第83話 茶番劇場
「そんな事出来る訳ないでしょう! このドリュアス国の党首なのですよ!」
この研一からの提案に、一番驚かされたのは、サーラであった。
研一は気付いてないが、サーラは研一が女狂いの変態男じゃないなんて知っている。
「大体、今回魔族を一番倒してドリュアスを守るのに最も貢献したのは私でしょう! 約束しましたよね、功績に応じて用意するって!」
「ああ、そうだな」
「だったら、そもそも今回はそんなに活躍してないじゃないですか!」
だから、女を渡されても困る研一としては、この辺の話を上手く絡めて、自分から辞退してくるものだと予測していたのに――
それなのにテレレを欲しがる事に、訳が解からない事にプラスして、ちょっと女としてムカ付いていた。
――それこそ自分を求めてくれるなら、口では仕方なさそうにしつつ、大喜びで研一の相手をしていただろう。
「だからじゃねえか。俺だってそこまで恥知らずじゃねえ。この程度の活躍で女を融通してくれなんて言っても姫様が首を縦に振ってくれない事くらい解かる」
「いや、だから何でそこでドリュアスの党首ならいいって話になるんですか!」
訳が解からないとサーラは、頭を抱えたくなる。
それこそ文句も言えないくらい大活躍した上でないと、要求する事さえ出来ない話だろう。
「そりゃあお前みたいな頭の固い癖に自分から誘ってくるような尻軽女と違って、そこのテレレは、実に話が解かる可愛い可愛い女だからに決まってるだろ」
そこで研一は、意味ありげにテレレに視線を向ける。
それは酷く品のない欲望に歪んだ表情であり、一言で言えば、とても悪人面であった。
(えっと?)
テレレが、どう反応していいか解からずに戸惑う。
ここで研一が最高のイケメン面でもして、「そりゃあテレレが俺にメロメロだからな」とでも言っていれば――
その通りだと頷いて、だから離れたくないとでも宣言してれば済んだ。
後は自分の居なくなった後の始末を、サーラに任せる為の話し合いをしていくだけでよかったのに――
(なんでそんな全力の悪人面をする必要があるの?)
研一が何を考えているか、さっぱりテレレには解からない。
けれど、意味もなく頑張って悪人面を作る必要はない。
研一に何か考えがあるのだろうと信用し、流れに身を任せる事にする。
けれど――
「本当に話の解かる女だったぜ! お前を犯させないなら、目に付いた女を片っ端から犯してやろうかなんて考えるだけで、すぐに俺達を隔離してな。後はトントン拍子さ!」
「なっ!」
あまりに想定外の言葉が飛び出して、思わずテレレの口から驚きの声が漏れる。
完全に訳が解からなかった。
「いやあ、健気なもんだったぜ。テメェが俺に抱かれた次の日だけは、協力して言う事を聞いてやるって提案したら、毎日毎日、自分から俺のテントにやってきてよ」
「……」
サーラも急に何を言い出してるんだとばかりに、目を白黒させる。
それも当然と言えば当然だろう。
「マジで最高だったぜ! 党首だって言うから経験豊富かと思ったら、まさかの初物。それなのにこれで皆の事を助けてくれるんですねって、痛みで半泣きになってる癖に、自分から腰振ってくれるんだぜ? もう堪らねえよ!」
こんな事を喚き散らされて。
はいそうですか、お好きにどうぞとテレレを連れて行っていいという話になる訳がない。
むしろ、友好国の党首であるサーラとしては、是が非でも止めなければならない状態になったと言えるだろう。
「しかも心配させる訳にはいかねえからって、表では俺にベタ惚れの演技までするとか、いやあ、涙物だったぜ、あれは。ここまで健気だとさすがの俺様も面倒だとは思ったが、仕方ねえから話合わせてやったよ」
それ以前に、だ。
サーラもテレレも研一は、こんな事していないし、思ってもいない事くらい解っている。
それなのに本当にそういう事があったとしか思えないくらい、スラスラと勢いよく話しているもんだから呆気に取られ――
全く反応出来ずに居た。
「けど、それはそれで情欲を掻き立てるって言えばいいのかね? 表では惚れてる振り。裏では嫌で嫌で仕方ない。さすが策略家で知られるドリュアス国の党首様だぜ。男を興奮させるツボってのを抑えてやがる!」
「研一、何を言って――」
それでも、さすがに時間が経ってくれば、落ち着きを取り戻してくる。
これ以上、研一に変な事を言わせてはならないと、テレレが静止しようと口を開いたが――
「さすがに全部バラされてまで、ダーリン呼びは続けられないわよね」
それを邪魔するようにロザリーが言葉を被せる。
「民の為だからって、よくあんな寒い演技続けてたもんだわ。私には無理。まあ、悪巧みで生きているような女だし、心にもない事くらい平気で言えるってもんかしら?」
かと思えば、更に捲くし立てるように言葉を重ねていき、テレレにそれ以上、話させない。
いいから暫く、黙って見ていろと言わんばかりに。
「大体さあ、泣くような事? 股開いて腰振ってるだけで、救世主様のおこぼれに預かれるのよ? 面倒臭い仕事とかも一切しなくて済むし、楽なのが一番でしょ?」
「だよなあ。物分かりのいい女は好きだぜ、ロザリー」
もはや場は完全に、研一とロザリーが制していた。
恥も外聞もなく、ふざけた事を喚き散らす二人に周囲は理解が追い付いてないとばかりに混乱した様子で、どうすればいいのかと周囲を見渡してオロオロする事しか出来ていない。
「それに口では嫌だって言っても、もう身体が俺の事忘れられねえだろ? 今後も可愛がってやるから――」
そんな中、研一が仕上げだとばかりに、今日最高の悪人面を見せたかと思うと――
舌なめずりをしながら、テレレへと手を伸ばす。
その瞬間だった。




