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減速の冒険者  作者: 加ヶ谷優壮
第一章 〝二つの幻影〟

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第1話 〝罪の具現〟


「ナギサ、お前はクビだ」


 何を言っているのか、全くわからなかった。

 いや、わからないんじゃない。

 俺の頭が理解を拒んでいるのだろう。


「もう一度言うぞ」


 かれこれ二年の付き合いだ。

 俺が話を聞いていないことを、ユアンはわかっているのだろう。だから、こうしてユアンは――、


「ナギサ・グローティー、お前はクビだ」


 決定的な言葉を、二度口にする。


「なんで、そんな……急に」


「――急に、だと?」


 ユアンとは違う、男の苛立った声が耳朶(じだ)に触れる。この声は、パーティーメンバーのグルトのものだ。グルトは俺を睨みつけながら、


「てめえ、それ本気で言ってんのか」


「本気も何も……俺がここで嘘をついて何になるんだよ」


「――本ッ当に、自覚がねえのがムカつくぜ」


 自覚がない?

 グルトはいったい、何の話を――


「いいか!? 昔とは違って、てめえはとっくにこのパーティーのお荷物なんだよ!」


 真正面から、グルトに指を突きつけられる。反射的に声を荒げそうになるのを堪え、俺は拳を強く握り締めた。


 ――グルトに言われるまでもなく、わかっている。俺がこのパーティーの足を引っ張っていることくらい……!


 だが、そんなことを感情的に言い返したところで、この状況は何も好転しない。いや、むしろ悪化の一途を辿るだろう。


 何としても、俺はこのパーティーを抜けるわけにはいかないのだ。


「……もう一度だけ」


「あ?」


「もう一度だけ、チャンスをくれないか? 心を入れ替えて頑張るからさ」


「ふざけてんじゃねえ! 一年も経って、まともにイドラも使えねえ奴の言葉を誰が信じるって言うんだ!? ああ!!」


 ――イドラとは、人間が『天の宝玉』という秘石を使うことで得る超常能力のことを指す。


 得られるチカラは、使用者の素質によって決まり、この世に同じ能力を持つイドラは存在しない。また、天の宝玉は一人につき一つしか使うことができない。


 そのため、冒険者として大成するためには、強力なイドラを手にすることが重要となってくる。俺が所属する冒険者パーティー『一刃(いちじん)の風』では、メンバーの五人全員がイドラを所持している。


 そして、俺以外の全員が強力なイドラの持ち主だ。筆頭すべきは、リーダーのユアン・グラネルドの能力だろう。


 この男のイドラは『神速』(ディヴェロチタ)。自分の体の動きを爆発的に速くすることができる能力だ。対して、


「強えイドラならまだ許せるさ! でも、てめえのイドラは減速(リテヌート)だろうが!!」


 一年前、俺が手にしたイドラは減速(リテヌート)。自分の体の動きを遅くすることができる能力だ。弱くもないし、強くもない――客観的に見て、そんな評価が妥当だろうか。


「――諦めはついたか? ナギサ」


 ユアンが、話を終わらせようとする。普段と何一つ変わらないその声で、俺を『一刃(いちじん)の風』から除名しようとする。


 その事実が、ひどく胸を穿(うが)った。


「……いや、俺は」


 その先の言葉が出なかった。

 何かを言わなくてはいけないのに、何も言うことができなかった。

 それは、つまり俺自身が――


「急な話だったのは、悪いと思ってる」


「ユアン! なんで、てめえが――!!」


「黙れ、グルト」


 そんな言葉と共に、ユアンの赤色の瞳がグルトを射抜く。数秒睨み合った後、納得のいかない顔でグルトはユアンから顔を背けた。


 ユアンが俺に向き直る。

 

「ナギサ。今のオレたちに、これ以上お前を背負い込む余裕はないんだ。だから、わかってくれ」


「……ラナは?」


「なに?」


 ユアンの声が鋭くなる。

 ――わかっている。

 これが的外れな主張だって、わかっている。

 でも、それでも、どうしても。

 感情が、抑えられなかった。


「ラナは、どうなんだよ!? こいつだって俺と同じで、ずっと(まも)られてるだけじゃないか!? それなのに、なんで俺だけ――」


 瞬間、ユアンの拳が俺の頬にぶち当たった。体勢が崩れ、俺は冒険者ギルドの床に倒れ込む。


 間を置かず、ユアンが俺の胸倉を掴んだ。近くで見る赤色の瞳には、軽蔑の色が浮かんでいて、


「ラナは治癒魔術師だ! 戦闘において、お前とラナじゃ役割が違う!! お前はもう、そんなことすらわからねぇのか!?」


「…………ごめん。今まで、世話になった」


 そう言葉を振り絞って、俺はユアンの手を胸倉から引き剥がした。



 §



 ふらふら、ふらふらと俺は街を歩き続けた。行くあても、目的もない。まるで、浮遊霊みたいに俺は街を練り歩いている。


 足取りが重い。〝クビ〟という言葉が、俺の背中にのしかかってくる。夢、夢だと思いたい。


 だが、熱を持っている頬が、無慈悲にもそれを否定してくるのだ。何度も、何度も。俺の心をハンマーで打ち砕くように。


 確かに、俺は初級の土魔術しか使えないし、剣の腕前もあんまりだ。でも、その代わりに誰もやりたがらない雑務を人一倍こなしてきたつもりだ。それなのに――、


「なんでっ、だよッ! 俺が、俺が悪いのかよ?」


 直後、問いに答えを返すように、突風が俺の頭を殴りつけた。


 ああ、本当はわかっている。

 一年も時間があったくせにイドラを使えるようになろうと、努力しなかった自分が悪いんだって。


 でも、頑張る気が起きなかった。

 そもそもイドラを使うのに、努力なんてものはいらないのだ。人が息をするように、鳥が空を飛ぶように、天の宝玉の使用者はイドラを使うことができる。


 それなのに、俺はイドラを使うことができなかった。――明らかに、才能が欠落している。


 だから、逃げた。才能のある者が次々とイドラを使いこなしていくのを尻目に、自分だけがマイナスをゼロにする努力を強いられるのがバカらしくなって、逃げたのだ。ああ、本当に――、


「笑えて、くるなッ……」


 すべて、全てが無駄だった。

 剣の鍛錬も、魔術の習得も、仲間たちと過ごしてきた時間も、この二年間の全てが徒労(とろう)()した。


「――クソっ、くそくそっ! クビにするならもっと早くクビにしろよッ!」


 あと、少しでAランク冒険者になれたのだ。それなのに、俺は今『一刃(いちじん)の風』に属していない。


 つまり、俺にパーティーのランクはなくなったのだ。今あるのは、ソロのFランクのみ。


 最底辺のFランク冒険者。――ニ年間やってきて、またスタートラインに戻ったのだ。


「クソっ、クソッ、クソ!」


「――アンタ、こんな所で何してんの?」


 地面に拳を打ちつける音に混じって、そんな声が鼓膜を打った。見上げると――、


「だれだ……オマエ」


「アタシは、クシェラ。Sランク冒険者よ」



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