回想2
よろしくおねがいします。
「うおっ・・・・なんだこいつら」
僕たちの前にはムカデのようなモンスターが20匹ほどギシギシと音を立ててこちらを見ている。
「ひっ、きもすぎる・・・」遥が顔を青ざめていた。
「あれってムカデ・・・だよね」唯は自分が言った言葉に確信が持てないようなようだった。
「たぶん、そうだと思うけど・・・」僕は二人の声にこたえるようにそう言った。
「おい、三人とも!別にあれがムカデでもなんでもいいけど、あんなのに襲われちまったらひとたまりもねーぞ!」悠人は既に地面に落ちていた木の枝を握り占めていた。それに気が付いたのかムカデたちがガシャガシャと気味の悪い音を立ててこちらに近づいてきた。
「おら!」悠人が声を張り上げて腕を振り下ろした。だが何も起きなかった。
「ええ!?」悠人は驚いて自分の手を見ていた。
「ちょっと、なんで何にも起こんないんだよ!」だがそんな声もむなしくムカデたちが津波のように悠人の上に覆いかぶさろうとしていた。その瞬間、横にいた唯の手の先から小さな火球が打ち出されるのに、僕は気が付いた。そしてその火球は真っすぐムカデの津波に向かっていき、最も前に跳び出していた一匹の顔にぶつかると凄まじい轟音と共に周囲を一瞬で火の海にしてしまった。
「やった、ありがと唯!」遥が唯に抱きついていたが、遥の視線はまだ前を向いたままだった。
「遥・・・わたしより悠人を・・・」そう言って遥の視線を促した先には、ムカデと同じように黒焦げになった悠人が転がっていた。その様子を見て遥の顔から血の気が引いていった。
「ちょっと!唯、なんで悠人まで!?」遥は怒った様子だったが既に意識は無かった。
「とっ、とにかく遥、唯は僕が見ておくから、悠人の治療をしてあげて!」僕は遥に急かすようにそう言った。
「えっ!?私!?どうしろってのよ!」遥は少し混乱している様子だった。
「いや、遥なら回復できると思ったから・・・」僕の言葉に遥がはっとした顔をした。
「そうだった。私、回復させられるんだった」遥は急いで悠人の元まで駆けていった。僕は唯を連れて悠人の傍まで行った。すると既に回復が始まっており、黒く燃えた後が既に赤くなる程度までは戻っており、次第に元の悠人の見た目に戻っていった。
「うう、一瞬意識がとんで、なんか川が見えたぞ・・・」そう言う悠人の言葉を聞いて笑えなかった。
「大丈夫?悠人?さっきまで丸焦げだったけど、生きててよかった」僕がそう言うと悠人は引きつった顔をしていた。
「丸焦げ?俺が?」
「ああ、唯がムカデもろとも悠人を吹き飛ばしてそれで・・・」
「そうだったのか・・・ところで唯と遥は!?」悠人はまだ完全には納得できていない様子だったが直ぐに他の安否を確認するようにあたりを見回した。
「大丈夫だよ。悠人、唯は僕の後ろにいるし、遥はそこにって・・・遥!?」さっきまで座っていたはずの遥が倒れていた。
「おい、大丈夫かよ」悠人が声をかけたが反応が無かった。だが呼吸はしているようだった。
「多分、大丈夫だよ。二人とも。おそらくさっき話していたスキルのエネルギーが無くなったから意識がないだけだと思うよ。悠人もさっきそれが原因で何も発動できなかったんじゃないかな?」
「ああ、たぶんそうだと思うが、スキルってやっぱり、使いたい放題ってわけではないんだな。これからは気を付けて使わないといけないな」
「そうだね。今から僕のスキルを二人に使おうと思うけど、たぶん完全には回復させられないと思う」
僕が申し訳なさそうにそう言うと悠人がすぐに言ってきた。
「いや、でもそれでも何もしないよりは早く動けるようになるはずだろ?それで十分だよ」
「ありがと、よしそれじゃあ二人とも回復させてくるよ」
そう言って僕は悠人から視線を外し二人に目を向けた。そしてスキルを発動させ、自分の持っているスタミナやスキルを使うためのエネルギーを二人に貸した。
「よし、それじゃあそろそろ、そと目指して進むか」
遥と唯の様子を確認して悠人は一人歩き始めた。そしてしばらくの間、歩いていると次第に視界が明るくなってきた。
「おい、あれ外じゃね!?」一番前を歩いていた悠人が嬉しそうに後ろを振り返った。
「ほんとだ!」横にいた遥が悠人の側まで駆けて行った。それに続くように僕と唯も急いで二人の側まで駆け足で行った。
「よかった」安心したような声で唯がぽつりとつぶやいた。それを聞いて僕は深く息を吐きだした。どうやら自分で思っていた以上に気を張っていたらしく、急に全身に風邪をひいたときのような、気だるさが襲って来た。
「おい、蒼空大丈夫か?」悠人がこっちを見てくる。
「うん、大丈夫。それよりもほら、早く行こ」元気がある風に取り繕ってみたが駄目だった。
「ああ、あと少しだもんな。それじゃあ早く行こうぜ」僕の背中を叩き悠人と一緒に歩きはじめた。
そしてようやく洞窟の外に出ることができた。眼前にはただひたすら青青しい背の低い草花が生えており、新鮮な空気が肌を撫でるように吹いていた。
「やった!やっと出れた」遥は胸を大きくして深呼吸した。僕もそれに倣って同じようにすると、今まで鼻の奥にこびりついていた湿度の高い洞窟の空気と先ほどのモンスターが焼け焦げた嫌な臭いが洗われるようで、とても心地よい気持ちになり、何度も何度も繰り返し息を吸ったり吐いたりした。
「皆、気持ちよさそうなところ申し訳ないんだけどさ、この後どうするの?」後ろから唯がそう言った。
「ようやくあの洞窟から出られてよかったけど、まだ何も解決していないよ。このままだと食べるものもないし」
唯の言葉を聞いて高ぶっていた気持ちが沈んでいった。確かにこのままではそのうち干からびて死んでしまう。もし仮に食べ物が得られたとしても、何も分からないこの状況ではすぐに問題を抱えてしまうだろう。
唯の言葉を聞いて僕と遥は下を向いていた。だが悠人だけは違った。
「まぁ、確かにそうだけどさ。とりあえずは洞窟から俺たちは出られたし、何ならすげー力も手に入れられたじゃん。きっとどうにかなるよ。俺たち」
悠人の言葉に根拠も何も無かった。だけど今はその言葉にとても救われた気持ちになった。確かに僕たちなら4人なら何とかなるかもしれない。理由もないけど悠人の言葉にはそう思わせる何かがあった。
「とりあえずさ。止まっていても仕方がないし歩こうぜ。幸いにもほら、道っぽいものもあるしさ。多分歩いていたら誰かと会うだろ」
そう言って悠人は草原の端の方を指さした。
「ほんとだ。道がある」
「だろ?だから早く行こうぜ」そう言って悠人は自然と僕たちのリーダーとなっていった。
ありがとうございました