第217話 孤独の果て
(本当、長かったわ)
そもそも最初の計画では、裏でファブリス国に伝わる宝『神器ファブリス』を獣人達に流し、宝を持っている獣人達こそが真に国を統治するに相応しいという流れに持っていき。
ミリティを党首にして、自分が補佐に回って終わりというのがリティアの予定だった。
(それが何でか魔族に渡ってて、あの宝剣を魔族との協力の証として獣人を通して譲渡したって話になってたのよね……)
はっきり言って、一番驚かされたのはリティアだろう。
訳の解からない内にそんな事になっていて、今更手違いですから剣を返してなんて魔族に言えば、それこそ虚仮にしていると思われて、すぐ攻め込まれても文句が言えない話だ。
そこで仕方なく全てリティアが計画したような演技をしつつ、獣人達と正規兵を城から逃がしたのだ。
このファブリス国の歴史に刻まれるであろう愚行に、マトモな者を加担させない為だけに。
(そこからも大変だったわね……)
そこまでの事態になっているのに、下手に有能な部分を見せれば、真面目な者を巻き込んでしまうかもしれない。
それならばとばかりに、権力を持った瞬間に豹変してしまった暴君を演じて、獣人達を罵倒し、それに同調するような心底どうしようもない馬鹿共を集める為の誘蛾灯となり。
いつまで経っても魔族の要望である獣人達の譲渡を達成出来ない、無能を演じ続けた。
(その隙にファブリス国なんて見限って、他の国にでも逃げてくれりゃ楽だったってのに、あの馬鹿はさあ……)
ミリティの力なら、どの国に行ったって引く手数多だろう。
残っている獣人達だって素直で勤勉な人達ばかりだし、どこの国に行ったって全員快く受け入れてもらえただろうに。
それでもミリティがファブリス国を諦めてくれないものだから、機会を待つしかなかった。
(下手に他国が軍を率いて押し寄せてきたら、折角の膠着状態が崩れて、焦った魔族が力でファブリス国を攻め落とそうでもしてたら、完全に終わりだったもの……)
出来れば単独で魔族達と渡り合える程の力を持っていて、ミリティ達に協力してくれる。
そんな都合の良い英雄が現れてくれないかなんて、物語に出てくる囚われのお姫様が、王子様が助けに来るのを夢見るように願いさえした。
(最初はこんな変態に頼るしかないのか、なんて絶望してたけどね……)
そんな中、たった一人で魔族軍と渡り合える救世主が現れたという噂が耳に入ってきた。
しかも、大変な女好きだという。
それならばミリティに協力してくれる可能性がある。
もうこの男に頼るしかないと縋るような想いで、サーラというお人好しで救世主が滞在している党首に情報が流れるように、リティアは裏で手を回した。
――ネットも電話もないこの世界で、海を挟んだ遠い国であるサラマンドラ国にファブリスの情報が届いた理由なんて。
転移陣を封鎖して情報を遮断していたリティアが、裏で手を回す以外にないのだから。
(ふふ。アイツも実は悪党の振りしてたって知った時は、ちょっと親近感湧いたわ)
城の中にはリティアの設置した鉱物が、あらゆる場所に設置されており、リティアさえ、その気になれば城内は覗き見し放題だし、会話は全て筒抜け。
(何も知らない時は、奴隷のセンの方が迫ってるじゃないって驚いたし、スキルの内容とかミリティに説明している時は、アンタも苦労してんのねなんて同情したりもしたっけ……)
それなのにミリティから言い出したとはいえ、ペッとして連れ歩き出した時は、頭おかしいんじゃないかって本気で思ったし。
連れ回されてミリティが泣きそうな顔しているってのに、ペット扱いが更に酷くなっていった時は、ぶっ殺してやろうかなんて考えてしまった。
(しかもミリティ、何かペット扱いに最後は悦び始めてたし。ったく、人の親友に変な性癖植え付けてんじゃないわよ……)
言いたい事なんて、山のようにある。
けれど、伝えたいけれど、絶対に伝えてはいけない言葉なんて、一つだけ。
(……ありがとう。アンタが来てくれたお陰で、全部何とかなった)
伝えたところで苦しませるだけだろうと思ったし、遠回しに言ってもし全てバレたら、間違いなく止めるだろうと解かっていた。
だから、リティアは何も伝えなかった。
(不思議よね。礼を伝える気なんてサラサラなかったし、ミリティを襲うような奴でもないって解かってたのに、何で私、最後に温泉に会いに行ったのかしら?)
裸なんて見せたって困らせるだけだろうに。
それでも会いに行った理由に気付かない振りをして。
そこでリティアは、意図的に目を背け、聞かないようにしていた外の様子に再び気を向ける。
(……終わったみたいね)
もう門を叩く衛兵達の声は、してこない。
その代わり、外からは民衆の怒号が響いてきている。
「早くあの糞領主を探せ!」
「アイツを磔にでもして俺達は違うって見せ付けないと、あの獣人達、魔族の次は俺達を殺し兼ねないからな!」
その糞領主の提案した獣人の生贄に、諸手を挙げて賛成していた者ほど、この暴動に積極的な事に、リティアは乾いた笑いを漏らす。
(もう本当に馬鹿しか残ってないのね。ミリティ達にその気があれば、とっくの昔に殺されてるっての……)
結局、コイツ等はミリティも、その仲間の事も何も理解していない。
相手が反撃してこないのをいい事に好き勝手迫害して気持ち良くなり、いざ事態が大きくなったら、自分達は悪くないと責任からは逃げ出す。
個人として考える頭なんてなく、大きい流れに乗っているだけの不特定多数の群れでしかないのだ。
(だからこそ、これだけはっきり獣人達の強さと魔族の恐怖を理解すれば、暫くは大丈夫でしょうね……)
きっと機嫌を損ねれば、獣人達の力が自分達に向くかもしれないなんて下らない被害妄想に怯え、ビクビクとご機嫌伺いしながら生きていくのだろう。
それで構わないと、リティアは思う。
少なくとも力もない人間が、デカイ顔しているよりは、よっぽど健全だろうから。
(私達は何も関係ないと、こんな時でも静観を決め込む者。罪の自覚があるからこそ、その正当化の為に暴れ回る者。どっちの方が罪深いのかしらね?)
そうやって達観したような事を考えて、リティアは身体の震えを抑え込む。
今更、死にたくないなんて許されない。
革命を締め括るには、トップの死体は必要不可欠なのだから。
(お望み通り、最後まで糞領主を演じてやるわよ……)
リティアは覚悟と共に、地下室を抜け出す。
出来れば下手になぶり殺しにされるより、見せしめに派手にしてくれていいから、斬首辺りでサックリ殺してほしいと願いながら。
面白かった、続きが見たい。
書籍化して絵が付いているところが見たい。
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