第65話 時には強引に
「大体てめぇが現れなきゃ何もかも全部上手くいってたんだ! 男達と話だって付いてたんだよ! 俺の言う事を聞きさえすれば、テレレ以外の女は好きにしていい! 代わりに俺の分の魔物を狩ってくるってな!」
だから、自分が悪いなんて発想は出て来ない。
その恵まれた魔力を使って、最低限の仕事だけでもしていれば、テレレなら受け入れてくれていた筈なのに。
何もしてこなかった自分が悪いと気付く事も出来ず、他の人間に責任を押し付ける。
「……そうだ。てめぇも協力しろよ」
あまりに自分とは掛け離れた思考に、反応する事すら出来ない研一に気付く事も無く。
更にゲスタブは、言葉を続けていく。
「てめぇが居れば良い子ぶって俺に協力しようとしねえ他の連中だって、逆らえなくなる。テレレだって文句も言えねえぞ」
「……」
「それでテレレも他の女も俺とお前で共有すりゃあいい。それで要らねえ女だけ他の男には下げ渡してやりゃあいい。これで俺の完璧な計画を邪魔した事は許してやる」
「…………」
「な? うめぇ話だろ? これで全部水に流して仲良くしようじゃねえか」
(……本当。この手の連中は、どこの世界でも似たような事を言うよなあ……)
ようやくゲスタブの言葉の意味を研一が把握し始めた頃には、更に訳の解からない事を喚き散らしていた。
仮に研一がゲスタブに匹敵するロクデナシであったとしても、受ける理由がどこにもない。
提案と呼ぶには、あまりにゲスタブだけに都合の良い妄想の言葉。
(これでもう、迷う理由なんてどこにもない)
テレレの言葉に研一は、自分の感情だけで介入していいのか本気で悩んだ。
確かに国の為を思うなら、ただ自分がテレレに犠牲になってほしくないなんて感情だけで無責任な事をしてもいいのか、と。
(コイツは駄目だ。テレレの伴侶としても、国の上にも立つべき人間じゃない!)
もし魔族から国を守る為にテレレが身を捧げていると聞いた瞬間、激怒して殴り掛かってくるくらいにテレレの事を想っている訳でもなければ――
国の未来を考える心も無ければ、国を豊かに出来そうな政治手腕さえ見当たらない。
「話にならねえ。口先だけで偉大な偉大な救世主様を顎で使おうとか、頭に蛆でも湧いてんじゃねえか?」
ゲスタブからの提案とも言えない妄言を思案する素振りも見せず、にべもなく研一は断りの言葉を告げる。
その勢いのままに、ずっと自分の背中で黙り込んでいたテレレの方に向き合うや否や――
「この国もテレレも全部、救世主である俺様にこそ相応しい。お前にゃ勿体ねえよ」
ゲスタブに見せ付けるように肩を抱き寄せる。
肩よりも腰を持って抱き寄せた方がそれっぽいとは思ったが、テレレに助けなんて必要ないと言われたのを無視して、来てしまったのだ。
今までは黙って成り行きに身を任せてくれていたが、ここで必要以上に密着して、拒絶でもされては、今までの全てがぶち壊れてしまう。
「……言われてみればそうね。アナタみたいな口だけで甲斐性無しの男に比べれば、少なくとも魔物を退治してくれるこの人の方が、よっぽど国を任せられるし――」
けれど、そんな研一の心配は杞憂だったらしい。
こんな見せ付け方じゃあ甘いとばかりに、テレレは研一の首に手を回すと――
「救世主様との子の方が、よっぽど強い子が生まれそうだもの。掟に関してもこの人の言うとおりだし、アナタに拘る理由なんてなかったわ」
研一に絡み付く程に密着して、冷めた目をゲスタブに向けた。
「う、嘘だろ。なあ、テレレ。俺は国で一番魔力を持ってる男なんだぜ? お前に相応しい男なんて俺以外に――」
用無しの役立たずだから、さっさと消えて。
そんな言葉が聞こえてきそうなテレレの視線に、ゲスタブがショックを隠せないとばかりによろめき、縋るように手を伸ばす。
けれど――
「ゲスタブだっけか? そんなにテレレが欲しいんなら俺様から奪い取ってみろよ。その後自慢の国一番の魔力とやらでさ」
「てめぇ……」
言葉と共に研一が魔力を全開にし、睨み付けた途端に動きを止める。
かと思うと、憎々しげに研一を睨み付けるが――
「なんだぁ、その反抗的な目は? 納得いかねえって言うなら、掛かってこいよ。俺様に勝てるってんなら、誰も文句言わねえ。国もテレレもお前のもんだぜ?」
「ち、ちきしょう! お前さえ居なければ。お前さえ居なければ……」
どうやら魔力の差を見せ付けられて心が折れたらしい。
全てを諦めたように膝を付くと、うわ言のようにブツブツと研一への呪詛を吐き出す事しか出来ないようだった。
「役立たずの置物は置物らしく、大人しくしてろ。今度、身の程知らずに俺の物に手を出そうとしてたら消すぜ?」
「もう掟で守ってあげる理由もないからね。もし今度、身勝手な事をしてたら追放だけで済むとは思わないで」
最後に研一達はゲスタブにテレレ以外にも手を出せば、容赦しないと釘を刺し。
二人で寄り添ったまま、二人はもう興味がなくなったとばかりにゲスタブに背を向けて歩き出すが――
「それじゃあ、今日も楽しませてもらおうか」
「……ええ、解かったわ」
最後に、これ見よがしに呟いて、テントを後にした。
ゲスタブ一人が残されたテントの中。
「ちくしょう。アイツさえ、アイツさえ、居なければ……」
誰に聞かせるでもなく。
呪詛のような声だけが漏れ続けるのであった。




