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減速の冒険者  作者: 加ヶ谷優壮
第一章 〝二つの幻影〟

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第12話 〝イドラ『固める意志』〟


 エルヴィスが土魔術とイドラを駆使して作り出した防壁が、カルフの風の刃を防ぎ切る。


「ヒヤっとしたわい……」


 そう言いながら、防壁から出てくるエルヴィス。やはり以前と比べて、動作が緩慢になっている。カルフの凍血能力(クリオキテシヌ)が効いているのだろう。


 ここぞとばかりに、三発目の土弾を放つ。だが、普通に避けられた。どうやら、俺の魔術じゃあの老人の気を逸らすことぐらいしかできないらしい。


 唐突に、エルヴィスが口を開いた。


「儂のイドラは固める意志(ペルセウスレフト)。見ての通り、手で触れたものを石にすることができるんじゃ」


「……どうしたんですか。急に自分の能力を明かしたりして」


「単に不公平だと思っただけよ。儂はお前さんらの能力を知っとるからなあ」


「つまらない嘘ですね。あなたみたいな人間が、そんなことを考えるわけないでしょう?」


 カルフと同意見だ。

 奇襲を仕掛けたこいつが、そんなことを気にするとは思えない。間違いなく、何か別の狙いがある。


「ほっほっほ。確かにその通りじゃ」


「――――」


「儂のイドラはなあ、気持ち次第で能力の質が変動するのよ。――要するに、危機に(ひん)すれば(ひん)するほど、儂は強くなるということじゃ」


「自分自身を追い込むために、能力を明かしたというわけですか」


 納得のいった様子でカルフはそう言うと、(ふところ)から血液袋を取り出した。エルヴィスはそれを見て、自身の右手を前に突き出す。今度は魔術で攻めるつもりか。


「避けるでないぞ? 大事な仲間が死んじまうかもしれんからな」


「――ッ」


 エルヴィスが何を言っているのか、カルフが何に悩んでいるのか、理解することができなかった。


 少し遅れて。

 ああ、そうかと理解する。


 カルフやエルヴィスは俺の能力を一回聞いただけだ。減速(リテヌート)の真価を理解できないのも当然だろう。


「カルフ、避けていい。一つ策がある」


 カルフの背中に、小声でそう声をかける。「わかりました」と言葉が返ってきた。


土巨砲弾(アースグスタフ)――ッ!」


 土属性の中級魔術――しかし、飛んでくるのは巨大な岩塊(がんかい)だ。左手から風を放出することで、カルフがそれを避ける。


 俺はそれが視界を埋め尽くす前に、右手を前に突き出した。


「――減速(リテヌート)


 言葉の通り、イドラを発動する。刹那、巨岩が俺の右手に衝突した。


 ――ああ、無理だ。


 右腕を弾き飛ばそうと巨石が荒れ狂う。俺の体を粉砕しようと、岩石が(たけ)る。だが、


 ――こんなものじゃ、俺に傷なんて付けられない。


 推進力を失った岩塊が、音を立てて地面に落ちた。俺はそれを見届けると、カルフの援護をしようとし――、自分の失敗に気づいた。


 見えない。

 巨大な岩に視界を遮られて、カルフやエルヴィスの姿を視認できない。


「――ッ」


 地面に手を突いて、立ち上がろうとする。だが、少ししか足に力が入らない。回復するには、もうしばらく時間がかかりそうだ。


 仕方なしに、地面を()う。

 早くカルフを援護できる場所まで移動してなくては。



§



 ――そういうことか!


 振り返り、ナギサが右腕一本で巨岩を受け止めている光景を見て、カルフは目を()いていた。


 わかっていた。

 理解していた。

 ナギサのイドラが減速(リテヌート)であることは。だが、まさかあれほどまでに体の動きを遅くできるとは、夢にも思わなかった。


 実際の能力が、言葉から受ける印象とかけ離れている。あの少年が、あまりにも自信なさげに自分のことを語るからだろうか。つい弱い能力だと勘違いしてしまった。


 ――めちゃくちゃ強いイドラじゃないか……!


 視線を憎き敵――エルヴィスへと戻す。どうやらヤツも、ナギサのイドラの実態に驚いているようだ。


 エルヴィスと目が合う。

 手に持っている袋を握り締める。

 走り、カルフは老人に血液袋を投げつける――フリをした。


 瞬間、エルヴィスの手の平から拳大の石が放たれる。袋を弾き飛ばすためのそれをカルフは避け、手に持っている袋の中身を自分自身にぶちまけた。


 血まみれになるカルフ。

 それを見て、老人の口から「――なにを」という声が漏れる。「簡単な話ですよ」とカルフが答えた。


「――これであなたは、僕に触れられない」



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