回想3
よろしくおねがいします。
近くに人がいないか呼びかけてみたが、誰も反応しなかった。道があるから誰も通らないわけではないだろうが、先ほど遭遇したモンスターのことを考えるとこの場にとどまっておくことは考えられなかった。もちろん残る組と人を探しに行く組に分かれたほうが人と出会う確率をあげられることは重々承知だが、そんなことは誰も言わなかった。
「とりあえず、人がいる町や村を見つけられるかもしれないから進もうぜ」悠人は皆を鼓舞するように溌剌とした様子だった。
その言葉に引っ張られるように僕たちは歩き始めた。だがそう都合よく人には出会わなかった。道は地平線の彼方まで続いており、周りには何も無かった。そう何も無かった。
「おなかすいたなー」遥が突然声をあげた。
「そういや、この世界に来てから何も食べてないな」悠人は自分も同じ気持ちだということを告げた。
「私はそれよりも水がのみたい」唯は皆に聞こえるか聞こえないかぐらいのかぼそい声でつぶやいた。
それを聞いて全員の頭の中には若干の不安の影がよぎった。確かにお腹の空き具合は多少我慢できるが、天気も良く雲一つない青空の下、太陽の光が燦々と照り付ける道を歩き続けている僕たちの肌からは汗が噴き出している。口の中の水分は既に無くなりかけており、ねばついた感触がしている。それでも進む以外の選択肢が無く次第に口数が減っていった。
「そういえばさ、唯。水とか作れないの?」しばらく歩いて既に太陽は地平線の後ろ側に沈もうとしているときに遥が唯に聞いた。
「そっか・・・やってみる」そう言うと唯の掌に小さなコースターほどの魔法陣が出現し、そこからストローの太さほどの水がこぼれ出た。それを見て、遥は目を輝かせて手を入れ物にして喉を潤した。それに倣って悠人も僕も同じようにして水を飲んだ。そして唯は自身の手を口にもっていき直接喉に流し込むようにしていた。
「ふーようやく一息付けたな」悠人はそう言うが実際は全くそう思っていない様子だった。それも仕方無いだろう。悠人は常に僕たちを励まし続け、そのうえで一番前を歩いている。精神的にも肉体的にも疲れているに違い無かった。
「悠人、ちょっと僕のスキルを使おうか?」
「ああ、蒼空そうしてくれると助かる」僕は悠人にスタミナを貸した。
「ありがと、蒼空。でもよ一つ気になったんだけどこの今借りた分はどうやって返したらいいんだ?」
「多分だけど、僕が返してって思えば返すことになると思う。ごめんはっきりしなくて」
「いいよ、いいよ。でも返すのは後にしてもいいか?今、今日借りた分を返してしまうと多分しばらく動けなくなっちまうと思うからさ」悠人は申し訳なさそうに手を合わせて謝ってきた。
「いいよ、気にしないで。悠人はこうやって皆を引っ張ってくれてるし、遥は皆を回復してくれるし、唯は洞窟の中やさっき見たいに水も出してくれたし。僕にできることなんて皆のサポートをするぐらいしかないんだから、また今度でいいよ」
「すまんありがと。そう言ってくれると助かる」
「そうね。でも無理しないでね」
「私はもう少し貸してほしかった」唯の言葉に皆が笑った。
「唯、少しは遠慮しなさい」そう言って遥が唯の頭を軽くはたいた。だが唯は別に気にしている様子もなかった。4人で火を囲い順番に休んでいくことにした。
次の日、全員起きてまた歩き始めた。だがまた誰とも出会わない。
さらに次の日まだ誰とも出会えない。
そして4日目になっても食料問題は全く解決してなかった。周りにあるのは背の低い草だけ。動物の一匹もいない。試しに草を焼いて食べてみたが、渋みが凄まじく、無理して呑み込んでも体が拒絶し吐き戻してしまう。僕たちはかれこれ4日間何も食べておらず日中は太陽からの熱が降り注ぐ中歩いていた。そして食料が無くしっかりと休息が取れないためにスキルの回復も遅くなってきており、水問題も次第に顕著になってきた。そして集中力がかけており、普段絶対につまづかないような場所でつまづきケガをしてしまい、それを治すために遥はスキルを使い、日に日に全員が弱っていき気が付けば一日に進む距離も減っていった。そして遂に遥が倒れてしまった。
「おい、大丈夫か!」悠人が声をかけるが反応が無い。だが息はしており死んではいなかった。
「くそ、背負って進むしかねーか」悠人と僕とで交代しながら進むことになったが、結局それもその日一日続けることができなかった。僕たちもすぐに遥を背負って倒れてしまった。汗が滝のように流れ落ちる。
そして僕たちは全員が道に倒れてしまった。
「おい、お前ら大丈夫か?」上から声をかけられたが直ぐには反応できなかった。だがしばらくすると冷水を顔にかけられ意識がはっきりした。周りを見渡すと既に太陽と月が後退して地面を照らしていた。
「お前ら、大丈夫か?」そこには一人の老人が立っていた。
「何日も食べてなくて、何か食べ物を頂けませんか?」消え入るような声でそう伝えると老人はどこかに行ってしまった。そしてしばらくして目の前にパンと思わしきものが現れた。すぐにそれを口にくわえた。これまで食べたことのあるものの中で最もおいしいものは何かと聞かれたらこのとき食べたパンだと答えたくなるほどおいしかった。そしてパンに夢中になりながら周りを見ると老人他の三人にも声をかけてパンを恵んでいた。僕たちは無我夢中でかぶりついた。少し甘味のあるお茶を手渡されそれを呑みながら一分も経たないうちに全員食べ終えてしまった。そうして四日ぶりの食べ物を満喫した後に、老人にこれまでのことを話した。その話を老人は最後まで何も言わず聞いてくれた。
「そうか、お前さんら、運が良かったの」老人の口から出た最初の言葉はそれだった。
「このあたりは、普通の人があまり通らないんだ。通るにしても商人とかそんな奴らばっかりじゃ。わしはたまたま今住んでいる町の隣の町に用があったから行っており、その帰りってところでお前さんらを見つけたってわけだ。感謝しろよ」老人の言葉に俺たちは頭を下げた。
「だが、お前さんらの足では一番近い町って言ってもわしがすんどるとこになるが、後三日ほどかかるぞ。どうだ?大したことはない荷馬車だが後ろでよければ乗せていってやるぞ?」
その言葉を聞いて僕たちはかぶせるように頼んだ。そしてその後すぐに老人は僕たちを乗せて荷馬車を動かし始めた。但し条件として、盗賊から老人を守ってほしいとのことだったのでその依頼を引き受けることにした。どちらにせよ選択する余地など無いに等しかった。
そうして1日と少しした後老人が言っていた町にようやくついた。町に入りしばらく老人と共に行動して、その後宿を紹介してもらった。お金は必ず後で払うといったが老人は用心棒代だと言って気前よく全て奢ってくれた。そうして宿で老人が手続きをしてくれている間に出されたお茶を飲みながら今後のことについて話し合った。
「どうする?これから」悠人が先陣切って話始めた。
「とりあえずあの人の話を聞く限り冒険者ギルドとかがあるらしいから、私たちも登録して日銭を稼いで生活するしかないんじゃない?」遥が老人の話を思い出すようにしていった。
「私もそれがいいと思う。今は何も分からないし、こんな状況で何かするのは危険だと思う。だけどお腹は何もしなくても減るし、喉も乾く。だから当分はここでの生活を安定させるために働いて、きちんと土台を作ってから行動していってもいいかも」唯がこれまでにないほど喋っていた。
「僕も皆の意見に賛成かな。やっぱりしばらくは情報を集めることが最優先だと思うな。特にスキルについては僕たちが生き残るためには絶対に知っておかないといけないだろうし」それを聞いて皆、頷いた。
「そうだな、俺も皆の言う通りだと思う。特に蒼空が言ったようにスキルについては絶対に知っておかないといけないな。それと俺たちのスキルもおいそれと人に言わない方がいいだろな。何があるか分からないし」悠人の意見に全員が同意した。これから生きていくうえでスキルは重要な立ち位置になるのは間違いない。そんなことは今日までの出来事で感覚で理解していた。だからあの老人にもスキルのことは話していない。
「まあ、とりあえず今日は休んで明日からどうしていくかまた考えようぜ」悠人はそう言って残りのお茶を飲み干した。老人はそのすぐ後に僕たちに声をかけてきた。
「よし、お前ら終わったぞ。まあ疲れてると思うからしっかり休むんだぞ。それじゃあな」老人はそう言い残した後宿から出て行った。そうして僕たちはそれぞれの部屋に移り、これまでの疲れを癒すためにベッドに沈み込むように崩れていった。
ありがとうございました。