチだ。


 と、なると。

 オレが取るべき最善の行動は――。



 §



 ユアンが後ろに跳びながら、風の刃を放つ。それを避けると、俺は再度ユアンに肉薄した。


 今の行動からして、ユアンは遠距離戦――魔術戦を望んでいる。目的は恐らく、魔術を使って減速(リテヌート)の防御力を測るため……。


 俺の体に神速(ディヴェロチタ)を使った拳撃を打ち込んでいいか、見極めたいのだろう。


 そう、これは殺し合いではない。

 お互い、敵は二年間一緒に苦楽を共にした相手なのだ。俺が感情的な理由でユアンを殺せないように、ユアンも俺を殺せない。


 この縛りは、一撃必殺の神速(チカラ)を持つユアンにとって非常に大きな枷となっている。


 だから、ユアンがその枷を外そうと動くのは納得がいく。しかし、その前に取れる選択肢がユアンには一つあったのではないか?


 減速(リテヌート)発動前の俺の体に拳を打ち込む。常人にはまず無理だが、神速で移動できるユアンにとっては、赤子の手を捻るようなものだろう。


 なのに、それをしてこない。

 ユアンがそれを思いつかないはずがない。

 まだ俺のことを舐めているのか?

 いや、片手を破壊されているのに、ユアンがそんな甘い態度を取るはずがない。


 まさか、本当に魔力が不足しているのか……? それとも、何かの作戦……? くそ、確かめる手段がない。考えても無駄か。


 とにかく、いま俺がやるべきことは一つだけだ。ユアンに魔術を使わせない。

 距離を詰めて、魔術の発動を阻止する。

 ユアンに枷を外された時点で、俺の勝ちは一気に遠のくのだから――!


「――ッ!」


 再度放たれる風刃。

 これは恐らく初級魔術。

 威力が低い。

 減速(リテヌート)で受け止めても、問題がないだろう。

 そう思った瞬間だった。


 神速(ディヴェロチタ)を使ったのか。

 ユアンが目にも止まらぬ速度の蹴りを、地面に叩き込み――、土砂を伴った突風が俺に向けて放たれた。


減速(リテヌート)――ッ!」


 わかっていた。

 予期していた。

 ユアンが神速(ディヴェロチタ)を使用しないのは、俺の体に対する直接的な攻撃だけだと。


 しかし、普通自分の家の庭をこんな風に破壊するか? できるか? イカれてやがる。


 突風は止まない。

 土や砂、石などが凄まじい速度で体に当たり続けている。全身の皮膚に発動している減速(リテヌート)を解除できない。


 咄嗟(とっさ)に目を閉じたせいで、ユアンの姿も視認できない。否、仮に目を開けていたとしても、こんな突風ではユアンの姿は見れないだろう。


 そんな時間が十秒近く過ぎ、突風が止んだ瞬間だった。減速(リテヌート)を解除しようとする俺を引き止めるように、


「――構え太刀(デビルズウィンド)


 ユアンが、風属性上級魔術を放ったのは。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ