第230話 ハーレムラブコメだっけ?
「私は心を砕かれて言いなりになっている操り人形という設定ですからね。それこそ人目も気にせず、いつ如何なる時でも、研一様に御奉仕するのが、研一様の悪辣具合が伝わってよいと思うのですが――」
セレス達が救世主に対し、悲壮な決意を固めていた頃。
噂の研一は何をしていたかというと、拠点の中で今後の方針に付いて、センとプロディと話し合っていた。
「そんな事言って! プロディさんが研一さんとイチャ付きたいだけでしょ!」
「下種な勘繰りは、お止め下さい。私は研一様に大恩がある身。研一様の為に、この身を少しでも役に立てたいと思っての提案でございます」
「それじゃあ、周りに見せ付ける役、私がしたって問題ないじゃないですか! ずっと奴隷の演技をしている私の方が適任です!」
「ただの奴隷よりも、操り人形である私が奉仕しているという形の方が、悲壮感が強いとは思いませんか?」
とはいえ、話し合いは非常に難航していると言っていいだろう。
プロディは自分こそが、研一に無理やり従わされている可哀想な女に相応しいと主張し、センも慣れている自分の方が向いている、と一歩も譲らない。
「あの、二人共。仲良く話し合って――」
見かねた研一が、恐る恐る仲裁しようとするが、それは火に油を注ぐ事にしかならない。
何故ならば――
「誰のせいだと思っているんですか!」
「研一様が二人同時に密着されては身が持たないから、せめてどちらか一人にしてほしいなどと、仰るからでしょう!」
こうやって争いになっている理由が、研一がヘタレた事を言っているせいだからだ。
だが、研一にだって言い分はある。
(こんな美女二人に引っ付かれ続けて、耐えられる訳ないだろ!)
センは小さかった頃の愛らしさをそのまま残して、大きくなった可愛らしい女の子だし。
プロディは上品なメイド服に身を包みながらも、大人らしい色気を感じさせる美女である。
だが、それでも抱き着かれるだけなら、まだ研一も耐えられたかもしれない。
問題は二人揃うと、競い合って、どんどんアプローチがエスカレートしてくる事であった。
――ちなみに拠点の中で試しに予行練習済みだ。
(センちゃんは全身を押し付けて来たり、キスをせがんで来たりするし。プロディさんに関しては、俺の手を取って自分の服の中に入れて胸とか触らせようとしてくるし……)
そんな状態で悪党演技なんて、維持出来て数分が限度だろう。
十分も経たない内に照れやら何やらで、きっと誰の目にも解かるくらい顔が赤くなるのは火を見るよりも明らかで、無理して演技しているとバレてしまうだろう。
だから、研一としては何とか一人で勘弁してもらいたいトコなのだが――
「プロディさんが心を壊されているって情報が、まだ伝わってないかもしれないじゃないですか! それなら単にイチャ付いている二人にしか見えないです!」
「伝わってないなら周知すればいいだけの事でしょう」
やはり二人に引く気配はない。
どちらも自分こそが研一の隣に相応しいとばかりに、吼えるように言葉を重ねていく。
『ダーリン、ダーリン。聞こえるかしら?』
ここは自分が気合を入れるしかないのか、なんて研一が覚悟を決めようとした瞬間だった。
不意に研一の脳内に、この場には居ない女性の声が響いてきた。
『あ、聞こえてます。テレレさん』
これこそ研一が新しく目覚めた能力。
『配下であれば、どれだけ距離が離れていても会話出来る力』によって、遠方に居る相手から通信が来たのである。
――配下と認識される条件はイマイチ解かっておらず、研一自身の意志で、狙って特定の相手を配下に指定する事は、何度も試したが出来ていない。
『光の国セレスティアに魔族から宣戦布告があったらしいわ。援軍としてダーリンを探しているそうよ』
ちなみに通信相手は、先程研一が名前を口にしていたように、ドリュアス国の党首であるテレレだ。
ぶっきらぼうな物言いだし表情もあまり変わらないから冷たい印象を与えがちだが、心優しい女性であり、民衆からも慕われている人物なのだが――
ドリュアス国に滞在していた時、ちょっとした事情で恋人のような演技をする事になり、ダーリン呼びされていた過去がある。
『その、もうダーリン呼びとか無理にする必要はないと思うんですけど……』
とはいえ、もう恋人の演技をする必要は全くないし、そもそも念話で研一以外には聞こえていないのだから、演技する意味さえない筈だ。
『その、迷惑? 嫌なら止めるけれど……」
『別に迷惑とか止めてほしいって事では、ないんですが――』
だからこそ、テレレはダーリン呼びをしていた。
実はテレレは研一に恋心を抱いているものの、これが初めての恋だ。
演技していた頃は、周りに人が居ても見せ付けるくらいにイチャイチャ出来たが、本気で恋をした今となっては、誰かに自分の想いを知られる事さえ恥ずかしい。
それでも研一と徳部な関係で居たいという乙女心が、念話だけでもダーリン呼びしようと思った結果が今の状態であった。
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