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憎まれ救世主 ~優しき青年が授かったのは、憎まれる程に強くなる力~  作者: お米うまい
第七章 マニュアルちゃん

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第76話 八つ当たり

「アンタ、生きてて……」


 ロザリーは突然のゲスタブの出現に驚きを隠せず、ただ思った言葉が口から漏れる。


 それも仕方ない事だろう。


 テレレからドリュアスを魔族に売り渡そうとした男達の話は聞いており、ゲスタブも魔族に殺されたと聞いていたのだから。


「ああ。俺様も驚いているぜ。魔族の糞野郎に腹を貫かれて、俺自身、死んだと思ってたからな。何で生きてるのか、俺だって解からねえ」


 本来ならば、ゲスタブは間違いなく死んでいた筈だった。


 ただ、数時間以内の怪我ならば四肢欠損ですら再生させてしまうドリュアス国でも最大の回復効果を持つ薬の原料となる池に落ちた事。


 そして、ゲスタブ自身がドリュアス国の人間であり、その薬を作る為の力を潜在的に持っていたという二つの偶然が重なった。


 その結果、自らの魔力で回復薬を作り続けたような状態になり、何とか死なずに済んでいたのだ。


「まあ、あえて言うなら神様とやらに愛されてるんだろうよ。なんせ、生きてただけじゃねえ。目が覚めたと思った瞬間、あの調子に乗ったガキのお仲間が眼の前に居たんだからな」


「調子に乗ったガキ?」


「救世主のクソガキに決まってんだろうが! 偶々、力貰っただけの癖してイキがってる、あのゴミクズだよ!」


 ロザリーの反応が何か気に喰わなかったのか。


 急に叫び始めるゲスタブに、ロザリーは内心だけで冷や汗を流す。


(ヤバイ。コイツ、前からマトモじゃなかったけど、今は本当にキまってる……)


 よく見れば目は血走って狂気を宿しているし、捕まっているマニュアルちゃんは、いくら逃がさないようにしているとはいえ、大分力を入れ過ぎているように見える。


 もし捕まっていたのがセンかロザリーなら、骨の一つや二つ折れていただろう。


「アイツさえ来なきゃ、テレレもドリュアスも全部全部俺の物だったんだ! それを後からしゃしゃり出て、何もかも無茶苦茶にしやがって!」


「くっ、うぅ……」


 苦悶の声を上げるマニュアルちゃんに気付く事も無く。


 ただ怒りのままに、ゲスタブの叫びが周囲に木霊していく。


「でも、神様ってのは粋な事をするもんだ。ただ俺を生かしただけじゃなく、復讐しろってばかりに眼の前に、こんな餌を用意してくれるんだからな!」


 言葉と共にゲスタブは腕の中に居るマニュアルちゃんに、視線を向ける。


 そこには人に向ける気遣いというモノが一切なく――


 ただ昏く激しい欲望だけが込められていた。


「お前等が帰って来ないってなったら、あのクソガキもテレレも絶対に様子を見に来るだろうからな。そこに俺に犯されてぐちゃぐちゃになった死体が転がってたら、あの調子に乗ったガキもテレレも、俺を舐めた事を少しは後悔するだろうよ!」


「そんな事させる訳っ!」


 ゲスタブの言葉を聞くと同時に、ロザリーが躊躇なく魔法を発動させる。


 周囲の植物が一斉に蠢き、ゲスタブの身体を貫こうとするが――


「はっ、邪魔すんじゃねえよ!」


 ゲスタブはマニュアルちゃんを羽交い絞めしたままの態勢で、魔法を発動させる。


 植物を操るドリュアスの魔法は、魔力が強い者の方が植物を操作する支配権が強い傾向がある上に――


 ロザリーは戦闘よりも、薬の精製が専門なのが災いした。


 ゲスタブを襲おうとしていた植物達が、反旗を翻したようにロザリーに襲い掛かり、瞬時に動きを封じてしまう。


「くっ、こんな奴が何で凄い力を――」


「テメェ程度の魔力で俺様に勝てると思ったか? 俺様はドリュアス国で最強の男だぞ!」


 枝や蔓で雁字搦めになり悔しげに睨み付けるロザリーに、ゲスタブは勝ち誇ったように笑うと、捕まえたままのマニュアルちゃんの服に手を掛ける。


 そのまま力任せに引っ張るようにして、乱暴に服を破り捨てた。


「このクズ!」


 傷一つない白い肌に、幼さを感じさせる凹凸に乏しい流線型な身体。


 まるで精巧に作られた人形のような美しさを持つ、マニュアルちゃんの裸体が白日の下に晒される。


「はっ、てめぇにクズ呼ばわりされる謂れはねえよ。ドリュアスを追放された罪人の癖して、どの面下げて俺に文句言ってんだよ」


「罪人って……」


 そこで読心の能力でゲスタブの憎悪を全て感じ取ってしまい、あまりの気持ち悪さに何も言えずに居た、センの声が上がる。


 ようやく気持ち悪さに慣れて耐えられるようになった所に、印象的な言葉が飛び込んできて、声が出てしまったのだ。


 ――センから見れば、ロザリーは何だかんだで優しいお姉さんでしかなく、罪人という言葉が結び付かなかったのだ。


「はっ、何だ、テメェら、知らなかったのかよ。こいつはお笑いだな!」


「やめて! 今は私の事なんて関係ないでしょ!」


「コイツの親はなあ、元々はドリュアスの重鎮でテレレを支える立場だったんだよ! それがテレレを殺して自分達で実権を握る為に、ドリュアスの秘伝を他国に売り渡そうとしやがったのさ! テレレを殺せば、重鎮達だけが知っているドリュアスの薬の秘密を、その国だけに教えるっつってな!」


「くっ……」


「けど、国の刺客共はテレレに返り討ちにあって皆殺し。お前も本当は両親諸共、処刑になる筈だったってのに、暗殺の事は何も知らねえのに殺すのは忍びないって、偶々滞在していた当時はサラマンドラ国に引き取られたんだよなあ!」


 まだサーラの両親は健在で、サーラと共に処刑の場に居たのだが――


 本人は悪い事なんてしてないのに、親の罪に巻き込まれて殺されるのは可哀想だとサーラが嘆願した事。


 そして、サーラの両親も自分の娘と同じ年齢の娘子が、処刑されるのは忍びないと言って、ロザリーを引き取ったのだ。


「忘れられる訳ないじゃない……」


 本当なら、そこで死んでいた。


 それを助けられただけでも、感謝なんて言葉では言い表せない程の想いを抱いたのに――


(罪人の子だからって監視を付けるどころか、私の薬の精製能力を高く買って、私をサーラ様お付きの従者にまでしてくれた)


 だからこそ、ロザリーはサーラに命を懸けて忠誠を誓っているのだ。


 成功すれば処刑されると解っていても、研一の殺害を目論んでしまう程に。


「だよなあ! それじゃあコレも知ってたか? そんな都合よく、別の国のお偉いさんが処刑の日に国に居て、助けてくれるなんて都合が良過ぎだろ。ありゃあ、本当はテレレがサラマンドラ国に頭を下げて、計画してた事だったんだぜ! テメェみたいな無価値の罪人のガキなんかの為に、手間暇掛けてなあ!」


「なっ!」


 けれど、更にロザリーが知らない情報がゲスタブの口から飛び出した。


 言われてみればおかしい話だ。


 身内の、それも重鎮の裏切りなんて国の恥でしかない。


 そんな者の処刑を隠すでもなく、他国の党首の滞在中にわざわざ執り行う意味なんてないだろう。


「気付いてたぜ! てめぇ、テレレの事を一応は様付けで呼ぶようにしてたが、内心では恨んでただろ! 大方、助けてくれたサラマンドラの党首とでも比べてたか!」


「…………」


 別に恨んでは、いなかった。


 けれど、いくら立場があるとはいえ、問答無用で処刑にしようとしてきたテレレに思うところがないと言えば嘘になるし。


 優しいサーラと比べれば冷たい人だと思っていたのは否めず、ロザリーは黙って目を逸らした。


 ――だからこそ、ロザリーは一度もテレレとは口を利いていなかった。


「そうだよ! そういう顔をあのクソガキにもさせてやりてえのさ!」


 この暴露には何の意味もない。


 ただ生まれながらに特別で偉大な自分に、身の程知らずに刃向かおうとして罪人を、ゲスタブが凹ませたかっただけ。


「お前もクソガキも思い知るがいいさ! 俺様を舐めたらどうなるかってな!」


 そうして、ゲスタブがマニュアルちゃんを押し倒そうとした瞬間だった。

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