第54話 テレレの許婚、ゲスタブ
「おい、救世主様よぉ。向こうに魔物が出たらしいんだよ。ちょっくら行って倒して来いよ」
魔物退治の時にテレレとイチャイチャした時に睨んでいた男、ゲスタブが研一に話し掛けてくる。
言葉から解るように見下した空気を隠しもせず、むしろ喧嘩でも売っているとしか思えない横柄な態度であった。
「ダーリンに失礼。そもそも、そっちの地域はアナタの担当。手に負えない魔物が現れたならともかく、下らない雑用で、この人の手を煩わせないで」
研一が何かを言うよりも早く。
見せ付ける為に研一と腕を組んでいたテレレが、怒りを隠さない態度でゲスタブを睨み付ける。
「大体、アナタは普段もそう。人に仕事を押し付けて自分はサボってばかり。この国一番の魔力を持つ男だという自覚を持って」
「はっ、何がこの国一番の男だよ。本気でそう思ってたなら何で俺の女にならなかった? 一番強い者同士が番つがいになって、次代を担う子どもを作る掟だろうが。それがこんなポッと出のガキ相手に……」
「……生まれ持った魔力に胡坐をかいて、努力も出来ないし他人を認められない人に、国も私も任せられなかっただけ。あなたが国で一番魔力を持って生まれてきたのは認める。けど、それを何もしてもいい立場だなんて勘違いしないで」
「党首の癖に掟破った癖に偉そうに――」
「破ってないわよ。党首は一番強い男の子どもを生むのが役目。もしあなたがダーリンよりも強いのなら、子どもだって生んであげるし、あなたの物にだってなってあげるわよ? どう、戦って試してみる?」
そこでテレレは、挑むような視線でゲスタブを見る。
まるで心の底まで覗くような蒼い瞳が、ゲスタブの歪んだ視線と交錯した。
「……ちっ、神とやらの加護を運良く貰っただけのガキが。調子に乗ってんじゃねえぞ」
二人の視線が絡み合った時間は五秒もなかった。
すぐにゲスタブはテレレから視線を逸らして研一を睨むと、吐き捨てるようにそれだけ呟いて背を向けて去っていく。
「何でそこで俺に文句言うんだよ……」
結局、研一への言葉は嫌味や文句だけで、マトモに会話の一つもしていない。
あの男は何がしたかったんだと、戸惑いに似たモヤモヤを、研一は覚えずには居られなかった。
「……ごめんなさい」
「別にテレレさんが謝る事じゃないですよ」
「ううん、私のせい。アイツも言ってたけど、本当は掟で私とアイツは結婚して子を成さないと駄目。それなのに理由を付けて先延ばしを続けた結果がこれ……」
「それは逆でしょうに。結婚って事はアイツも党首だか族長だかみたいな、民の上に立つ立場になるんでしょ? そんな立場に置けないから、拒否してるだけなんですよね?」
さっきのやり取りを聞いていれば研一には解った。
テレレ自体は、掟に従いゲスタブと結ばれる覚悟なんて、とっくの昔から決まっている。
だからこそ、人を見下す事なんて止めて努力する人間になってほしいと、ずっと苦言を呈してきているのだろう。
――そして、それが全く何の効果もなさないまま、今に至ってるだけ。
「そうね。もし上に置いても問題ないくらい頑張っていたなら、受け入れていたわ」
研一の言葉をテレレは否定しない。
大密林という、いつ魔物の群れに襲われるか解からない立地の上に、ドリュアス国には回復系の魔法に特化した者が生まれやすい為――
国を守っていける次代の戦士を生むのは、党首としては避けられないとテレレだって納得している。
「けどね。不謹慎だけど、彼の不真面目さに今だけは感謝してるの。こうして今だけでも普通の女の子みたいに、君と過ごせるのだから」
だからこそ。
掟も関係なく、ただ自分の気持ちの赴くままに。
少し気になった男に寄り添ったり出来ている今が、テレレには楽しくて仕方なかった。
「少しくらい改心したところで、自分は選ばれた人間で何しても許されるだなんて思っている男だもの。だから、子どもを産む為の道具みたいに扱われる覚悟だって済んでたのに……」
そもそもゲスタブの性格を差し引いても、テレレはドリュアス国では最強の力を持っている。
おまけに嘘を見破る力も相成って、抱かれる感情なんて畏怖と敬意だけ。
きっと自分に普通の女の子のような時間なんてものは永遠に来ないと、諦めていた。
「それなのに。君はずっと、か弱い女の子みたいに私を扱ってくれる。実はもう、君のスキルを強める為の演技じゃなくて、本当にメロメロになっちゃっているのかもね」
ただ憧れるだけで叶う事がないと思っていた、恋人同士の甘い時間。
それが叶うなんて夢みたいだと言いたげに、本当に楽しそうにテレレは笑う。
――例え、それが魔族を討伐するまでしか続かない、恋も愛もないママゴトのような仮初の関係だと解っていても。
「その、テレレさんは――」
国を守る為であっても、ゲスタブとなんか結婚したくないんじゃないか。
他にも自分が協力出来る事はないか、という言葉が研一の口から飛び出そうとするが――
「ありがとう。でもね、覚えておいてほしい。一緒に生きていく気もないのに、女に半端な優しさを掛けるのは、とても残酷な事」
研一が何が言いたいのか察したのだろう。
テレレは僅かに顔を悲しそうに歪め、それ以上は言わないでほしいと研一の言葉を止める。
「…………」
解かりましたなんて利口な返事を、研一は、あえてしなかった。
だって、このままテレレを見過ごす事なんて出来ない。
ゲスタブの代わりに結婚して傍に居てやるなんて選択肢は取れないが、それでもテレレの為に何かしてやれる事があると信じていたから。
「……本当に、君は優しいを通り越して甘過ぎる」
そんな研一の姿に。
テレレは赤くなった顔を隠すように、目を逸らしたのであった。
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