第10話 〝イドラ『 』〟
「いいですよ! マルコス、カルフ、異存はないですか?」
「あるわけねぇだろ!」
「僕も特には」
――ということで。
俺は『マルコス冒険団』に仮加入することになった。先陣を切って、俺は自分の能力をカルフやアンバーに説明する。
「減速ですか。面白いイドラですね」
「そ、そうですか?」
まあ、弱くはないけど……。
「俺的にはカルフの方が面白いイドラだと思いますけど……」
「そ、そうですか?」
俺と全く同じ反応をするカルフ。
鏡を見ているみたいだ。
「それで、カルフさんのイドラって、どんなのなんですか?」
「ええっと、僕のイドラは凍血能力と言って、自分の血液を一瞬で凍らせることができます」
自分の血液限定か。
条件が少し厳しいけど、普通に強そうなイドラだな。
「持っている魔力は風属性で、中級魔術も一応使えます」
「凄いですね、頼りにしてます」
「はい、頼ってください。僕もナギサさんを頼りにしてますから」
会話が終わり、俺はアンバーに視線を向けた。「ああ、俺の番ですか……」とアンバーが言い、続けて、
「俺のイドラは と言って……」
ネームレス?
名前が付けられていない、という意味だよな。いったい、どんな能力なんだ?
「まあ、能力は秘密です。俺のイドラはないものとして扱ってください……どうせ戦力にはならないので……」
なんだよそれ。
気になるじゃん。
俺は教えたのに、不公平だー。
「ああ、魔術はちゃんと使わせていただくのでご安心を……俺の魔力は火属性で、中級魔術までなら一通り使えます。ぜひ頼ってください……」
アンバーは最後に、そんな言葉を付け足した。マルコスやカルフが口を挟んでこないことをみるに、本当に戦力にならないイドラなのだろう。
余計に気になるが、人が秘密にしていることを無理に聞き出す趣味はない。さあ、頭を切り替えよう。何の依頼を受けようか――。
§
雲一つない青空の下、俺たちは平原を歩いていた。依頼書に記載されている待ち合わせ場所まで、あと少しだ。
今回俺たちが受けた依頼。
その仕事の内容は、依頼人を砂漠都市バルハートまで護衛するというものだ。
……バルハートか。
初めて行くことになるな。近くにある『原初の魔剣』の影響で、凶暴な魔物が多いんだっけ。
「なんか、急にめんどくさくなってきました……」
「やる気がないなら、帰ってもいいんですよ?」
「やめてください、カルフ。そんなこと言われると、俺本気で帰っちゃうんで……」
「安心しろ、アンバー! おれがそう簡単に帰らせると思うか?」
「冗談ですよ、冗談……」
そうは聞こえなかったけどな。
「なんか言いたそうな目ですね、ナギサさん」
「んなことないですよ。――あ、あの人が依頼人ですかね」
木の下に一人佇んでいる人影を見つけ、俺はそう声を上げた。断じて、話を逸らしたわけではない。
俺の発言に、同意の意を示すマルコスとカルフ。アンバーには無視された。
話をしながら歩を進めていくと、依頼人の容姿がはっきりと見えてきた。背の低い白髪の男――かなり年老いているようだ。六十歳、いや七十歳くらいだろうか。
老人は俺たちの存在に気づいたようで、しっかりとした足取りでこちらに向かってくる。
「こんにちは、エルヴィスさんで合ってますか?」
依頼人――エルヴィスにそう問いかけるマルコス。エルヴィスは「そうじゃ」と短く答えると、
「あんたらが『マラカス冒険団』かのう?」
膝蹴りしてもあまり音は鳴らなかったので、マラカスではないと思う。
「まあ、そんな感じです。本日からよろしくお願いします」
特に訂正もせず、話を進めるマルコス。必要な会話を終わらせ、バルハートに旅立とうとしたその時だった。エルヴィスが口を開く。
「ちっと待っとくれ」
「どうかしましたか」
「路銀を家に忘れてしまったようじゃ。近くだから、着いてきてくれんかのう」
「全然いいですよ」
「すまんのう」
エルヴィスはそう謝ると、きびきびとした動作で歩き始めた。そんなエルヴィスを護衛しながら歩く俺たち。
二十分ほど歩いたが、近くに家らしきものは見えない。見えるのは、大きな森だけだ。もしかして、
「森の中に家があるんですか?」
「そうじゃ。もうちっと我慢しとくれ」
森の中に入ると、ひんやりとした空気が俺たちを迎え入れてくれた。鳥のさえずりや、虫の羽音が聞こえてくる。木の匂いも印象的だ。
陽の光があまり届かない大きな森。
どこか不安になる気持ちを押し殺して、俺は前へと進んでいった。
「ここじゃ」
森の開けた場所に、エルヴィスの家があった。「ちっと待っとくれ」と再び言うと、エルヴィスは家の中に消えていった。
「森での暮らし、少し憧れますね」
「そうですか? 不便すぎて、一週間もすれば帰りたくなると思いますよ……」
カルフの呟きに、夢のない言葉を返すアンバー。何気なく、森を見回しているマルコスに視線を移した。
「なんか珍しいものでもあったのか?」
「いや、ここで戦ったら兄貴に勝てたかもしれないと思っただけっス」
確かに。
大木の重力の向きを変えて攻撃されたら、相手に防ぐ手段はないだろう。減速とみたいなイドラを持ってたら、話は別だけど。
「やってみるか?」
「嫌っス! 兄貴、容赦ないんで嫌っス!」
否定したかったが、否定できない。なんと言うべきか迷っていると、エルヴィスが家の中から出てきた。
「待たせて悪――」
言葉が途切れた。小石に躓いて、エルヴィスが派手に転んだからだ。
「大丈夫ですか!?」
エルヴィスに駆け寄る俺たち。
老人が顔を上げる。
「だ、大丈夫じゃ……」
マルコスがエルヴィスに片手を差し出す。「悪いのう」と言いながら、エルヴィスがマルコスの手を掴んだ。
老人が立ち上がる。
その時にはもう――、マルコスの体は石になっていた。




