第232話 セレスとの出会い
(これは、どういう意図だろう……)
転移魔法を使ってセレスティア国に入国した研一は、戸惑いを隠せない。
事前にテレレに連絡してもらい、到着の日取りは伝えていた。
その上で援軍要請に応じる形で来たのだから、出迎えが大量に居て歓迎されるか。
あるいは救世主の酷過ぎる噂を知っていて警戒しているなら、お偉方と護衛で溢れかえっていると予想しており、どちらにしても大人数に迎えられると思っていた。
(年配の女性と、シスターみたいな人しかいないんだけど?)
それなのに目の前に居るのは、二人だけ。
一人は神官服に身を包んだ女性で、低く見積もったとしても年齢は五十は過ぎているだろう。
だが、姿勢よく背筋が伸びているのもあり、老いという言葉は似合わない。
むしろ重ねた年の分だけ厚みのような存在感を生み出しており、風格のある人間とは、こういう相手の事を指すのだろうと感じさせる、威厳のような雰囲気を帯びていた。
そして――
(こっちの立派そうな人がセレスティア国の党首だとすれば、こっちの子は何だ?)
もう一人は研一と同じか、少し下くらいの二十歳より少し若い雰囲気の修道服を着た女性であった。
頭巾から覗く銀髪が印象的な女性だ。
年老いて艶を失った白髪とは明らかに違う、瑞々しくて光を反射して輝く銀の髪が目に鮮やかで、髪色と同じ銀色の瞳は宝石のようであり――
本来なら、西洋人形を思わせる美しくも愛らしい印象を相手に与えるのだろう。
(こりゃあまた、随分と嫌われてるもんだ……)
けれど、親の仇でも見るような目で睨まれると容姿が整っているだけに、迫力がある。
きっと真面目な性格で、自分の極悪非道の噂でも聞いて許せないだろうと思う研一であったが、それでも評価を僅かに下げざるを得ない。
(曲がりなりにも援軍で呼んだのは、そっちなんだから、せめて表面上だけでも良い顔してないと駄目だろう……)
この場に居る以上は国の代表として、最低限の建前くらい身に付けておかないと、色々と大変だろう、なんて研一が考えた時であった。
年配の方の女性が一歩前に出たかと思うと、研一に向かって恭しく頭を下げる。
「ようこそお越し下さいました、救世主様」
「……ようこそお越し下さいました、救世主様」
年配の女性に倣うように、女の子も不承不承といった態度で遅れて頭を下げた。
せめてもう少しだけでも、不信感は隠した方がいいと内心で思いつつ、気付いてない愚鈍で横暴な男の振りをして、研一は声を上げていく。
「おいおい、そっちから呼んでおいて、なんだ、この出迎えは? 偉大な偉大な救世主様を呼んでおいて、ババアとガキの出迎えしかねえとか、舐めてんのか、アアン?」
悪党の振りをして乱暴な物言いこそしているモノの、これ自体は本音に近い。
女好きの変態にして、魔族軍と一人で渡り合える怪物を迎え入れる布陣としては、あまりにも異質過ぎる。
「申し訳ありません、救世主様。我が国には特殊な事情がありましてで、お耳汚しになって大変恐縮ではあるのですが、暫し時間を頂けないでしょうか?」
「ああ、いいぜ。ただし俺様の貴重な時間を使うんだ。下らねえ話だったら、覚悟しておけよ」
内心では、そっちから事情を話してくれるなら有難いなんて思いつつ。
悪党らしく横暴な態度で続きを促していく。
「研一様。話を聞いているだけでは退屈でしょう……」
そこで研一と共に転移陣で来ており、今まで黙って後ろに控えていたプロディが研一の隣に歩み出たかと思うと――
身体の感触をお楽しみください、とでも言うように身体を押し付ける。
――センも背後に控えていたものの、表面上では冷静を装い、何の反応もしなかった。
「なっ! せんせ……神官長が説明しようとしているのに、何てふしだらな――」
「セレス様。退屈な話を聞かせてしまっている、こちらの落ち度です。お話を聞いて下さるだけ、感謝しなければなりません。どうか、お静かに……」
「くっ。申し訳ありません……」
「いいえ。党首様に身分を弁えない言葉、こちらこそ申し訳ありませんでした」
ある意味では外交の場と言ってもいい状況で、女を侍らかせている研一の方に明らかに問題があるのだが、どうやらセレスティア国では、それ程に救世主の力を必要としているらしい。
そして、もう一つ今の会話で解かった事がある。
(こっちのセレスって子の方が、立場だけなら偉いみたいだな……)
会話の進め方的にも雰囲気的にも、神官長と呼ばれている女性の方が党首と思っていたが、どうやらセレスの方が党首らしい。
同時に、単純な上下関係だけではない何かも、研一は感じていた。
「はっ、いいぜ。身の程知らずの馬鹿共なら、さっさと帰ってやろうって思ったが、そうして態度で示してくれるってんなら、俺も相応の扱いをしてやろうじゃねえか。ほら、さっさと話せよ」
とはいえ、二人の関係性については、後で追々調べていけばいい事。
今は出来るだけ早く、神官長の話を聞く為に続きを促していく。
――そうしないと、ここぞとばかりに首にキスをしたり、頬に手を当てたりしているプロディが際限なくエスカレートしていきそうだから。
「そ、それでは――」
想像していた以上に、プロディの研一への接触が激しかったのか。
チラチラと横目で見ながら、神官長はセレスティア国における救世主について、説明を始めていく。
(つまりセレスティア国での救世主は、信仰の対象になるくらいの聖人的な英雄で、その印象を壊されると困るって話か。いや、そんな事言われても困るんだけどな……)
神官長の話を聞いた研一は、どうしたものかと悩んでいた。
セレスティア国を狙っているという魔族軍の規模が、どの程度のモノか解からないが、それでも悪意を集めてない研一の力で、どうこうなる強さではないだろう。
だから評判なんて悪くなるに越した事はないのだが――
(それで、じゃあ俺の助けは必要ないなんて言われても、それはそれで困るんだよな……)
大衆に救世主と認知してもらうには、どうしたって国の偉い人間の後ろ盾は必須になるだろう。
もしセレス達を無視して、個人で救世主として横暴に振る舞った場合――
こんな悪党が救世主様の筈がない。
偽者だなんて言われて、多少の悪意は集まっても、それは精々が適当な事を喚いているだけの、詐欺師に対する侮蔑程度しか集まらない可能性がある。
(それなら一人に殺したいって思われるくらい、恨まれた方がマシなんだよな……)
不特定多数に小さく恨まれるよりは、一個人に大きく恨まれる方が、力が強くなる事は今までの経験で知っている。
幸いと言っていいのか。
セレスから飛んでくる悪意は、時間に比例するように急速に増しており、更に嫌われる事は簡単に見えた。
(とりあえずは一旦、受け入れとけばいいか……)
セレスの傍でセンやプロディと過ごしているだけで、ドンドン悪意は育つだろうし。
足りなければ清く正しい救世主として周囲に認識された後で、セレス達を裏切るように表立って悪行三昧に走って、評価を落とせばいい。
もはや慣れ切った感覚で、研一が悪巧みをした時だった。
面白かった、続きが見たい。
書籍化して絵が付いているところが見たい。
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