第234話 怒りのセレス
「プロディから離れて下さい!」
だが、プロディが暴走とも言えるような奉仕をしただけの甲斐はあったらしい。
もう我慢ならないとばかりにセレスは叫んだかと思うと、怒りに満ちた目で研一を睨み付けた。
「ああん、何だ? そっちから呼び出しておいて、随分な態度じゃねえか。何だ、俺様の力は必要ないってのか?」
「と、党首様。ここは怒りを抑えて――」
研一が悪党演技に徹し。
神官長は止めようと立ち塞がろうとするが、セレスは押し退けて前に出たかと思うと、いきなり服を脱ぎ捨てて叫んだ。
「わ、私が貴方の相手をします! だから、その方を離してあげて!」
勢いで服を脱ぐくらいまでは出来たのだろうが、それでも羞恥心は捨てられないのだろう。
セレスは顔を真っ赤にし、両手を使って必死に自分の胸や局部を隠す。
(けど、プロディさんを置いて逃げる事はしない、か……)
恥ずかしさだけでなく、恐怖や嫌悪だって相当にあるのは間違いない。
その証拠に研一の力が急速に増していくが、セレスは一歩も引こうとする事無く、研一を真っ直ぐに睨み付ける。
「おいおい。何でテメェがこの女の為にそこまでする。無関係どころか、テメェがこんな目に遭う原因と言ってもいい女じゃねえか」
「……それは、どういう事です? プロディさんを使って、貴方が我が国に魔族を仕向けたとでも言うのですか」
怒りを押し殺したような声で、セレスが口を開いた。
同時にセレスの身体から光が漏れ始め、今にも研一に襲い掛からんばかりに目に敵意が満ちていく。
「おいおい。さっきも言ったろ。俺は面倒臭え事が嫌いなんだよ。そんな回りくどい事なんてしねえよ」
「では、一体――」
「魔族ってのは自分達が持ってない魔法がある国を、優先的に襲う傾向があるって知らねえのか?」
「それくらい存じていますが……」
「じゃあ前までは高位の光魔法を使う奴が魔族にも居たが、この女と相打ちになって死んじまったって話の方か? 知らねえのは?」
「…………」
「そこまで言えばテメェでも解かるだろ? お前等の国が狙われる羽目になったのは、この女が自分の国に攻め込んできた魔族の大将をぶっ殺しちまったのが原因さ。お前等の国は、コイツ等の国が助かる為の代償だったって事だよ」
これはプロディから事前に聞かされた情報であった。
研一としてはプロディのせいでセレスティア国が魔族に襲われるなんて言い回しは、絶対にしたくなかったのだが――
プロディが、自分も研一と共に戦いたい。
研一と共に汚名に塗れられるなら、本望だとまで言われては、その心意気を無視する訳には、いかなかったのだ。
だが――
(さて、どう反応する?)
事実は置いといて。
対外的には、プロディは国を守る為に魔族軍の大将と相打ちになり――
そうして傷付き弱っていた所を救世主に襲われ、操り人形になったというような話になっている。
これでプロディを恨むような人間なら、そこまで本気で力を貸してやる必要なんてないだろうと、どこか冷めた心でセレスを観察していた研一だが――
どうやら要らない心配だったらしい。
「よくも……」
セレスは研一の言葉に、怒りで口が回らないといった様子で一言だけ口にすると。
堪忍袋の緒が切れたとばかりに、全身から魔力が吹き出るくらいに溢れさせ、研一に詰め寄り、力任せに胸ぐらを掴む。
「よくもそんな酷い事を考えられるものですね!」
もはやセレスに裸になっている事への羞恥も、研一に身体を汚される事への恐怖もない。
怒りが身体中を駆け巡り、それ以外は何も考えられなくなっていた。
「私だって魔族が失った光魔法を手に入れる為に、セレスティア国を狙っているくらい知ってます! けど、それのどこがプロディのせいだって言うんですか!」
「綺麗事言うなよ。心の中では、テメェだって、この女さえ居なければって――」
そこでバチン、という乾いた音が響いて研一は言葉を止めざるを得ない。
セレスが研一の頬を平手で叩いたのだ。
「黙って下さい! 彼女は自分の大事な人を守る為に、命を賭けて戦っただけでしょう! 彼女のお陰で、魔族の侵略から救われた国がある! 今も笑って過ごせる人が居る! それを悪だなんて、絶対に言わせません!」
研一にビンタをしても、セレスの怒りが収まる様子はない。
むしろ更に激しい業火となり、衝動の赴くまま、研一に言葉をぶつけ続ける。
「ま、待ちなさ――」
「止めないで、先生! こんな男には、誰かが、はっきり言ってやるべきなんです!」
あまりのセレスの剣幕に動けずにいた神官長が、慌ててセレスを研一から引き剥がそうと手を伸ばすが――
セレスは邪魔だとばかりに、魔力で神官長を弾き飛ばす。
――ただ攻撃魔法の類ではない結界とか防護壁のような力だったらしく、神官長は吹き飛んだだけで怪我はなかった。
「私を汚したいなら好きにすればいいです! 心を壊して操り人形にだってすればいい! そうしないと国を救ってもらえないと言うなら、この身くらい捧げてあげます!」
「は、何だよ。結局何だかんだ言って、俺に抱かれたいんじゃねえ――」
「ですが、私は絶対に貴方を認めません! 恐怖で言いなりになるしかない女か、壊れた操り人形しか傍に居ない、そんな孤独な人生が貴方には、お似合いです!」
そこまで言い切ったセレスは、研一からプロディを引き離すように力任せに引っ張ろうとするが、身体能力が違い過ぎてピクリとも動かない。
セレスティア一の戦闘力を持つセレスが、全力で引っ張っているのに、だ。
(腐っても救世主、という事ですか……)
非常に業腹ではあるけれど、やはり国を守るには、この男の力は必要なんだ、なんてセレスが思った時だった。
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