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憎まれ救世主 ~優しき青年が授かったのは、憎まれる程に強くなる力~  作者: お米うまい
第二章 ドリュアス国のテレレ

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第48話 ロザリー参入

 翌日。


「……ドリュアスへの案内を務めるロザリーよ。よろしく」


 不機嫌さを隠しもせず、旅支度を整えたという雰囲気のロザリーが研一達の前に現れた。


 いつものメイド服ではなくスーツのような衣装に着替えており、パッと見では女執事という出で立ちになっており――


 背中には動きを阻害しない程度の大きさの鞄を背負っている。


「今日は普段と違う恰好か」


(見慣れてない姿なのに何か妙に、しっくり来るな……)


 出会った時からずっとメイド姿しか見た事なかったのに、女執事+鞄装備とでも表現したいロザリーの姿に、研一は内心だけで感嘆しつつ――


 とりあえず、ズボンを履いているロザリーの足を見て残念そうに顔を歪めてみる。


「ドリュアスは森の中にある国なのよ? ヒラヒラのスカートなんかで行く訳ないでしょ、この変態!」


 研一の狙いどおり。


 ロザリーは露骨に顔をしかめて不快感を露わにする。


「いい! 別にアンタがそこの子達に手を出すのに口を出す気はないわ。ただね、さかるなら私の見えない場所でして!」


 そして、研一達の傍に控えるセンとマニュアルちゃんに一瞥したかと思うと、はっきりと宣言する。


 自分に手さえ出さなければ、子どもに手を出そうとどうでもいい、と。


(……そりゃ大して知りもしない相手の為に、自分の身を危険になんて晒せないよな)


 ロザリーの態度に研一は、心の中で酷く落胆していた。


 サーラの為に罰を受ける事が解かり切っていても、それでも迷いなく自分の事を毒殺しようとしてくる。


 そんなロザリーの事を高く評価しており、それが裏切られたような気分になったのだが――


(いや、サーラ達が善人過ぎるだけでロザリーも十分凄い人だな……)


 よく考えればセンもマニュアルちゃんも、ロザリーからすれば完全な赤の他人。


 例えば、見知らぬ子どもが熊に襲われそうになっている場面を見て、自分の身を省みず、無駄死にするかもしれないと解っていながら助けに迎える人間なんて、そんなに多くない。


 むしろ、サーラの為に迷いなく悪に立ち向かえるだけで、十分に尊敬すべき人間なのだと思い直す。


 ――自分がロザリーから見れば滅ぼされるべき悪だという認識に、研一は一切の疑問を持っていなかった。


「何よ、その顔。言っておくけど私に手を出そうとしたら毒飲んで死んでやるわよ」


「俺に犯されるくらいなら死んだ方がマシってか?」


「他の人はどうか知らないけど、私は死ぬくらいなら犯される方がマシね。ただそんな事になったら、私を案内役に付けたサーラ様が心を痛めるでしょう? だから、どんな形であれ私が死んだら魔族との戦いで戦死したって伝えてくれる?」


「そっ――!」


(それでも悲しむだろうが!)


 思わず叫び出しそうになる研一だが、必死で言葉を呑み込む。


 そんな事をすれば、折角ここまで嫌ってくれているのに全てが台無しになってしまう。


「何よ、何か言いたい事でもある訳?」


「いやあ、百合の変態とは思わなかったんで驚いてただけさ。そりゃあ愛しのお姫様が汚されたって思えば殺しにも来るか」


「はあ!? 私の崇高な敬意をアンタのよこしまな欲望なんかと一緒にしないでくれる!?」


 嫌われる為にあえて侮辱的な言い方をしたのだが、どうやら予想以上にロザリーにとっては逆鱗に触れる内容であったらしい。


 研一への敵意を更に深めていく。


(……凄いな。出会った頃のベッカ並みに憎悪が流れ込んでくる)


 だが、これからドリュアスの旅路を歩む事を考えれば、憎まれて力を増す事なんて有難い事この上ない。


 野盗や魔物に遭遇した場合、セン達を守る為の力は強いに越した事は、ないからだ。 


「崇高とか――」


「いい、サーラ様は地上に舞い降りた女神なの!」


 更に追い打ちの罵倒でも告げようとした研一の言葉を、ロザリーの渾身の叫びが掻き消す。


「民の為ならば自らを犠牲にする事も厭わない高潔な精神。人柄と能力さえ認められるモノであれば、例え親が大罪人であろうと取り立てる懐の広さ。力無き者へだって手を差し伸べるだけに留まらず、一人で生きていく為の援助を欠かさない――」


 勢いのままにロザリーは、早口で捲くし立てていく。


 もはやその目は研一の事など見ておらず――


 ただ狂信者を思わせる熱だけが、その目には宿っていた。


「むしろサーラ様こそが女神そのもの! ただ奇跡や魔法を貸し与えるだけで、本当に救われるべき者達に手を貸そうともしない天上界の女神なんかやらも、いと尊き御方! 全ての人類はサーラ様にこうべを垂れて忠誠を誓うべきなのよ!」


「お、おう……」


「それをこんな女狂いのゴミ同然の男に無理やり手籠めにされて! ああいう方こそ幸せになるべきなのに! アンタがどれだけ魔族を倒して国を救ったとか言われたって、私だけは絶対、一生、アンタの事許さないんだから!」


(……その辺は、本当に心の底から同意するよ)


 熱量の差に圧倒され暫く反応出来ないでいたが、概ね研一もろざりーと同意見ではあった。


 研一だってサーラの事は誰よりも尊敬しているし、幸せになってほしいと本気で願っている。


 ――そして、そんなサーラを騙し傷付けている自分が許されるべきではないという部分まで含めて、同意見だったのだから。


「許さないならどうするってんだ? 前の連中みたいに俺のお気に入りでも攫ってみるか?」


 だが、それはそれ。


 怒りの刃が自分に向かうとは限らないと、少し前に思い知らされたばかりだ。


 もしそんな馬鹿げた事をするなら、ただで済ませる気はないとばかりに威圧しておく。


「アンタみたいな下種と一緒にしないで。いつかアンタを殺せるような毒を開発してみせる。もしそれでアンタを殺せて、それで私が処刑されなかったら責任持ってそこの二人は私が面倒見てやるわよ。まあ、十中八九、救世主殺しの罰に処刑でしょうけど、きっとサーラ様が後の事は何とかしてくれるわ」


 だが、どうやらロザリーに対しては、杞憂だったらしい。


 サーラみたいな善人を心底敬愛しているだけあって、そこ等の小悪党とは性根が違うようだ。


 敵わないから研一の周りに嫌がらせをしようなんて曲がった事なんて考えず、真っ向から研一本人に殺害を予告してくる。


「はっ。あのお人好しの姫様を敬愛しているだけあって、随分と偽善者だな。人殺しから目を背ける為に、ガキを引き取るアピールで善人気取りかよ」


「……私みたいな小悪党とサーラ様を一緒にするな。アンタみたいなゴミ屑でも頼らないと生きる当てがない者が居る事を知ってるだけよ。その当てを奪うなら、その責任くらいは取りたいってだけ」


「へーへー。それは悪ぅござんしたね」


(小悪党? どこにも悪い要素なんてなかったように思うけど……)


 仮に悪党を倒したとして、その子どもの面倒を見ようだなんて普通は考えない。


 正義によって悪党を倒す事に夢中で子どもの事にすら気付かない事が大半だろうし、気付いたところで、理由はどうあれ悪党に付き従っていたんだから同類だと見捨てる者が多いだろう。


 それなのに、当たり前のようにセン達の事は別に気に掛けている。


(だから毒とか盛られたり嫌がらせされても、この人の事嫌いになれないんだよな……)


 どれだけ研一を憎み嫌悪しようとも、その怒りを研一以外には向けない考え方。


 力の差など気にせず、間違っている事には間違っていると言い続けられる強靭な意志。


 嫌うどころか、むしろ非常に好ましい相手だと研一が無意識に感じ始めたところで――


「……救世主様。そろそろ行きましょう」


 ちょっとムッとした様子で、研一の傍に控えていたセンが出発を促す。


 それはセンの持つ感情を読み取る能力で、研一の心の動きを読み取ったからではなく――


 単純にセンの乙女心が、この二人をこのまま会話させるのは、色んな意味で非常にマズイ気がすると予感させたのだ。


「ん、ああ。そうだな。そろそろ行くか」


 そこで研一は近くにある魔法陣のような物を眺める。


 転送陣と呼ばれる物体で、特定の条件を揃える事で別の魔法陣の元へ人間や物体を瞬間移動させる事が出来るという代物らしい。


 ――そして、ロザリーが呼ばれた理由の一つが、ドリュアスへの転送にはドリュアス国の転送陣に登録している者が必要だったからだ。


「それじゃあ転送するわよ。慣れてないから酔うかもしれないけど、そこは気合で堪えて」


 そうしてロザリーが転送陣を起動して、研一達は、炎の国サラマンドラから。


 薬と植物の国、ドリュアスへと旅立った。


(出来たら傷付けても気にならない程度の、程良い悪人が多い国だといいな……)


 研一は、よく解からない願いを胸に。


(今に見てなさいよ! ドリュアスにはサラマンドラには置いてなかった薬が山のようにあるんだから! 絶対にアンタを仕留められる毒を調合してやる!)


 ロザリーは研一に殺意を燃やし。


(このロザリーさんって人、誤解が解けたら凄く研一さんと話が合いそう……)


 センは嫉妬に似た不安に表情を曇らせ。


(……御主人様の御心も知らず好き放題言って! 誰のお陰で魔族の襲撃から生き残れたのだと思っているのです! この無礼者め!)


 マニュアルちゃんは、激しい怒りに燃えながら、それでも研一の邪魔をしないように必死で無言を貫き堪えているという――


 誰一人として同じ方向を見ている者が居ない、デコポコパーティーである事に気付く者が一人も居ないままに。

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