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憎まれ救世主 ~優しき青年が授かったのは、憎まれる程に強くなる力~  作者: お米うまい
第一章 導入

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第46話 何故か研一呼び

「研一。少し話があります」


 それはフェットの残党を粗方片付け、城の復旧も大体終わった日の事であった。


 これからどうしようかと研一が考えていると、もう随分と聞き慣れたように感じる声が背後から聞こえて、慌てる事無く振り返る。


「ドリュアス国に大規模な魔族との争いの兆しがある、という知らせが届きました」


 そこには研一の予想どおり。


 鮮やかな赤髪が特徴的なお姫様、サーラが佇んでいた。


 ――戦闘の予定はないらしく、出会った時等に比べて随分と露出は少ない服装である。


「……ドリュアス国?」


 聞き慣れない単語にオウム返しに口を開くが、本当はもっと別の事がずっと気になっていた。


(お姫様、アレから何を考えてるのか解らなくて怖いんだよなあ……)


 前回の魔族との戦いが終わった辺りからだろうか。


 サーラが救世主様呼びを止め、研一呼びに変わっていた。


 ここまでなら何か一応は告白めいた事もされてしまったし、気分の変化でもあったのかと別にそこまで気にする事でもないのかもしれないが――


(時々、憎悪だか嫌悪だかが物凄い勢いで飛んでくるんだよね……)


 偶に思い出したようにサーラの方から何か強い悪感情が飛んできて、スキルが異様に強くなる感覚に襲われるのだ。


 それは出会った頃のベッカの敵意さえ生温く感じる程に激しいモノであり、正直、近い内に後ろから燃やされるんじゃないかと偶に不安を覚える程である。


 ――優しいサーラがそんな事する訳ないとは思っているのだが、それでも怯えずには居られない程の激しい悪感情なのだ。


 そこまで嫌がられるなんて何事かと、ビビってしまうのも仕方ないだろう。


「ああ、そういえば他の国の話とかした事ありませんでしたね」


 研一に密かに恐れられている事に気付いた様子も無く。


 サーラはドリュアス国についての説明を始めていく。


「我々が居るサラマンドラ国が炎の国と呼ばれているのに対し、ドリュアス国は植物の国などと呼称される事が多い、自然と共に生きている国です」


 森の中に存在する国で薬草の知識と自然魔法ならば、この世界で一番の発展率を持つ国だという説明がなされる。


 前の魔族との戦いで大怪我を負ったサーラ、シャロンの怪我を大体治したのもドリュアス国の薬や自然魔法という話だった。


「……炎系統の魔法は体力を回復させたり身体を一時的に強化する事は出来ますが、傷の治療とかには向いてませんからね」


 決して炎魔法が劣っている訳ではなく、向きや不向きがあるのだとサーラは付け加える。


(別にそんな事言ってないのに……)


 もしかしたら何か劣等感でもあるのかもしれない。


 触れたら余計に面倒臭そうな気配を感じて、突っ込む事無くスルーしておく。


「無理でしたら断ってくれて構いません。ですが、ドリュアス国には日頃から、大きなお世話になっています。どうか救援に向かって頂けないでしょうか?」


 向こうには話も通しておくし、紹介状も用意するからお願いしますと最後に付け加えたかと思うと――


 サーラは頭を下げて研一に懇願した。


(引き受ける事自体は別に問題ないんだけど……)


 むしろ魔族達を倒して功績値を稼げる絶好の機会。


 こういう話を待っていたと言いたいトコロではあるのだが、『人間に悪感情を向けられる程に強くなり、好感情を抱かれる程に弱くなる』というスキルを研一は保有している。


 ここで快く頷いてサーラの好感度を稼ぐ訳には、いかない。


「行ってやるのは構わねえが報酬は出るんだろうな? 用意はしたけど俺の管理が悪かっただなんて下らねえ言い訳は、もう二度と聞いてやらねえぞ?」


 前回と同じく、性欲処理用の女を用意しておけと当然のような態度で要求しておく。


 ――ちなみにシャロンが大怪我をして取り返しの付かない事になった件で、サーラとベッカからは物凄い抗議を受けたが、全く反省してないというような態度を研一は取っていた。


「……貴方の相手をする者は、やはり私では駄目ですか? またあのような悲劇を生みたくないのです。どんな事でもしますから」


 シャロンのような被害者を再び生み出すくらいならば、自分一人が犠牲になればいいとでも思っているのか。


 サーラがそんな提案をしてくるが――


「ああ、駄目だね! 嫌がる女を無理やり犯るのが興奮するんだよ。てめぇみたいな罵倒されて勘違いして惚れてくるような淫乱ドMな変態なんて願い下げだ! 汚らわしい……」


(あぁ、本当に胃が痛い……)


 そもそも女を用意しろというのも、何か恨まれそうな無茶な要望を雑に喚いているだけで、本当に女性に乱暴する気なんて最初からない。


 こんな酷い言葉で傷付ける事しか出来ない事に自己嫌悪しつつ、それでも絶対にサーラが自己犠牲で自分の所に夜這いなんて仕掛けてこないように徹底的に罵倒する。


 ――こういう優しい人間が身勝手な人間の犠牲になるのが、研一にとっては最大の胃痛の原因なのだから。


「……では前回の件もありますし、救援が完了次第、相手になってくれる女性の募集を始めます。それでよろしいでしょうか?」


「はっ。後払いとは胡散臭い話だが、いいぜ。俺の力は知ってるんだ。反故にしたら、どうなるか解ってるよな?」


「……勿論です。それではドリュアス国への救援、引き受けて下さる、という事で話を進めさせて頂いてよろしいのですね?」


「ああ。今度もあのピンク髪の踊り子みたいな女を用意してくれる事を楽しみにしてるぜ」


「……はい」


 それで話は終わったとばかりにサーラは背を向けて歩き出す。


 その姿に研一は、首を傾げずには居られない。


(……いや、本当にこのお姫様、何考えているんだろう?)


 何故なら今の会話の中では、一度もサーラから悪感情は出ていなかったのだ。


 そういう人間だと既に諦められてしまっているのか。


 それとも、前回みたいに女性を用意するだけ用意して逃がす算段でも既に出来ているのか。


(まさか本当にドM気質があって、アレだけ好き放題喚いているのに逆に好感度を稼いでしまっているとかないよな?)


 だとすれば、急に突然悪感情を向けられるのは、罵倒もせずに放置して怒っているからだろうかと考えて――


 確かに今までサーラから悪感情が飛んできたのは、暫く会話等が無かった時だと思い至る。


(やっぱお姫様って、そういう趣味の人が多いんだろうか……)


 凄く良い人で美人で地位も持っているのに残念な人だなんて、サーラが歩いて行った方角に憐れむような視線を向けてしまう。


(……研一さんって、元の世界に居た頃から女の人の気持ちとか全然解ってなさそう)


 そんな研一の姿に。


 会話の邪魔をしたら駄目だろうと、ずっと研一の傍に居たけど黙って見ていたセンは、サーラへの同情のようなモノで悲しそうに顔を歪め――


(あのサーラとかいう女め! 御主人様に国を救って頂いた癖に、あの態度は何なのですか! 不敬過ぎるのです!)


 同じく隣で話を聞いていたマニュアルちゃんは、心の中だけで怒りを爆発させたのであった。

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