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憎まれ救世主 ~優しき青年が授かったのは、憎まれる程に強くなる力~  作者: お米うまい
第六章 届けられない乙女の想い

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第35話 悪意の刃は弱き者へ

「サーラ、大丈夫かな……」


 全ての魔族を蹴散らした研一は、帰路を急いでいた。


 魔族達を全員倒した事を伝えたい面もあったが、意識せず口に出てしまう程にサーラの容体が心配だったから。


(なんて、自己満足もいいところだよな……)


 ただ無事を知って自分が安心したいだけで、何かが出来るとも思ってないし。


 告白に関しては完全に聞かなかった事して有耶無耶にするか、返事を求められたら徹底的に憎まれるべく、罵詈雑言を浴びせる気さえある。


 それで心配しているなんて、どの口で言えるのかという気持ちに、自らを嘲笑うように口元が歪む。


(さて、どんな禄でもない言い訳であの国を出るべきか……)


 おまけに近い内に徹底的に嫌われて別の国へ旅立つ予定でもある。


 今回は何とか乗り切れたが、結局、スキルの特性を考えれば好かれている相手と一緒に過ごすのはリスクが高過ぎるからだ。


(旅に出る流れとしては、集めた女達を逃がすみたいな話をベッカから聞いているし、その件で怒って国から出るって方向性に持っていくとして、どうやって嫌われるかよだなあ……)


 自分が中途半端な甘さを見せたせいで、余計に多くの人を傷付けてしまったのは解っている。


 それでも――


 例えばサーラやベッカに暴力を働いたり猥褻な事をしてでも、恨まれ憎まれるなんて選択だけは、どうしたって取れなかった。


「え!?」


 国に近付いてきたところで驚くべき物を目にして、思考が強制的に中断される。


 あまりに想像していなかった景色に、見間違いじゃないかという思いに研一は己の目を擦り、再び視線を戻して――


 城が燃え上がり、煙が高々と上がっている光景を目にした。


(……落ち着け。炎の国って言うし、凱旋を祝う儀式か何かかもしれないだろ……)


 もしかしたら異世界特有の文化か何かで、別に焦るような事態ではないのかもしれない。


 誤魔化そうとしても溢れ続ける不安に後押しされるように、足を必死で動かして状況を確かめようと現場に急ぐ。


 ――魔族の別動隊が裏で国を襲っていたという可能性から、必死で目を逸らして。


「……何が、起きてる?」


 そこには想像していなかった光景が広がっていた。


 街は無事で建物が崩れているような様子はなく、魔族が侵入してきたような痕跡は見当たらない。


 かといって、魔族を撃退した救世主を迎え入れる人の群れだってない


 不気味な程に静まり返った街。


 そんな中で城だけが燃え上がり、煙を吹き続けていた。


「何が起きてる、ですって? そりゃあ好き勝手やってきたアンタには想像なんて出来ないでしょうね」


 事態を把握出来ない研一に声が掛かる。


 顔を向ければ街の入口には似付かわしくない、メイド服を来た女が一人佇んでいた。


 ――酷く疲れた様子で、服も普段に比べてどこか草臥れて見える。


(顔は知ってるんだけど――)


 いつも食事を持ってきてくれているメイド達の一人で、サーラに迫られて嘔吐した翌日に、即行で食事に毒を盛ってきた子だ。


(嫌われているからか、一度も名前を教えてもらった事ないんだよなあ……)


 それでも研一の中では、相当に好ましい人間として記憶に残っている。


 というのも自分が傷付けられた訳でもないのに、バレれば罰を受けると解っていながら迷わずに行動出来る意志の強さに密かに憧れていたからであり―― 


 日常生活の中で数多くのメイドと接してきたが、もしその中で一番好ましいメイドは誰かと聞かれれば、間違いなく挙げるのは目の前の子になるだろう。


 ――名前が解からないので、一時的に毒盛りメイドと呼称する。


「反乱よ。サーラ様が居ない隙を突いて、金とか自分の事にしか興味のない馬鹿共がフェットを脱獄させて担ぎ上げたのよ」


 研一がどう呼ぶべきか迷う中。


 毒盛りメイドの口から、研一達が魔族と戦っていた時に起きていた事が語られる。


 イカレタ救世主の言いなりになっているサーラに不満を持っていた者も居れば、逆に絶大な力を持つ研一に取り入りたい者達だって居る。


 一見すると正反対の主張を持ち相容れる事などない両陣営だが、たった一つだけ共通している事がある。


 どちらの陣営から見てもサーラが邪魔という事。


「なん、で。お姫様を……」


「アンタは知らないでしょうけどね。サーラ様は戦いの最中に集めた女達を逃がそうとしてたのよ。集める約束はしたけど、その後の事までは知らないって言ってね」


 ざまあみろとでも言いたげに、酷く嗜虐的な笑みを浮かべる毒盛りメイド。


 そこに敵意や憎悪の色はなく――


 出し抜いてやったという暗い愉悦だけが色濃く浮かんでいた。


「お姫様達は、無事なのか……」


 毒盛りメイドの悪意に興味はないし、サーラが女達を逃がそうとしてきた事だって知っていたから今更驚く事でもない。


 ただサーラが心配だった。


 また自分のせいで傷付けてしまったのか。


 それどころか治療もままならず、既に死んでしまっているのではないかと怖かった。


「はっ、アンタなんかに居場所を伝える訳ないでしょ。絶対安静の状態なのよ。弱ったサーラ様にまで情欲を向けるなんて、本当ゴミみたいな男ね」


 研一の言葉を毒盛りメイドは、魔族撃破の報酬として今からでもサーラを使って楽しもうとしていると想像したらしい。


 吐き捨てるように言葉をぶつけてくる。


(よかった。生きてるのか……)


 けれど、絶対安静という事は少なくとも生きている事だけは確実。


 それが解かり緊張が緩んで、思わず倒れ込みそうになる研一であったが――


 次に毒盛りメイドから掛けられた言葉に、頭の中が真っ白になる程の衝撃が突き抜ける。


「サーラ様の事より自分のお気に入りの心配でもしたら? アンタを排除するにも取り入るにしても、あれ程利用し甲斐がある相手なんて居ないでしょうが。全く、アンタなんかに目を付けられたばっかりに哀れにも程があるわ」


 恨みや憎しみの刃が本人に直接向けられるとは限らない。


 むしろ本人の力が強く手が出し難くなればなるほど、周囲の仲間にまで向いてしまうモノだと頭では解っていながら。


 それでもセンみたいな小さく愛らしい子に、そんな悪意の刃を向ける者なんて居ないだろうなんて。


 どこか無意識に甘えた考えをしてしまっていた事に、初めて気付かされて。


「あ、ちょっと――」


 いつの間にか研一は走り出していた。


 最後に何か声を掛けてきた毒盛りメイドを置き去りに。

 34話のリアクションありがとうございます。

 力を入れてたシーンの一つなので、とても嬉しいです。

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