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憎まれ救世主 ~優しき青年が授かったのは、憎まれる程に強くなる力~  作者: お米うまい
第三章 嫉妬だって悪感情

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第52話 モテモテ嫉妬計画

 それから数日後。


「ダーリン。もっと手加減してあげて」


 テレレの応援というには静かな声が森に響く。


 その視線の先を見れば、たった一人で魔獣の群れと向き合っている研一の姿があった。


 ――テレレの周りには色々な視線で研一を眺める、ドリュアス国の人間が大勢い集まっている。


(何回言われても、ダーリンって呼び方には慣れそうにもないね……)


 心の中だけで苦笑しながら、研一は目の前に居る魔物の群れに視線を向ける。


 一言で言えば大きい鰐であった。


 四足歩行ではあるものの、犬や猫と違い地面にべったりと張り付くような態勢を取っており、全身を硬そうな鱗がビッシリと覆っている。


 大きさは人間くらいなら丸呑み出来そうなくらいで、そういう種類の鰐だと言われれば地球に居ても違和感なさそうではあったのだが――


(何か口から火とか電撃とか出すらしいな……)


 種類によって異なるが、口からブレスと呼ばれる極めて攻撃的な何かを吐き出すらしく。


 定期的に退治しないと森を焼いたりして大惨事になるそうだ。


 おまけに食糧としても重宝されているらしく、量も豊富で美味らしい。


 という訳で力を見せ付ける意味もあって、魔物を狩ろうとしている研一であったが――


(強過ぎるってのも考えモノだよな……)


 実は研一が魔物の群れと戦うのは三度目なのだが、今まで獲れた獲物は一体も居ない。


 というのもだ。


 研一が攻撃すれば一撃で消し飛び、塵の一つも残らなかったからである。


 飛び道具で攻撃しても駄目で、直接殴っても駄目。


 マトモに当てれば、どれだけ力を抜いていても魔物達は消し飛んでしまっていた。


(これで無理なら、もう方法ないな……)


 三度目の正直とばかりに研一は拳を握り締めると、そこから人差し指だけを立てる。


 指一本で魔物の急所だけを貫く。


 これが二度の失敗の果てに研一が考えた最後の方法であった。


(悪い、別に恨みはないんだけど……)


 これから命を奪うと研一が覚悟を決めた瞬間、視界に映るあらゆる物の動きが遅く映る。


 止まってすら見える魔物の傍に一瞬で近付くと、指で一突き。


 脳天を刺し貫いた。


(よかった。突き指とかしなかった……)


 何気に不安だった怪我がなかった事に一安心し、次いで魔物の様子を眺める。


 これでも塵になるようなら、これ以上の手加減なんて研一には出来そうにもない。


 はたして――


(大丈夫そうだな……)


 魔物は悲鳴の声すら上げる事すら出来ずに、絶命していた。


 塵になる事も無く、死体を残して。


「す、すげえ! 指一本で!」


「それより何だよ、あの速さ! この距離なのに、ほとんど見えなかったぞ!」


「当然なのです! 私達の御主人様の偉大さに! あの力で魔族から守って頂ける幸運に! 咽び泣いて感謝するといいのです!」


 そんな研一の活躍を見たドリュアス国の面々から称賛の声が上がるが、即座にマニュアルちゃんが、大声で恩着せがましく手柄を誇示する。


(……本当に、こんな事でそこまで憎まれたり嫉妬されたりするものかなあ)


 そりゃあテレレは凄く綺麗なのに、その人形めいた美貌に反して意外と茶目っ気もある。


 党首だからと遠慮して想いを告げられなかっただけで、裏で惹かれていた男なんて山のように居てもおかしくないし。


 それをポッと出の男が掻っ攫っていったら憎みたくなるのも解からないでもないが――


(ロザリーさんやセンちゃん達は、元々国に居なかった人達だけど、それでもそこまで妬んだりするかなあ?)


 疑問だがテレレやロザリーが自信満々に大丈夫だと言っていたので、とりあえず作戦に乗ってモテモテの頼れる男とやらを目指すべく――


 残っていた魔物達を余裕たっぷりに蹴散らしてみる。


「やるじゃない! やっぱり男は強さが何よりも大事よね!」


 戦いとも呼べない一方的な狩りが終わると同時に、ロザリーが喜色満面と言った様子で抱き着いてくる。


 力だけは確かな悪魔だとか色々言ってた割に掌返しが凄過ぎる気がしないでもないが――


「その、返り血で汚れてるし、好きでもない男に抱き着きたくもないだろ? そこまで無理してくれなくても――」


 それより研一としては、ロザリーに嫌な事を強制してしまっているのが嫌で、小声で離れてくれるように促す。


「……本当、アンタ。普段相当無理してたのね」


 研一の言葉にロザリーも小声で聞こえないように返したかと思うと――


「けど、本当に凄いのは夜だもんね。今日も楽しませてくれないと嫌よ?」


 むしろ研一に付いた返り血を自らの身体に擦り付けるように、抱き締める力を強めて身体に絡み付く。


 余計な事なんて考えるなと言わんばかりに。


「ズルいです! 今日可愛がってもらうのは私の約束ですよね!」


 そこにセンが必死の形相でやってきてかと思うと。


 無理やり研一とロザリーの間に挟まって、二人を引き離そうと纏わり付いてきて。


「ダーリン。私にも構って」


「御主人様! 私も可愛がってほしいのです!」


 仕舞いにはテレレやマニュアルちゃんまで研一に、しがみ付いて来る始末。


(ここまでやるのか!?)


 確かにこれなら見ているだけで嫉妬とか抜きにして、イラつきもするだろうとは思う研一であったが、発案者のテレレはともかく――


 少し前まで自分を嫌っていたロザリーも、ここまで協力してくれた上に。


 あまり演技が上手い方でないセンが、必死で頑張ってくれていると思うと胸が熱くなる。


 ――マニュアルちゃんだけは、演技じゃなく素にしか研一には見えなかった。


「騒ぐな騒ぐな。そこまで言うなら全員同時に可愛がってやるから、今日の夜は寝られると思うなよ?」


 それならば自分が台無しにしては駄目だろうと考えて、それっぽい演技を全力で頑張ってみる。


 さすがに、わざとらしくないかと少し不安になったところで。


(あ、本当に凄い効果あるんだ……)


 研一の身体に凄まじいまでの力が漲ってくる。


 かつて自分を殺したがっていた頃のベッカを思わせる程に強い力の高まり。


「くそう、何であんな冴えない男が。あそこに立つのは俺みたいな選ばれた男に決まって……」


 その中でも一際憎悪が放たれてきている方向を横目で確認した研一の目に、一人の男の姿が映る。


 研一より一回りくらい年齢が高そうな、筋骨隆々とした体格の、どこか粗暴な雰囲気を感じさせる男が、恨みがましい目で研一を睨んでいた。


(どっかで見たような……)


 まだドリュアス国に来て日が浅い上に、周囲に見せ付ける為にテレレがずっと傍に居るのもあって、知っている顔なんて居ない筈だった。


 それなのに妙に引っ掛かるモノを感じて、首を傾げる研一であったが――


「……彼はゲスタブ。この国一番の魔力を持って生まれた男で、私に相応しいのは俺だとか一人で喚いて、ずっと付き纏ってきてる勘違い男」


 その態度をあの男は何だ、という問い掛けの態度だとテレレは判断したらしい。


 テレレが研一にだけ聞こえるように、耳元に口を寄せて小声で囁く。


 ――傍目に見れば、イチャ付いているようにしか見えず、更にゲスタブから憎悪の感情が研一に流れ込んだ。


「ごめんなさい。アナタを利用させてもらった……」


 テレレが今回の事を考えた理由の一つに、ゲスタブの牽制の意味もあったようだ。


 国の存亡を掛けた魔族との戦いに向けての作戦なのに、私情を挟んでいる事か。


 それとも事情も説明せずに研一を利用してしまった事への負い目からか、テレレは謝罪すると同時に合わせる顔がないとばかりに目を逸らす。


「利用してるのは、お互い様ですって。むしろ、こんな事くらいで役に立てるなら、いくらでも協力しますよ」


 そんなテレレに研一は小声で耳打ちすると――


「はっ、新入りだからって照れんなよ。昨日の夜はアレだけ甘えてきてくれたのによ」


 目を背けていたテレレの顎に手をやって真っ直ぐ顔を向けさせて。


 間髪入れずに自分の顔を近付けていき。


「えっ……」


 戸惑って動けないみたいな表情をするテレレに新鮮さを感じつつ、研一はテレレの顎に添えていた自らの手を動かしてテレレの口元を覆い隠すと――


 研一自身の手の甲に口付けして、見せ付けるように暫く静止する。


 遠目で見ている者達からは、研一の頭で肝心な部分が見えなかったので、テレレに口付けしたようにしか見えなかっただろう。


「だ、ダーリン。その……」


 顔を離した瞬間、真っ赤になったテレレが己の口元に人差し指を添えている顔が、研一の視界に飛び込んでくる。


 照れ臭そうにしつつ、それでも満更なさそうに研一の顔を見詰めたかと思うと――


 もう一度と言わんばかりに目を瞑り、軽く顔を上げて口付けをせがむような表情をする。


(本当、この人。物凄く演技上手いな……)


 さすがに党首なんてやっている人は、自分みたいに付け焼刃の適当な演技をしている人間とは格が違う。


 これならどこからどう見ても、イチャ付いているようにしか見えないだろうなんて研一が考えた瞬間――


「け、研一さん! 次は私! 私にも!」


「小娘は退いてなさい! 次は私に決まってるでしょ!」


 再びセンやロザリーが我先にと押し寄せてくる。


 いくら国を守る為とはいえ、ここまで頑張らせるのは申し訳ないなんて研一が内心だけで謝罪と感謝を覚える中――


「そうです! これこそ御主人様に相応しい光景なのです!」


 マニュアルちゃんは一人、抱き着く事もせず。


 この光景に満足気に頷いていたのであった。

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