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憎まれ救世主 ~優しき青年が授かったのは、憎まれる程に強くなる力~  作者: お米うまい
第四章 少女達の想い

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第57話 母親殺しの結末

「……」


 研一とセンは、二人きりでテントの中に居た。


 テントの外には見張りを買って出てくれたテレレが佇んでおり、二人の会話を盗み聞ける者は居ない。


 誰に憚はばかる事なく、二人だけで本音で語り合える場が整っていた。


「…………」


 けれど、二人の間に言葉は交わされない。


 視線を合わせる事も出来ず、息をするのも躊躇われるような重たい空気だけが二人の間を漂う。


「……マニュアルちゃんの言ってた事は、全部本当だ。俺が、君のお母さんを殺した」


 耳が痛くなりそうな程の沈黙を破ったのは、研一だった。


 俯いて顔を上げる事も出来ないセンの姿に心を痛めながら、それでも誤魔化す事無く想いを伝えていく。


「お母さんの仇だって俺を恨むのは当然だと思うし、嫌っても仕方ないと思う。俺なんかともう一緒に居られないって言うのなら、今すぐは無理だけど、お姫様かベッカに面倒を見てもらえるように頼み込む」


「……」


 ビクリと、センの身体が震える。


 顔を上げるどころか、増々縮こまるように所在なさげに更に俯いた。


「ただ。今だけは仕方ないけど、俺の傍に居てほしい。まだ予想されてた魔族の襲撃もきてないし、いつ危険になるか解からない。だから――」


「どうして、お母さんを殺したんですか?」


 そこで研一の言葉を遮るようにセンの言葉が走る。


 もうセンは俯いても、縮こまっても居なかった。


 ただ溢れ出しそうな感情を必死で堪え、真っ直ぐに研一を見詰めて、何があったのかを静かに尋ねていた。


「それは……」


 何を言っても、助けられなかった言い訳にしかならない気がして。


 言葉に詰まってしまう研一であったが――


「お母さんは最期に魔法の力で私に話し掛けてくれました。救世主、研一さんが自分を救ってくれたって。これからは研一さんが私の傍に居てくれるって」


 研一と共に過ごし。


 母親から言葉をもらっていたセンは、母親を殺したなんて言葉だけで、全てを見失って研一を恨んだりなんてしない。


「研一さんが意味もなく、お母さんを殺す訳がありません。何があったのか、教えてください」


(……俺なんかより、よっぽど強いな)


 それどころか、絶対の信頼を持って自分を見詰める瞳に、研一は下手に誤魔化そうとせずに全てを話そうと覚悟を決める。


「いいか、センちゃん。よく聞いてくれ」


 そして、研一は今度こそ包み隠せずに全てを話していく。


 もう自分がセンの母親と出会った時には、回復の出来ない状態だった事。


 自分に何かしてやれる事はないかと訊ねた結果、もう終わりにしてほしいと願われた事。


 センの面倒を見てほしいと頼まれた事を全て語った。


「……ごめんなさい」


「な、何でセンちゃんが謝って……」


 全てを聞いたセンの口から最初に飛び出したのは、謝罪の言葉であった。


 あまりに予想外の言葉に戸惑う研一であったが、センからすればそれ以外の言葉なんて出てくる訳がなかった。


「辛かったですよね。本当は助けたかったのに、終わらせる事しか出来なくて」


 センには自分に向けられた強い感情を読み取る力があり、それは時として記憶どころか本人さえ気付いていない、深層心理さえ読み取ってしまう。


 それで研一が自分の母親を殺した時の事を、研一以上に知ってしまった。


(どれだけ辛い気持ちで研一さんは、お母さんを殺したんだろう……)


 フェットに捕まり監禁され四肢をもがれ弄ばれた末に、最後は死を選んだセンの母親。


 それは男に酷い目に遭わされ、絶望の果てに自殺してしまった研一の彼女を思い出させるには、十分過ぎただろう。


 ――だからこそ、回復したところで敵になるだけだなんて頭で理解しながら、センの母親に生きていてほしいと、研一は願わずには居られなかったのだ。


「研一さんこそ、私を。私達親子を恨んでないんですか? 無理やり、私の事を任されて邪魔じゃなかったですか?」


 センから見た自分達親子との出会いなんて、出会って即行トラウマを思い出させた上に――


 自分というお荷物を押し付けただけにしか見えなくて。


 負い目や責任感で自分の面倒を見てくれているのではないかと、不安で仕方なかった。


「恨む理由なんてどこにもないだろ! 何で酷い目に遭っただけのセンちゃん達を、俺が恨まないといけないんだよ!」


 それこそ研一には、センがそんな事を言い出す理由が解からない。


 可哀想だと思う事はあれど、何を恨む事があるのかとしか思えないし――


「それに無理やりなんて思ってない! そりゃあ最初は、俺なんかがセンちゃんの面倒をしっかり見ていけるのか、不安だったけど――」


 確かに一緒に居る事になった切欠は、センの母親に頼まれたからだ。


 そこに何も思わなかったかと言えば嘘になってしまう。


「スキルのせいで誰とも本音で話せなかった俺が、普通に話してもいいセンちゃんが傍に居てくれて、どれだけ助けられたか!」


 それでも間違いなく、一緒に居たいと願った。


 それは単に、センだけがスキルの影響を受けない存在だったからという打算的な理由だったのかもしれない。


 それでも心の底から、センを手放したくないなんて思った事にだけは、嘘なんて一つもなかった。


「だからお母さんが生きているってセンちゃんが誤解しているって知っても伝えられなかった。知ったら、センちゃんと、もう傍に居られないかと思ったら言い出せなくて……」


 本当は言い出せなかったなんて綺麗な話じゃない。


 真実を隠して騙す事になると解かっていながら。


 それでも、センを自分の手元に置いておきたいなんて、邪な願いを抱いて意図して隠してしまった事だってある。


 ――そんな恥ずかしい事を口に出して、センに伝えたりしないけれど。


「そっか……」


 ただ、口にしなくても、強い想いを抱けばセンには伝わる。


 研一が卑怯な事をしてでも、自分を手元に置いておきたいなんて思ってくれた。


 それだけでセンには十分だった。


(ごめんなさい、お母さん……)


 だって、今だけはお母さんを殺した後ろめたさで研一が自分を真っ直ぐ見てくれている。


 死んでしまった恋人の代わりじゃなく、自分自身を。


(こんな悪い子で、本当にごめんなさい……)


 本当はお母さんが死んだ事を、もっともっと悲しまないといけないんだと思いつつ。


 それでも。


 研一が自分の事だけを見てくれている事への嬉しさが止められない。


「お母さんを、苦しみだけしかない場所から解放してくれて、ありがとうございます」


 それに、研一は確かにお母さんを助けてくれていたのだ。


 感謝こそすれ恨む理由なんてない以上、研一にどう思われているか以上に大事な事なんて、センには何一つないのだから。


「……センちゃん、俺は――」


 自分の想いがセンに読まれているなんて事、研一には解からない。


 ただセンの大事な人を救えなかった後ろめたさに、目を逸らす事しか出来なかったが――


「悪いと思ってくれるなら、ずっと私の傍に居て下さい。私を一人にしないで下さい」


 センは力いっぱい、研一を抱き締める。


 研一が精一杯頑張ってくれたのは解っているし、誰も恨んでなんていないから。


 そんな事で苦しまないで、と願いを込めて。


 ――そして、どんな邪な事を考えてもいいから、私の事を離さないでと心の底から願いを込めて。


「ありがとう……」


 恐る恐る抱き締め返した研一に、センは不満だと言うように、更に力を込めて抱き返す。


 そんなセンの動きに応えるように、優しく包み込むように抱き締め返してくれた研一に――


(早く大人になりたいな……)


 もっともっと壊れるくらいに強く、抱き締めてほしくて。


 センは僅かに口元を不満で歪める。


(大人だったら、研一さんの涙も何もかも受け止めて上げられるのに)


 本当は今にも泣き出したいだろうに。


 それでも子どもである自分の手前、感情任せに泣きたい気持ちを我慢している事を、センの心を読み取る能力が伝えてくれていたから。


(ごめんなさい、悪い子で……)


 甘えさせてあげたいなんて思っているのに。


 それでも自分に気遣ってくれる研一の温かさが嬉しくて。


 センは申し訳ない気持ちと共に、研一を抱き締める力を強くしたのだった。

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