第226話 幕を下ろす前に
「へえ、結構料理上手いんだな」
ミリティが研一の事を思い浮かべていた頃。
当の本人である研一はと言うと、家にも船にもなる拠点のリビングで食事を楽しんでいた。
「でしょ? ファブリスの料理をあの程度なんて思われたら困るからね。ちゃんとマトモな材料で作ってれば、それなりには美味しいんだから」
食べている料理は、リティアが作った物であり、かつてリティアの城で食べた物と見た目は大体同じ。
けれど、今度は肉もたっぷり脂が乗っているし、野菜だって新鮮でシャキシャキしているのもあり、以前に食べた味気ない料理とは別物であった。
「ただ名物料理や特産品になるような食材もないからね。ファブリスだけで食べられる絶品って程の物がないのは、勘弁してくれると嬉しいわ」
だが、リティアの言うように異世界特有の新鮮な味わいはない。
純粋に味だけを比べるなら、素材も設備も整っている日本の方が、良い物を食べる事が出来るだろう。
「勘弁って。こんな美味しい料理を出されて文句を言ったら罰が当たるよ」
だからと言って、不満なんてある訳がない。
十分に美味しい料理ではあるし、わざわざリティアが作ってくれただけで嬉しいくらいだ。
「あらそう? 結構料理美味しいって言い方だったし、何か物足りないのかと思ったんだけど、違ったかしら?」
(結構料理美味しい? そんな事言ったっけ? 確かさっきは結構料理うまいって――)
嫌味でもなく不思議そうに告げるリティアの姿に、研一は先程の自分の言葉を思い出す。
そして、すぐに失言に気付いて頭を下げた。
「ああ、ごめん。結構上手いってのは、料理そのものの味が結構美味しいって事じゃなくてさ。リティアって党首やってたのに、こんなにも料理出来たんだって思って……」
「ふふ、それはそれで割と失礼な言葉よ? ま、意外だって驚かれるくらい腕を認めてもらえたって事だし、怒らないであげる」
研一の言葉にリティアは嬉しそうに笑うと、それじゃあ片付けしてくるからなんて、付け加えて嬉しそうに、リビングを去っていく。
まるで付き合い始めの恋人か、新婚でも思わせる幸せそうな姿であったが――
それを気に入らないとばかりに、不満気に眺める視線が一つ。
「私だって、サラマンドラ国の調理器具さえあれば、ちゃんとした料理の一つや二つ……」
台所をリティアに奪われてしまったセンだ。
サラマンドラ国に居た頃にベッカから料理を習っていたものの、残念ながら家に備え付けられている調理器具がウンディーネ国の物しかない上に――
食材も見覚えのない物しか手に入らないとなると、もはやセンには台所を明け渡す以外の選択肢はなかったのだ。
――ちなみにファブリスに付くまでは調理の必要がほとんどない物を食べており、ファブリスに着いてからは酒場などでの食事が多かった為、今までは困ってなかった。
「……セン様。気持ちは解からなくもないですが、素材を炭に変えてしまった我々に、発言権などありません。ここは大人しく挽回の機会を待つのです」
「私は食材を炭になんてしてません! 一緒にしないで下さい!」
そんなセンをなだめるようにプロディが声を掛けるが、センの機嫌は直らない。
むしろ最低限、食べられる物自体は作れるのに、素材を焼き尽くす事しか出来ないプロディに仲間扱いされて、更に怒りを募らせる。
「……私だってマキ様の作った『全自動万能調理くん』さえあれば、多少見慣れない素材であろうと、遅れを取る事など――」
「それでも炭になる勢いで食材に電撃を放って焼こうとしたような人と、一緒には、されたくないです……」
「む、むう……」
さすがにプロディも、普通にやれば自分が一番料理技術が低い自覚はあるのだろう。
何も言い返せずに唸り声しか上げられないが――
「ほらほら、食事中に騒がないの。行儀悪いとコイツに嫌われちゃうわよ? デザート出してあげるから、機嫌直しなさいな」
そこで後片付けを終えたリティアが、別に用意しておいた皿を持って戻ってきた。
怒るでもなく穏やかな声で二人を窘めつつ、新しい皿を机に並べ、食べ終わった皿を回収して台所に戻っていく。
「…………」
ここで更に騒いでは、あまりに惨めというもの。
二人は圧倒的な程の敗北感を覚えつつ、それでも更に傷口を広げる訳にもいかないと、不満を抑えて黙り込む。
「あー、それで次の予定なんだけどさ……」
ようやく二人が落ち着いた事を察した研一が、満を持して言葉を投げ掛ける。
下手に女の争いに口を挟んでも、禄にならないと知っていたからこその、このタイミングだ。
「俺としては少し前に伝えたとおり、何か問題が起きていて、救世主の力を必要としている国が見付かるまで、動くのを待とうと思っているんだ」
これは三人に事前に説明していた事だ。
下手に新しい国に入って動き始めて頼りにされたところで、救世主という巨大な戦力が抜ければ問題があるし。
魔族達が救世主の命を狙っているという話もある。
それならば下手に動かず、窮地に陥っている国の情報が入るまで待とうという方針だ。
「異論はありません。今回の戦いで研一様が呼び出せる者とは、遠くに居ても連絡が取れる能力を得たと聞いております。その者達から連絡が届くのを待ちましょう」
「私も研一さんが決めたなら、それに着いていくだけです」
二人も文句はないとばかりに頷く。
こうして二人が些細な不満も忘れて、穏やかに食事が終わろうという、その瞬間だった。
「ねえ、一つ相談したい事があるの。今日の夜、アンタの部屋に邪魔してもいい?」
台所から戻ってきたリティアが どこか赤らんで見える照れた表情で。
そんな爆弾を叩き込んできたのであった。
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