第96話 いつものヤツ
「おい、何してやがる」
(アレか。ヤるだけヤって、疲れ切って油断している相手を刺すタイプだったか)
未だプロディの思惑を誤解したままの研一が、ズボンに手を掛けているプロディの腕を掴んで止める。
「は? ですから謝罪を――」
「ああ、なるほどな。マキとかいう女に、自分の代わりに相手して、ご機嫌でも取って来いとか言われたのか」
無礼の対価を身体で償うのが暗黙の了解だと思っていたプロディが、心底驚いた表情を見せるが――
研一は、それを無視して言葉を捲くし立てていく。
「さすが国の党首ともなると演技がうめぇな。てっきりあの女は本気で俺に惚れてるもんだと思ってたぜ」
「ご、誤解です! マキ様は本当に貴方との逢瀬を楽しみにしておられて――」
「ああん? じゃあ何か。てめぇが自分の意志でやって来た挙句に、勝手に脱ぎだした変態女ってって事か?」
「……そうなります」
「はっ。俺も随分と舐められたもんだぜ。女を当てがってご機嫌の一つや二つでも取らなきゃ、契約も守らねえゴロツキだと思われてんのかよ」
「…………」
プロディは何も言い返す事が出来ず、黙り込む。
噂と態度で性欲で生きている変態男だと決め付けていたが、もし想像と違っていた場合は、トンデモなく失礼な事をしてしまった事に気付かされたからだ。
「そもそもだなあ。自分の身体が詫びになるほど、価値があると思ってんのが、最初から間違ってんだよ」
プロディが考え込もうとする気配を感じて、研一は咄嗟に話題を変える。
サラマンドラ国での研一はプロディの想像通りの女に見境ない変態男として扱われているし、そういう風に振る舞っているが――
ドリュアス国では脅すような形でテレレに手を出しこそしたが、契約自体は守る男みたいな形に落ち着いた。
(この辺の話は深掘りされると、こっちも色々マズイからね)
その辺の噂のズレとかから自分の本心がバレてしまっては、悪感情を持たれる事に支障が出るかもしれないし――
協力してくれたベッカやテレレにだって、迷惑が掛かってしまうかもしれない。
「自分から股開いてくるアバズレなんて、商売女よりも価値なんてねえんだよ」
それならば余計な事を考えさせない為に。
必死で研一はプロディへの罵倒の言葉を絞り出していく。
「……それでは貴方は、マキ様の身体には国を救うだけの価値があるとでも?」
だが、どうやら本人への罵倒では、プロディのダメージにはならないらしい。
むしろ落ち着きを取り戻したように、冷静な視線で研一を探るように観察する。
「はっ。笑わせんな。あんな貧相な身体に、んなモンある訳ねえだろ」
ならばとばかりに研一は、標的をプロディからマキへと変える事にした。
見た目からしてメイドっぽいし、主であるマキを貶した方が効果は高そうだと思ったから。
「ツラだけなら良い感じだってのに、栄養失調かって言いてえくらい痩せぎすで、チチもケツも貧相。あんな抱き心地の悪そうな女、滅多に居るもんじゃねえよ」
「で、でしたらどうしてマキ様を!」
「そりゃテメェ、身体以外の価値があるからに決まってんだろ」
研一の推測通り。
慌て始めるプロディの様子に狙い通りだと確信し、研一は更に言葉を並べていく。
「さすがの俺様も呼ばれた以上は国の事、少しは調べるんでな。これでも知ってるんだぜ? マキ様の偉大な偉大な功績ってヤツをさ」
そして、研一は事前に調べたマキの所業をプロディに伝えていく。
マキの両親が統治していた頃のマキーナ国は王政というか、魔力至上主義の独裁国家であり、魔力の強い者が自分より弱い者を家畜や虫けらのように扱うような国であったが――
マキは自分の父親を打ち倒すと同時に、王政を廃止。
強さだけで横暴がまかり通っていた法を整備していっただけでなく、自らは暮らしを豊かにする発明を次々に生み出しただけでなく――
そこで生み出された機械の整備などの仕事を作る事で、今まで魔力がなく活躍の場のなかった国の人材を発掘。
傭兵稼業以外に経済を回す手段がなかったマキーナ国に機械文明を作り出し、たった数年で世界有数の国力を持つ、雷と機械の国と呼ばれるまでに発展させたのだ。
「はっきり言って立派なんて言葉じゃ足りねえな。お涙頂戴の感動モンだよ。俺みたいな神様から力貰っただけの糞野郎からすりゃあ、尊敬なんて言葉すら生温い。畏れ多いって言葉でも足りないくらいの所業だぜ」
「えっと……」
プロディが信じられない想いで言葉に詰まる。
というのも、研一と会った時の周囲のマキへの態度から解かるように。
マキーナ国内では、未だ魔力至上主義の派閥が強く、マキの評価なんてプロディのおまけとしか思われてないのが現状だ。
それを国の代表である党首相手に、国を救ってやるから抱かせろなんて開口一番に告げるような粗暴な男が、誰よりも評価してくれている。
これで驚くなという方が無理な話だろう。
「そんな立派な女をよ。好き放題に汚した果てに壊せるんだぜ? 最高だと思わねえか?」
「なっ!?」
だが、それで研一を見直す暇もなく。
むしろ見下げ果てるような言葉が飛び出して、プロディは今度は怒りで言葉が出なくなる。
「解かるか、この快感が? 苦労して積み上げてきたモノを叩き潰して台無しにしてやる瞬間。芸術家が苦労して完成させた絵を、目の前で破り捨ててやるのに似た優越感。想像するだけで今から堪らねえってもんだよ」
「き、貴様……」
「自分から股開いてケツ振るような奴からじゃあ、ここまでソソられねえ。必死で努力して積み上げて、それを俺みたいに何の努力もしてない奴が横から掻っ攫って、台無しにする。そこからしか得れねえ栄養ってもんがある。解かるかぁ、ビッチ女?」
「殺してや――」
もう研一に丁寧に接したくもないのだろう。
殺意を隠しもしない言葉と共に、プロディが研一に襲い掛かろうとする。




