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憎まれ救世主 ~優しき青年が授かったのは、憎まれる程に強くなる力~  作者: お米うまい
第五章 テレレとゲスタブ

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第64話 正当性

(余計なお節介どころか、ただの自己満足でしかない事くらい解ってるさ……)


 背中からテレレの戸惑いを感じながら、それでも研一はゲスタブの前に立ち塞がる。


 それがドリュアスの未来を滅茶苦茶にし兼ねない事であると理解しながら。


(そりゃあテレレの子どもが次期党首になるんだし、魔力なんてあればある程良いって言う理屈は解かるさ……)


 魔族との脅威の隣り合わせであるこの世界において、国のトップに求められるモノは何よりも武力。


 どれだけ綺麗事を語ろうと、滅ぼされてしまっては意味なんてない。


 次期党首に強さを求めるべく、強い者同士で子どもを儲けるのは非常に合理的な判断だと思うし、研一だって思想自体は否定出来ない。 


(だからって、それでテレレさんが犠牲になるのは違うだろ……)


 けれど、それでも我慢出来なかったのだ。


 研一が見てきたテレレという女性は、一見すると物静かだけど意外と茶目っ気がある凄く魅力的なだけの、普通の女性だ。


 別に悪い事をした訳でもなければ、むしろ党首としての役目を果たそうと必死で頑張る人間でしかなく――


 その努力や苦労が報われて幸せになるというのならともかく。


 自分の気持ちに蓋をしてまで犠牲にならないといけない人間には、どうしたって思えない。


「あ? てめぇ、掟を知らねえのかよ。一番魔力の強いヤツの物だって、この女は生まれた時から決まってんだよ。いきなり現れた外野が寝言言うんじゃねえ」


 ましてや、相手がこのゲスタブだ。


 それでもテレレの事を大事にしてくれそうな男が相手だったなら、納得出来ない気持ちを誤魔化して研一だって大人になろうと努力出来たかもしれないが――


 あまりにも相手が酷過ぎる。


「だからだろ? この世で一番強い男なんて、救世主である俺しか居ねえだろうが」


 とはいえ、完全に無責任に何の策もなく、やって来た訳ではない。


 この場を切り抜ける方法を考えていたからこそ、ギリギリになってしまったのだ。


 研一は俺の方に理があると言わんばかりに、ゲスタブを睨み付けるが――


「ふざけんじゃねえ! ドリュアス国内で一番って意味に決まってるだろうが!」


 納得出来るかと言った様子でゲスタブが叫ぶ。


 おそらく、テレレだってゲスタブと同意見だからこそ、こうして抱かれに来た筈だ。


「そっちこそ何でそんな掟があんのか知ってんのか? 他の国とのパワーバランスとかを考えた結果の掟だろう?」


「ああ。だから俺以外に適任なんて――」


「頭悪い奴だな。異世界から来た救世主様だぜ? 俺様はこの世界のどこの国の人間でもねえからな。他国との繋がりとか面倒臭え事は、それこそお前以上に関係ねえんだよ」


(ここまではテレレさんだって、多分だけど気付いてたんだよな)


 だからこそ、全てを捨ててでも一緒に国を守ってくれるかと聞いてきたのだろう。


 その願いに応えられなかったからこそ、すぐには助けに来れなかったのだが――


「第一、お前みたいに乱暴そうな奴が使ったら、折角俺が仕込んでやったのが駄目になりそうだろうが」


「仕込んで、だと?」


「ガキじゃねえんだし解かってるんだろ? 俺が来てから毎日、使ってやってるからな。出来てねえ方がおかしいだろうが」


「…………」


 そもそもの話。


 テレレを貸してやった代わりに他の女を抱かせろなんて言い出すという事は、言い換えれば既にテレレが妊娠している可能性だって十分にあり――


 その理屈から考えれば、ゲスタブがテレレを抱いていい理由なんて最初から存在しない。


(やっぱりコイツも気付いていたんだな……)


 研一の指摘に黙り込んだ事から解かるように、そんな事はゲスタブ自身気付いていただろう。


 他人を見捨てられないテレレの優しさに付け込み、ただゲスタブが欲望を満たす為だけの脅迫行為でしかなかったのだ。


「いやあ、健気で可愛いもんだったぜ。お前を抱いた次の日だけは魔族達の襲撃が来ても戦ってやるって言ったら、毎日毎日、呼ばなくても自分から俺の寝床を尋ねて来てな」


 それに気付けたからこそ、研一は何を言うべきは事前に考えてきた。


 掟がおかしいだとか、テレレが犠牲になるなんて許せないなんて感情は、この際どうでもいい話。


「よっぽど魔族が怖いのかと思ったが、こりゃあ仕方ねえわな。自分に次ぐ最大戦力である筈の夫候補は、口ばかりで糞の役にも立たねえゴミと来たもんだ。そりゃあ内心嫌でも、俺様みたいな無敵の男にでも守って貰わなきゃ、どうにもならねえからな」


 崩さなければいけないのは、ゲスタブがテレレの夫として相応しいという正当性。


 その一点のみなのだから。


「ゴミだと。てめぇ、誰に向かってそんな口を――」


「テレレに次ぐ魔力持ってる癖に、俺が来てから魔物の一匹も倒してねえ役立たずの置物に向かってだろ?」


「うるせえ! てめぇに何が解かる!」


 研一の言葉はゲスタブの心の何かに触れたらしい。


 怒りを隠しもしない叫びがテント内に響き渡っていく。


「俺様はテレレとの間にガキを作るって仕事が、生まれた瞬間からあるんだよ! 雑務なんて他の奴等がやればいいし、魔物と戦うなんて危険な事なんざ、いくらでも代えが利く連中にやらせときゃいいに決まってんだろうが!」


 これがゲスタブという人間の根底にある思考。


 自分は特別で、何もしてなくても認められるべきだし。


 特別じゃない人間には何をしてもいいんだという、自分が絶対に有利になるルールを勝手に決め、それを乱す奴は悪だと感じる自己欲に歪んだ価値観。

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