第219話 リティアの願い
「あら、そう。じゃあ上の私が命令して上げるわ。さっさとこんな馬鹿な事、止めなさい! それでアンタ等は獣人達に、頭でも下げてきなさいよ! 都合の良い事ばっかり言ってすみませーんってね!」
随分と都合の良い事ばかり言う連中だと、リティアは心底思う。
国が背後にいると思っていた間は、意味もなくただストレス解消の捌け口に獣人達を好き放題に攻撃し。
獣人達の方が強いと見るや、自分達に攻撃する意志はなかった。
全部悪いのは国であり、トップであるリティアだけなんです、と言って許してもらう気なのだ。
「ほら、上の言葉には逆らえないんでしょ! さっさと言うとおりにしなさいよ!」
コイツ等は上に逆らえないんじゃない。
強そうな方に就いて、抵抗出来ない相手を甚振って、自分達が偉くなった気分になりたいだけなのだ。
「上だあ? もうテメェも時代は終わってんだよ」
「全くこの状態でよく、そんな身の程知らずな言葉吐けるわね。ああ、そんな頭だから、こんな状態になっているのね」
その証拠とばかりに、リティア側が弱いと見るや否や。
こうして徒党を組んで襲い掛かり、平気で口汚く喚き散らす。
(……獣人達が追い出された時にこうして私を襲いに来る気概見せてりゃさ、私だってこんな事、言いやしないわよ)
きっと、何を言ったところで会話になんてならないだろう。
だが、それで構わない。
どんな言葉も負け犬の遠吠えとして扱われるなら、その方が惨めで情けない悪徳党首としての名に、箔が付くだろうから。
「放せ! アンタ等何をしようとしているか解かってる! 私を殺せば、このファブリス国は、薄汚い獣人達に支配されてしまうのよ!」
処刑場に連れて来られたリディアは、ギロチン台によく似た処刑台。
そこに一体化している魔力封じの首輪を嵌められつつ、大声で喚き散らす。
(さて、誰にも見付かってないといいんだけど……)
騒ぎに紛れて自分を捕まえさせていた全身鎧は路地裏に移動させたから、誰の目にも止まらず動かなくなっている事を願いつつ。
リティアは覚悟を決めると同時に、自らの死に想いを馳せていく。
(これで借りは返したし、私の勝ち逃げって事でいいわよね、ミリティ?)
真っ先に思い浮かんだのは、親友であり好敵手だと思っていた大事な人の事。
ミリティは隠しているつもりだろうが、自分はミリティが自分を守る為に実の親達を殺した事を知っているのに。
ミリティは、自分の計画に何一つ気付いてなかった。
これはもう策略者としては、自分の圧勝だろうなんてリティアは、心中だけで笑い――
(でも、人としても女としても私の負けよね……)
ミリティには全てから救い出してくれる素敵な王子様が現れたのに。
自分には王子様どころか、共に戦う仲間の一人さえ居ない。
(あ、あれ。何で……)
覚悟は出来ていた筈なのに。
自分の目から涙が一筋、流れた。
かと思えば、それは止まる事無く溢れ続けていく。
「お、何だ。好き勝手やってきた党首様も自分が殺されるのは怖いか?」
「そうして惨めな顔を晒してくれた方が、獣人達にも良い土産になるってもんだぜ」
処刑用の斧が、暴動の主犯格だった男の手で振り上げられていく。
首を固定されているリティアに、その光景を見る事は出来ない。
だが、何となく感じる気配に己の死を確信した途端――
(ああ、そうか。だから私って、最後にアイツに会いに行ったのね……)
リティアは理解した。
いや、目を逸らして気付かない振りをしていた事を直視した。
自分も研一に救ってほしかった。
ミリティに向ける優しさを、自分にだって向けてほしかったという願いに。
(馬鹿ね。事情も言わず助けてとさえ伝えてないのに、救ってくれる人なんて居る筈ないじゃない……)
そうして誰にも自分の本心が知られず、消えていく事が悲しくて。
それでも今更誰にも伝える事なんて出来なくて。
無念の大きさを物語るように、リティアの目から涙が止まらず流れ続けていく。
その頃――
「間に合ってくれ!」
ようやく魔族軍を撃退した研一は、ミリティを置いて全力で掛けていた。
矢のような恐ろしい速さであり、きっと後五分もしない内に、リティアの元へと辿り着く事が出来るだろう。
「……」
その後を追うように、ミリティも走る。
呼吸すら惜しいとばかりに無言で、足が千切れても構わないと程の決意と共に、ただただ必死に足を動かした。
(……私の失敗だ!)
更にその後を、センが必死で追っていた。
心を読める自分が、リティアの策略に気付いてあげるべきだったと後悔に塗れて。
必死でリティアを救おうと、複数の者が駆ける中――
「それじゃあ、あばよ。無能な党首様!」
主犯格の男の斧が、リティアの首めがけて振り下ろされた。
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