第25話 〝血も凍る激戦〟
魔力枯渇。
ユアンの頭には久しぶりに、そんな言葉が浮かんでいた。
バジリスクとの戦闘、魔剣の在処までの移動、ロワボヨンボとの戦闘、三人組に接触するまでの移動と、その後の不意打ちと戦闘――今日一日であまりにも神速を使いすぎた。
今の自分に魔力があまり残されていないことを、ありありと感じる。この魔力量だとイドラを全身に発動させることは、もうできない。
神速での移動が封じられた今、あの二人と即座に決着をつけることは不可能になったと言っていいだろう。
逃げる、という選択肢が頭に浮かぶ。
さっきは反射的に攻撃を仕掛けてしまったが、もうオレに戦う理由はない。
――あの二人が、報復を考えない小心者であるのなら。
「やるしか、ねぇか」
二人の激情に駆られた表情を見て、ユアンがそう呟いた時だった。――世界が、砂嵐に包まれたのは。
§
ユアン・グラネルドの姿を覆い隠す様に、砂嵐が発生する。この現象を引き起こしているのは、アンバーのイドラ無駄弾――幻影を瞬時に作り出すことができる能力だ。
ただし作り出せるものには二つの条件があり、一つは魔術によって作られたもの。そして、もう一つはアンバー自身が見たことのあるものに限られる。
「――チッ」
あまりの視界の悪さに、ユアンが舌打ちをする。この土色の世界では、魔剣の剣先さえ見えやしない。
砂嵐の中にいるというのに、目が開ける。
呼吸が問題なくできる。
触覚も、聴覚も何も異常が見当たらない。
これは間違いなく幻影……!
四大魔術によるものなら風魔術で相殺できるが、これはあの白髪の能力。実体がない以上、打ち消すことは叶わない……!
どうやら砂嵐を止めるには、本体を倒すしかないようだ。とりあえず、ここから移動を――
「――ッ!」
全身に魔力を流し、空を切って迫ってきた茶色の袋を避ける。そして、その勢いのままユアンは幻影の範囲外を目指して走り始めた。
突如、頭を襲う冷たい感覚。
通り雨か? いや、違う――この臭いは血液だ……! 普通じゃない。間違いなく、これはあの眼鏡の――
「――凍血能力」
全身の血が触れた箇所に激痛が走る。
声を噛み殺し、走った。
眼鏡のイドラは恐らく、血を凍らせる能力だ。単純で助かったが、中々に強いイドラ。油断はできない。
砂嵐を抜ける。
白髪と眼鏡の姿が見えた。
幻影と現実の境目。
その足元に設置されていた血溜まりを避け、白髪に肉薄する。
「疾風刃!」
放たれた風刃を魔剣でいなし。
「業火放射――ッ!」
向けられた業火を風魔術で相殺する。そして、そのまま白髪の男の体を袈裟懸けに斬り裂いた。
びしゃり、と返り血が全身にかかる。
びしゃり、びしゃりと予想以上に多い返り血が――待て。
まさか――
「凍血能力――ッ!!」




