第305話 子供殺しの犯人は?
「それじゃあ進みながらでいいから、ウチの話を聞いて」
少しは研一が落ち着いたと感じたのだろう。
メロディは先に立って罠を音魔法を使って看破しつつ、研一に語り掛けながら洞窟の奥へと進んでいく。
「多分だけどね、センちゃん達が、すぐにどうこうなるって可能性は凄く薄いんじゃないかってウチは思ってる」
「そう、なのか?」
「絶対とは言えないけどね。今だから言うけど、やみのんには、嘘というか他の人に聞かれるとマズいから隠してた事があって……」
メロディは僅かに言い難そうに口籠もるが。
それでも意を決したように、今まで伏せていた秘密を打ち明けていく。
「ポヨポヨビースト達はね、人なんて食べないの。それにこの間、やみのんを襲った時以外で人を襲った事なんてないんじゃないかって、ウチは思ってる」
ここに来てポヨポヨビーストが倒すべき魔獣ではないとでも示すような言葉。
だが、どうしても研一には信じられなかった。
「……俺を落ち着かせる為の気休めの嘘なら、止めてくれ。だってアイツ等、子どもを殺した事があるんだろ?」
研一からすれば、ポヨポヨビースト達がが襲ってきた姿しか知らないし。
メロディから聞いていた情報や今のセン達を攫って行った姿から考えても、どうしたって危険な魔獣にしか思えない。
「アレは他の人達が居たし、街の人間を連れ去られそうになったから、ああ言っただけ。そもそもアイツ等が本気でウチ等人間を食べる気なら、とっくにソヌスの国は全滅してるって」
「けど――」
「そもそもあの時のウチの話を、よく考えてみて。アイツ等が子どもの死体のすぐ傍に居たって言ったじゃん? 何で食べる事も巣に連れ帰る事もせず、アイツ等は子どもの周りに居たワケ?」
センを連れ去られた事で感情的になっていた研一だが。
言い聞かせるように告げられたメロディの言葉に、咄嗟に言い返さず思考を働かせていく。
「あの時は言う暇なかったけどさ。子どもを殺されたと思って激怒した警備兵が怒鳴り付けて攻撃したら、アイツ等すぐに逃げていったらしいの。もし自分達が食べる為に殺したんだとしら、自分達より遥かに弱い警備兵達に攻撃されたからって、獲物を置いて逃げると思う?」
「…………」
研一が答えを導き出すよりも早く、畳み掛けるようにメロディが言葉を紡ぐ。
ポヨポヨビースト達が倒すべき害獣だと言い切るには難しくなる内容で、研一は黙り込む事しか出来なくなった。
「やみのんには伝えてなかったから知らないだろうけどさ。そもそも子どもの件でアイツ等を危険視する声が大きくなったけど、元々はアイツ等とどうにか仲良くなれないかって声が多かったんだよね」
「それは見た目的に、あんまり敵っぽくなかったからか?」
「可愛いのもあるけどさ、それ以上に凄くウチ等に友好的だったの。ウチ等が別の魔獣に襲われてると助けに来てくれたりしてさ」
そこでメロディは、研一に足元に注意するように告げる。
床が飛び石のようになっており、簡単には進めないようになっていたのだが――
(落とし穴といい、これは何の為の罠なんだ?)
飛び石の高さが研一達の膝よりも低い上に、やはり床には柔らかい何かが敷き詰められている。
これなら飛び石なんか無視して、底面を歩けばいいだけだ。
「足場自体も怪我しないようにクッションで覆ってあるっぽい?」
おまけに飛び石に躓いたり、ぶつかったりしても怪我しないように加工されているらしい。
これじゃあ獣どころか、人間の子どもだって怪我をする方が難しいだろう。
「それで。じゃあ何でアイツ等を倒そうって話になったんだ?」
さすがに研一も、おかしいと思い始めてメロディの話の続きが気になってきた。
というのもポヨポヨビーストは、岩なんて軽々に砕く研一の拳を受けても傷一つ負わないくらい、衝撃には滅法強い。
それなのにここまで手間暇を掛けて、住処を安全に設計する必要がないのだから。
(というか、これはもしかして――)
何より、今までの罠のような物体に既視感を抱き始めていた。
もし研一の推測が正しいのなら、この一見すると侵入者を阻むように作られた罠だらけに見える場所の正体は――
「……子どもの死体があったって話、覚えてる?」
そこで思考を遮るように、深刻そうな声が響いてきて。
浮かんできた推測を一時的に頭の隅へと追いやり、研一はメロディの話に集中する。
「ああ。けどメロディさんは、犯人はあのポヨポヨ共じゃないって、思ってるんだよな?」
そして、話の流れやメロディの態度から予想して答えた。
センを攫われた事で動揺している研一を落ち着けようとしているには、あまりにもポヨポヨビースト達を庇い過ぎているし。
何より、研一自身も怪しく思い始めていた。
こんな場所を作る奴等が、人間の子どもを殺そうとするだろうか、と。
「……そう。ウチはアイツ等がやったんじゃないって思ってる」
「じゃあ何でそれを街の連中に伝えない? ちゃんと伝えてれば――」
ポヨポヨビースト達を街の人も必要以上に怖がる事もなく、今頃はメロディが望んでいたように共生出来ていたかもしれない。
わざわざ出向いてまで倒す必要だってなかっただろう。
「――だから」
そこでメロディは蚊の鳴くような声で何かを呟く。
大きい声で告げるには、その内容はあまりにも罪深過ぎた。
「今、なんて――」
小さい声だったから聞き間違えたのだと思い、研一が訊ね返す。
それ程までにメロディの言葉は信じたくなかった。
「多分、子どもを殺したのはミュジカだから」
けれど、さっきより大きな声で告げられたメロディの言葉は変わる事無く。
洞穴の中に響いて消えていった。
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