第303話 可愛いのは見た目だけ?
「相棒! そんなの駄目だ! 悲し過ぎるだろ!」
センに背負われているミュジカが叫び声を上げる。
どうもセンに見せられている研一との思い出がミュジカにとっては、相当に刺激されるものらしく、寝言とは思えないくらい、はっきりと叫ぶのだ。
「すみません、研一さん。まさかここまで効いちゃうなんて思わなくて――」
本来、センの夢魔法にここまで長時間の効果はない。
特にミュジカのように魔力の高い相手なら、一時間どころか五分も持たず破られてもおかしくないのだが――
(そんなに私と研一さんの思い出が、ミュジカには魅力的だったのかな……)
本人が夢の中に居たいと願うのならば、話は別。
ミュジカは相当に入れ込んでいるらしく、何度も何度も熱の入った叫びを上げるが、一向に目覚める様子がない。
――とはいえ、無理やり目覚めさせてしまうと、センが叩き込んだ魔力が変に残って、急に眠気に襲われたりする事があるらしく。
緊急でないのなら、打ち込んだ魔力が消費されるのを自然に待つのが一番いいので、こうして起きるのを待って背負って移動していた。
「ああ、相棒! 格好いいぞ!」
「これ、大丈夫です?」
再び放たれたミュジカの叫びに、研一は不安を覚えずには居られない。
というのも、現在はメロディに案内され、ポヨポヨビーストの巣に向かっている最中なのだ。
(にしても結構、メロディさん。足速いな……)
そんな中、研一が地味に驚いたのはメロディの移動速度だ。
おそらく何らかの魔法を使っているのだろうが馬よりも遥かに速く、下手な獣なら追い付けない程の速さだ。
――とはいえ、スキルの力で身体強化されている研一。
子どもの姿になっているとはいえ、絶大な力を持つ魔人であるセンならば、鼻歌交じりで追い付ける速さではあるのだが。
「大丈夫って何が?」
そこでメロディが先程の研一の言葉に話を戻す。
ミュジカの寝言が大き過ぎる件だ。
「ほら、こんなに騒いでたらあのポヨポヨ共、逃げません?」
「んー、多分大丈夫。ウチ等が多少騒いだからって、気にして逃げたりとかした事って今までないし」
だが、どうやら研一の気にし過ぎらしい。
街の前にも群れで来ていたし、警備隊に襲われても軽くあしらうだけで怒りもせず、柵の前で立ち止まっていた。
騒いだくらいでは、大した問題じゃないのだろう。
「ただ用心した方がいいかも。街の近くまでは偶に来るんだけど、あんな殺気立って襲い掛かってきた事も、街の人間を攫おうとしたのも初めてだったし……」
「そうなんですか?」
てっきり、いつもあんな勢いで襲ってくるのかと研一は思っていた。
だからこそ街に被害が出る前に、早く狩りに行った方がいいのかと思って急いで討伐に向かったのだが、どうやら普段は相当に大人しいらしい。
「そもそもウチ等ってアイツ等とマトモに戦った事ないからね。警備兵が薙ぎ倒されたのを見てたから解かったと思うけど、アイツ等からしたら、ウチ等の攻撃なんて、じゃれ付いてきてる程度にしか思われてないみたいでさ」
「でも食べる為に狩ってるんですよね?」
「……前に食べた時は、ュジカが死体を街に持ってきてくれただけ。群れ相手に決死の覚悟で挑んだら、この前みたいに気絶させられて終わりじゃない? 前に一体相手でも倒し切れずに逃げられたくらいだし」
ポヨポヨビーストと渡り合えるような戦力は、ソヌス国にはない。
それでも一体だけ歩いているのを見掛けた時は好機だとばかりに、メロディは警備兵を連れて倒そうとしたのだが――
はぐれのポヨポヨビーストは、メロディ達に反撃する事もせず、寂しそうに鳴いて去っていったのだ。
「それでウチ等も色んな意味で懲りたというか、危害とか加える気ないなら、下手に刺激せず放置しておこうかって話になってたんだけど――」
戦っても全く歯が立たない上に、メロディ達が殺す気で攻撃したにも関わらず、哀愁を漂わせて逃げていく姿を見せられると心が痛む。
凶作とはいえ、ミュジカが食糧を定期的に持ってきてくれるお陰で、幸いにも飢えて死ぬ者だって、まだ出ていない。
それならば、下手にポヨポヨビーストには手を出さない。
向こうから近寄って来るなら仕方ないが、刺激しないでおこうとソヌス国内で決まっていたのだが――
「あそこまで凶暴なトコ見せられた上に、人まで攫おうとしては放っておけないって訳ですか」
「そゆ事。ウチとしては前も言ったように、共生出来る道を探したかったんだけど、そうも言ってられなくなったってゆーか……」
もしポヨポヨビースト達が何かの拍子に、街に攻め込んで来たら、ソヌス国に出来る事は必死でミュジカに助けを求めに行く事だけ。
だが、おそらくミュジカの森から帰って来る頃には、ソヌス国は壊滅的な被害を受けているだろう。
「やみのんが居る、今くらいしかアイツ等を倒せる機会ってないじゃん? ほら、ミュジカだとアイツ等と仲良いからさ。倒すのに協力してなんて言えないし……」
「なるほど……」
見た目があまりに可愛くて無害そうに見えるから誤解し易いが、要は街を困らせるモンスターでしかないのだ。
手を出すには力が足りず、放置して安心するには隣人としては強過ぎる。
ならば救世主が来てくれた機会に、倒してもらおう。
それだけの話。
「あそこよ。アレがアイツ等の住処。反響の山」
「……なるほどね。これは少し、気合を入れた方がいいかもな」
そして、どうやら本当に研一はポヨポヨビーストという存在を見た目で侮り過ぎていたらしい。
(てっきり小さい森とか湖で、細々と平和に過ごしているもんだとばかり思ってたけど――)
下手すればミュジカの街からでも見えそうなくらいに巨大で険しそうな山。
そこの支配者こそがポヨポヨビースト達であり、ソヌス国周辺の生態系の頂点に君臨する最強の生物。
扱い的には物語に出てくるドラゴンと、本当に何も変わらない存在なのだと思い知り。
見た目で油断していけない、なんて研一は気を引き締めたのであった。
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