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減速の冒険者  作者: 加ヶ谷優壮
第一章 〝二つの幻影〟

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第10話 〝イドラ『   』〟


「いいですよ! マルコス、カルフ、異存はないですか?」


「あるわけねぇだろ!」


「僕も特には」


 ――ということで。

 俺は『マルコス冒険団』に仮加入することになった。先陣を切って、俺は自分の能力をカルフやアンバーに説明する。


減速(リテヌート)ですか。面白いイドラですね」


「そ、そうですか?」


 まあ、弱くはないけど……。


「俺的にはカルフの方が面白いイドラだと思いますけど……」


「そ、そうですか?」


 俺と全く同じ反応をするカルフ。

 鏡を見ているみたいだ。


「それで、カルフさんのイドラって、どんなのなんですか?」


「ええっと、僕のイドラは凍血能力(クリオキテシヌ)と言って、自分の血液を一瞬で凍らせることができます」


 自分の血液限定か。

 条件が少し厳しいけど、普通に強そうなイドラだな。


「持っている魔力は風属性で、中級魔術も一応使えます」


「凄いですね、頼りにしてます」


「はい、頼ってください。僕もナギサさんを頼りにしてますから」


 会話が終わり、俺はアンバーに視線を向けた。「ああ、俺の番ですか……」とアンバーが言い、続けて、


「俺のイドラは   (ネームレス)と言って……」


 ネームレス?

 名前が付けられていない、という意味だよな。いったい、どんな能力なんだ? 


「まあ、能力は秘密です。俺のイドラはないものとして扱ってください……どうせ戦力にはならないので……」


 なんだよそれ。

 気になるじゃん。

 俺は教えたのに、不公平だー。


「ああ、魔術はちゃんと使わせていただくのでご安心を……俺の魔力は火属性で、中級魔術までなら一通り使えます。ぜひ頼ってください……」


 アンバーは最後に、そんな言葉を付け足した。マルコスやカルフが口を挟んでこないことをみるに、本当に戦力にならないイドラなのだろう。


 余計に気になるが、人が秘密にしていることを無理に聞き出す趣味はない。さあ、頭を切り替えよう。何の依頼を受けようか――。



 §



 雲一つない青空の(もと)、俺たちは平原を歩いていた。依頼書に記載されている待ち合わせ場所まで、あと少しだ。


 今回俺たちが受けた依頼。

 その仕事の内容は、依頼人を砂漠都市バルハートまで護衛するというものだ。


 ……バルハートか。

 初めて行くことになるな。近くにある『原初の魔剣』の影響で、凶暴な魔物が多いんだっけ。


「なんか、急にめんどくさくなってきました……」


「やる気がないなら、帰ってもいいんですよ?」


「やめてください、カルフ。そんなこと言われると、俺本気で帰っちゃうんで……」


「安心しろ、アンバー! おれがそう簡単に帰らせると思うか?」


「冗談ですよ、冗談……」


 そうは聞こえなかったけどな。


「なんか言いたそうな目ですね、ナギサさん」


「んなことないですよ。――あ、あの人が依頼人ですかね」


 木の下に一人(たたず)んでいる人影を見つけ、俺はそう声を上げた。断じて、話を逸らしたわけではない。


 俺の発言に、同意の意を示すマルコスとカルフ。アンバーには無視された。


 話をしながら歩を進めていくと、依頼人の容姿がはっきりと見えてきた。背の低い白髪の男――かなり年老いているようだ。六十歳、いや七十歳くらいだろうか。


 老人は俺たちの存在に気づいたようで、しっかりとした足取りでこちらに向かってくる。


「こんにちは、エルヴィスさんで合ってますか?」


 依頼人――エルヴィスにそう問いかけるマルコス。エルヴィスは「そうじゃ」と短く答えると、


「あんたらが『マラカス冒険団』かのう?」


 膝蹴りしてもあまり音は鳴らなかったので、マラカスではないと思う。


「まあ、そんな感じです。本日からよろしくお願いします」


 特に訂正もせず、話を進めるマルコス。必要な会話を終わらせ、バルハートに旅立とうとしたその時だった。エルヴィスが口を開く。


「ちっと待っとくれ」


「どうかしましたか」


「路銀を家に忘れてしまったようじゃ。近くだから、着いてきてくれんかのう」


「全然いいですよ」


「すまんのう」


 エルヴィスはそう謝ると、きびきびとした動作で歩き始めた。そんなエルヴィスを護衛しながら歩く俺たち。


 二十分ほど歩いたが、近くに家らしきものは見えない。見えるのは、大きな森だけだ。もしかして、


「森の中に家があるんですか?」


「そうじゃ。もうちっと我慢しとくれ」


 森の中に入ると、ひんやりとした空気が俺たちを迎え入れてくれた。鳥のさえずりや、虫の羽音が聞こえてくる。木の匂いも印象的だ。


 陽の光があまり届かない大きな森。

 どこか不安になる気持ちを押し殺して、俺は前へと進んでいった。


「ここじゃ」


 森の開けた場所に、エルヴィスの家があった。「ちっと待っとくれ」と再び言うと、エルヴィスは家の中に消えていった。


「森での暮らし、少し憧れますね」


「そうですか? 不便すぎて、一週間もすれば帰りたくなると思いますよ……」


 カルフの呟きに、夢のない言葉を返すアンバー。何気なく、森を見回しているマルコスに視線を移した。


「なんか珍しいものでもあったのか?」


「いや、ここで戦ったら兄貴に勝てたかもしれないと思っただけっス」


 確かに。

 大木の重力の向きを変えて攻撃されたら、相手に防ぐ手段はないだろう。減速(リテヌート)とみたいなイドラを持ってたら、話は別だけど。


「やってみるか?」


「嫌っス! 兄貴、容赦ないんで嫌っス!」


 否定したかったが、否定できない。なんと言うべきか迷っていると、エルヴィスが家の中から出てきた。


「待たせて悪――」


 言葉が途切れた。小石に(つまず)いて、エルヴィスが派手に転んだからだ。


「大丈夫ですか!?」


 エルヴィスに駆け寄る俺たち。

 老人が顔を上げる。


「だ、大丈夫じゃ……」


 マルコスがエルヴィスに片手を差し出す。「悪いのう」と言いながら、エルヴィスがマルコスの手を掴んだ。


 老人が立ち上がる。

 その時にはもう――、マルコスの体は石になっていた。



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