第215話 見捨てる理由はあっても、助ける義理はなくて
研一達が魔族の残党と戦い始めた頃。
敵を撃退したファブリス国には、異様な熱気が立ち込めていた。
というのも、魔族に襲われれば兵力の低いファブリスは一巻の終わり。
だから獣人達を差し出して、魔族の下に就く事で生き長らえるしかないと、リティアは国民に説明しており――
だからこそ、自分達が生き残る為に仕方ないだなんて言い訳して、ファブリス民は獣人達を犠牲にしようとしていたのだ。
「何が魔族とファブリスの兵力差は大きいだ! 獣人と兵士達だけで、十分戦えてるじゃないか!」
「偉そうな事ばかり言ってた衛兵達は、魔族が来るって解かった途端、全員逃げ出しやがるし、どうなってんだよ!」
ところが、いざ魔族軍の襲撃が始まれば、多くの者の予想に反して、ファブリスの兵力で一方的に撃退してしまったのである。
これは別に研一やリティアがファブリスの兵力を見誤っていた訳ではない。
実際、ウルスス率いる獣人部隊や元正規兵だけで戦っていれば、相当な劣勢を強いられていた筈だ。
(私の力を信じていたからこそ、研一さんは、私をこっちに配置したんだもの。だったら、もう守られるだけじゃない。頼れる所を見せないと!)
しかし、全員が忘れていた戦力がある。
それが今や党首級の魔力を持っているセンの存在だ。
「いや、凄いな、セン殿。敵の斥候どころか、兵の配置さえ、遠くに居ながら全て解かってしまうなんて……」
ウルススの言葉から解かるように。
センは心を読む能力を応用する事で、魔族軍の動きの流れのようなものを感じ取り、ファブリスに迫っていた魔族軍の配置どころか、進行ルートさえ街の中に居ながら全て把握してしまったのである。
はっきり言って戦場において、このセンの能力は、反則級の力と言っていい。
感心を通り越して、畏怖の声をウルススが上げるのも無理ない事だろう。
――ましてや、ウルススから見たセンの印象は、救世主である研一のお気に入りの奴隷でしかなかったのだ。
この予想外の活躍に、戸惑わない方がおかしいというモノ。
「さすがの魔族も行く先々に罠を仕掛けられ、至る所から奇襲されるとなると、一先ず撤退するしかなかったのだろうな……」
とはいえ、相当な優位性を得たとはいえ、戦力差を引っ繰り返せる程ではない。
もし本気で魔族軍がファブリスを蹂躙すべく、損害を無視して突っ込んできていたなら、とてもじゃないが今のファブリスの兵力では耐えられなかっただろうが――
「アイツ等の目的が、国の陥落でなくて助かったというところかな……」
そもそも魔族軍の今回の目的は、獣人達を襲って食べる事。
ゲリラ的な進軍であり、最初からファブリス国そのものを武力で落とす気なんて一切なく、隠れて移動していたのだ。
それなのに悉く獣人や正規兵達が先回りして待ち受けていたモノだから、何かがおかしいと感じて、用心して下がっただけ。
魔族軍自体は、ほとんど無傷で残っていたと言っても過言ではない。
むしろ本格的な襲撃に備え、気合を入れ直さなければいけない場面だろう。
「決して撃退したなんて誇れるような状況では、ないのだが――」
それを理解しているウルススは、次の襲撃に備えて、用心すべきだと思うのだが――
どうもファブリス民は、あまりにも呆気なく魔族軍が下がっていってしまった事で、もう勝敗は決まったものだと思っているらしい。
「こんな勇猛な獣人達を不当に扱った党首に、その身を以て責任を取らせるべきだ!」
「そうよ。あんな不当な扱いを受けていたってのに、国の窮地となれば、迷わず駆け付けて戦ってくれる! あの人達を追いやって、魔族なんかの提案を受け入れた党首の罪は万死に値するわ!」
「あの衛兵達もだ! 何がファブリスに薄汚い獣人は要らないだ。テメェ等の百万倍は、獣人さん達の方が頑張ってくれてるじゃねえかよ!」
自分達も消極的とはいえ、獣人達を生贄にする事に賛成していただろうに。
そんな事は忘れてしまったのか。
それとも、誰よりも本人達が自覚しているからこそ、全ての責任を押し付けようと必死になっているのか。
街のあちこちで、リティア達反獣人一派を処罰を下すべきだ、という声が響き渡る。
「ウルススさん? どうしやす?」
「アレなら俺達で黙らせてきますけど……」
そんな恥知らずとも言えるファブリス民の姿に。
呆れ交じりの声で元正規兵の男達、研一に酒場でミリティファンクラブなんて名付けられていた者達が、ウルススに指示を仰ぐ。
「……まあ、下手に邪魔されるよりは、そっちを向いてくれてる方がマシだ。ほっとけ」
武器もマトモに扱えなければ、戦闘用の魔法も使えない一般人なんて、下手に戦いに参加されても足手纏い以外の何者でもない。
それなら勝手にリティアや衛兵の吊るし上げでもしてくれた方が、邪魔にならなくていい、とウルススは無視する事にした。
本当なら、すぐそこに敵が居るのに内部での揉め事なんてしている場合か、と武力を使ってでも民衆を落ち着かせるのが最善だろう。
そんな事は、ウルススだって解かっては、いるのだが――
(悪いな、ミリティ。お前ならこの状況でもリティアを助けに行くんだろうが、私は、そこまで寛容には、なれないんだ……)
反獣人一派の行いは、腹に据えかねていた。
これで地位や立場をを失くそうが、死のうが自業自得だとウルススは切り捨てる。
「それより次の戦いの準備だ! どうやら救世主様とミリティが魔族軍とぶつかってるらしい。街の守りの部隊と挟み撃ちの為の突撃部隊に編成し直す。急げ!」
そして、魔族軍と戦っている研一達に加勢すべく。
素早く指示を飛ばし始める。
口だけの衛兵や大量の鎧を動かす程度しか出来ないリティアだけでは、暴動を起こした民衆を押し留める事なんて、出来はしないだろうという確信と共に。
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