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憎まれ救世主 ~優しき青年が授かったのは、憎まれる程に強くなる力~  作者: お米うまい
第一章 導入

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第47話 隠された善意

「アイツをドリュアスに向かわせる、ですか?」


 ベッカの戸惑いの声がサーラの自室に響いて消える。


 大声を上げる程ではないものの、それでも研一をドリュアスに送るという話はベッカからすれば驚きを隠せないものであった。


「いえ、確かに今の我が国にドリュアスを救援するような余裕がないのは認めますし、それ以外にあの国を救える方法がないのは解かりますが――」


 植物の国だなんて呼称されるドリュアスは薬学と自然魔法の発展に付いては他の追随を許さない国ではあるのだが、軍事力という面で見ると、お世辞にも優れていると言える国ではない。


 どれくらいの強さかと言えば――


 それなりに苦戦は強いられるが、それでもある一人の人間さえ居なければ、ベッカ一人で制圧出来てしまうくらいの弱さだ。


 強過ぎる研一の陰に隠れて解り難いが、ベッカも中々の強さの戦士ではあるものの――


 それでも並程度の軍事力を持つ国ならベッカ一人くらいなら、割とどうとでもなるものだ。


 そう考えると最弱の名を欲しいままにするドリュアス国の、貧相な軍事力が透けてみえるというものだろう。


「前回の戦では私自身、ドリュアス国の者には大きく助けられているのです。ここで見過ごす事は出来ません」


 それでもドリュアス国が存在し続けている理由こそ、その豊富な医薬品とそれを扱う為の自然魔法の使い手がドリュアス国にしか生まれない事にある。


 少し前に起きた魔族との戦いでサーラは下手をすれば、命を失っていたかもしれない程の大怪我を負った。


 にも拘らず即座に回復し、フェットを仕留めていたが――


 これを可能にした理由こそが、ドリュアス国から友好の証として派遣されている者の治療術であり、この者が居なければサーラは本当に死んでいた可能性も少なくはなかった。


「姫様、それは解っているのですが――」


 それ程の凄腕の治癒術を持つ者など、いくらドリュアス国に治癒の魔法に長けた者が多いとはいえ、数える程しか居ない。


 そんな凄腕の人材をサラマンドラ国に派遣してくれている理由なんて、有事の際には代わりに戦力を提供する事を約束しているからに決まっており――


 ここで救援を送らず見殺しにするという事は出来ず、最初から研一を救援に送る以外の選択肢は取り難いのだ。


 ――これで事務能力も高いベッカは国を離れ難く、国のトップであるサーラだって迂闊には動けない。


 そして、魔族と他に戦える程の戦力が、今のサラマンドラ国には居なかった。


「ドリュアス国の巫女様の力とアイツが持ってるスキルとかいうヤツの相性は、最悪と言っていいモノだと私は思います」


 問題はドリュアス国の守護女神だなんて言われている、テレレ・ドリュアスの存在だ。


 治癒系の力に特化する者が生まれる事が多いドリュアス国にしては珍しく、戦闘系の魔法にも長けた凄腕の魔法使いであり、その力はサーラにも匹敵する程なのだが――


「ええ。あの方は嘘を見破る力を持っています。しかも、あの方はとてもその、大らかな方と言いますか……」


「アレは大らかというより、天然というべき性格では?」


「……ベッカ。誰も聞いていないとはいえ、一国の長に無礼な物言いは、お止めなさい」


「申し訳ありません」


 苦言を告げるサーラの声に力はない。


 一応は注意したものの、サーラだって半ば同意見なのだ。


 何も考えていないとまでは思っていないが、それでも何を考えて生きているのか疑問に思う類の、サーラには非常に理解し難い人種である事には間違いないのだから。


(ですが確かにベッカが、天然だなんて言いたくなるのも解かります……)


 サーラはテレレの事を思い出して頭を抱えそうになる。


 ドリュアス国の長であるテレレは、特殊な能力を持っている上に、驚く程に懐が広い人間なので、研一を憎む姿がどうしてもサーラには想像出来ない。


 その上で周囲に誤解などをさせないように、振る舞う女性なのだ。


(『この方は態度が少し悪いだけで、とても善良な人間です。丁重に扱うように』とか言い出しそうなんですよね、あの方……)


 そして、テレレがそんな事を言えば研一がどんな態度を取ろうと、周りは信じざるを得ない。


 嘘を見破るテレレが騙される筈なんてないからだ。


 あの国では、憎まれる程に強くなるという研一のスキルは、今まで以上に使い難くなるだろう事は容易に想像出来た。


「とりあえず研一のスキルとやらが弱体化し過ぎて機能しなくなる事だけは避けねばなりません。そこで研一達の案内人としてロザリー・アザレアを付けようと思っています」


「……それはまた大胆な事を考えましたね」


 ベッカが驚きを見せるが、それも仕方ない事かもしれない。


 話に出てきたロザリーという人間は過去に研一の毒殺を図った事がある人材であり、研一が救世主であり国の賓客であるにも拘わらず――


 近寄りたくもない色狂いの変態男として研一の事を扱い、毛嫌いしている事を一切隠そうともしない女性だからだ。


 ――ちなみに普段はメイドをしており、研一に毒を盛ったメイドこそ、ロザリー・アザレア、その人である。


「あの者以上に研一を憎んでいる者は、私が知る限りでは城内に居ませんからね。彼女が傍に居れば、研一のスキルの手助けになってくれるでしょう」


「確かに。多少の嫌がらせをする者は居ましたが、アイツを殺そうとした人間なんて私とロザリーだけですからね……」


 それが今では愛の告白までしているなんて感慨深いとベッカは思いつつ。


 サーラの気持ちを知っているので、あえて今は言葉にしなかった。


 ――サーラはベッカが研一の事を今は嫌っていない事までは知っているが、まさか愛の告白までしているとは思っていなかった。


「ええ。それに彼女はドリュアス国から派遣されている身です。私を治療して頂いた件で、一度帰国して貰おうと思っていましたし、そういう意味でも丁度いいので」


「なるほど……」


(さすが姫様。完璧な人材配置だ)


 サーラの提案にベッカは納得と共に頷きを返す。


 元々はドリュアスから派遣されている人間なので自国の案内くらい、お手の物だろう。


 ただ研一を毒殺までしようとしていたのに、その殺したがっていた相手を穏便に案内してくれるかという疑問を抱かれそうだが――


「彼女には申し訳ないですが、私から直々に命令すれば断らないでしょうからね……」


「でしょうね。下手すれば自分が殺される可能性すらあったのに、姫様が傷付けられたと思い込んで迷わず致死毒を盛るような女ですからな。姫様が頭を下げて頼めば、どれだけ嫌でも頷く事でしょう」


 実はサーラは、ロザリーの命の恩人のような立場である。


 もう死ぬしかないというところまで追い詰められていたロザリーに手を差し伸べ、生活が安定するまで援助したという経緯があり――


 ロザリーも心の底から感謝しているからこそ、サーラが研一に傷付けられたと思った時は許せずに研一を毒殺しようとしたのだ。


「……本当に申し訳ない話です」


 その想いを知っていながら、利用しようとしている。


 殺したい程に憎んでいる相手の案内を、誰よりも感謝している恩人から頼み込まれる。


 それがどれだけロザリーの心を掻き乱し――


 その結果、サーラにぶつけられない分まで、恨みや憎しみを研一にぶつけるだろう事さえ計算した上で、だ。


「大局の為ならば、この程度の事は平然とこなすモノですよ。それが上に立ち、民を守る者に必要な資質です」


「……解っています。ただそれが必要な事である事は理解しますが、心は納得しないだけです」


「むしろ、それこそが本当に必要な資質ですよ。大局の為という言葉に慣れ、誰かを犠牲にする事に慣れ過ぎた者は、いつか大きな間違いを犯し、その立場を追われる事になりますから」


 大多数の為に誰かに犠牲を強いる事が必要な事は確かに存在する。


 けれど、その言葉で自らの行いを正当化する事に慣れた者は、いつの間にか犠牲にされる者の事を考えられない暴君と化す。


 そうなってしまった統治者に人は付いてこない。


 行き着く先は孤独な終わりだけだ。


「もし私がそうなってしまったら、ベッカ。アナタが終わらせてください」


「それは無理な相談です。姫様がそんな事になるとは思いませんが、それでも万に一つ、道を違えた事があらば、姫様と共に地獄に堕ちようと私は決めてますので」


 たとえ暴君に成り果てようと、己の主は変わらない。


 最後の最期まで傍に居ますよとベッカは笑い――


「ですから私を地獄に道連れにしたくないと思って下さるのでしたら、どうか道を違えないように己を律して頂ければ、部下としては嬉しいですよ」


 それでもサーラの幸せを願っているからこそ。


 破滅の道に自ら進むのだけは止めてほしいと諫言かんげんを口にして、この話を終わらせるのでした。

面白かった、続きが見たい。

書籍化して絵が付いているところが見たい。

何かしら感じてくれた方は、是非とも高評価してくれると嬉しいです。


また気楽にリアクションなどして頂ければ嬉しいです。



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