第233話 セレスの知らないプロディ
「……貴方様の噂は聞いております。強く美しい女性を好む、と」
神官長が言葉と共に一歩下がったかと思うと、セレスの背を軽く押した。
大した力ではなかったが不意の一撃に、たたらを踏むようにセレスが前に歩き出す。
「我が国の党首、セレスティア様です。この方が貴方様の望むまま、その無聊を慰めてくれる事でしょう……」
要するに救世主の清廉潔白なイメージを守る為に協力してくれるなら、セレスの身体を好き放題に弄んでもいい、という事だろう。
生贄とばかりに差し出されたセレスに、研一が視線を向ける。
「……救世主様。どうか私を好きにお使い下さい。ですから、何卒、他の者は、お目こぼし頂ければ――」
どうやら、セレスの方も内心は置いといて、この扱いを受け入れる気ではあるらしい。
一切の抵抗すら見せる事無く、被っていた頭巾を脱ぐと、研一に頭を下げた。
『研一様。セレスティアの修道女は、その身を捧げると決めた、唯一人の男性以外の前では頭巾を脱がないという風習があります。今は形骸化しており、実践出来ている者は、ほとんど居ないと聞いていますが――』
そこでセンがプロディと念話を繋いで伝えてきた言葉に、研一の心が痛む。
国の為とはいえ、初対面、しかも顔に出る程に嫌いな程の悪評を持ってるような男に、身を捧げる程の決意をさせてしまった事が辛くて。
だが――
「ふうん、イメージを守る為の道化になる為の報酬が、この女か。それじゃあ、ババア。魔族軍を追い払ったら、何をくれるってんだい?」
どの立場で心を痛めてやれるのか、という話だ。
研一に出来る事なんて、徹底的に恨まれて力を強くして、セレスティア国を魔族の手から守ってやるだけ。
自分でセレスを追い詰めておいて、同情して善人ぶるなんて許されないとばかりに、研一は悪党演技に力を入れていく。
「い、いえ。救世主様の評判を落とさないように過ごして頂きつつ、魔族との戦いに赴いてもらえればと――」
「ああん? 人に嘘八百の出鱈目を守る為だけに窮屈で面倒な事をさせた挙句、命懸けで戦えってのに、報酬が女一人だけ?」
神官長からすれば、事前に救世主の噂や動向を調べた上で苦渋の決断としてセレスを差し出したのだろう。
それなのに予想外に乗り気でない研一の態度に困惑しているようだが、研一は神官長の戸惑いを理解した上で、煽るように嘲笑う。
更に憎悪を集める為に。
「何だ、偉大な偉大なセレスティア国の党首様の身体は、国の人間達全員分の命と同じくらいの価値があるってかぁ? いやあ、随分と自己評価が高い事」
「くっ……
(どうして私が、こんな目に……)
研一の言葉にセレスが顔を赤くして俯く。
確かに神官長の言い分では、自分の体には、それだけの価値があると言っているのと変わらない。
図らずも自分が絶世の美女のように振る舞ってしまった事に気付かされ、セレスは恥ずかしさで逃げ出したくなるが、必死で耐える。
「……失礼しました、救世主様。それでは、どのような報酬をお望みでしょうか?」
神官長が堪えて下さいとばかりに、セレスを庇うように前に出た。
そして、研一の機嫌を損ねないように、努めて丁寧に要望を訊ねてきた。
「んー、魔族軍を追い払ってやるってだけなら、それで構わねえぜ。ただ俺は、面倒臭えなのが嫌いでなあ」
「と言うと?」
「俺が外に出て新しい女を漁りたくなる暇も無くなるくれぇ、そっちの女が俺を魔族軍が来るまで楽しませてくれよ。愚民共には、俺は魔族との戦いに向けて、瞑想でもして力を蓄えているとでも言っときゃいいだろ」
そこで会話中、ずっと研一に引っ付いていたプロディの腰を掴んで抱き寄せる。
「あ、研一様……」
どこか期待するような甘い声が、プロディの口から漏れた。
距離が近いのもあり、吐息が首筋に当たりゾワゾワとした何かを覚える研一だったが、これくらいの事は慣れているとばかりの態度で、気にしてない振りをして言葉を続けていく。
「ただなあ。そこの青臭い女が、コイツ等と同じくらい俺を楽しませてくれんのか?」
研一の言葉を、何かの前振りとでも思ったのか。
それとも、見せ付けるという口実を建前に迫るチャンスとでも思ったのか、プロディは研一の手を取って顔に近付けたかと思うと――
愛しい物にでも触れているように、恍惚とした表情で頬に当てる。
「そ、そんな。プロディ……」
あまりの光景に、セレスは口を抑えて悲痛の声を漏らしてしまった。
党首であるセレスは過去にマキの護衛をしているプロディと会った事がある。
その時はマキ以外には興味なんてないというような態度を隠しもしない、素っ気なくて怖い女性という印象を、セレスは抱いていた。
その記憶から考えれば、今のプロディの姿は、あまりに想定から掛け離れ過ぎていて。
やはり本当に心とやらを壊されて、操られているようにしか見えず、痛々しくて胸が締め付けられるような苦しさを覚える。
「あむ……」
それだけでもセレスからすれば衝撃的な光景だったというのに、更に事態は加速する。
プロディが自らの顔に当てていた研一の手に舌を這わせたかと思うと、丁寧に舐め始めたのだ。
セレスに見せ付けるように、研一の指の一本一本にプロディの舌が絡められていく。
「くっ……」
これ以上は見ていられないとばかりに、セレスは目を逸らしてしまう。
かつての素っ気なくも堂々たるプロディの姿を知る者からすれば、心を操られ、悪党の思うがままに奉仕させられている様は、見るに耐えないモノであった。
「ふふ、可愛い奴め……」
セレスが目を逸らす姿を見て、研一は慌てて悪党として振る舞い始める。
確かにセレスに何か見せ付けるような動きをしてくれたら有難いなとは思ったが、そこまでしてほしいとまでは、思っていない。
はっきり言って、やり過ぎだ。
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