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憎まれ救世主 ~優しき青年が授かったのは、憎まれる程に強くなる力~  作者: お米うまい
第四章 救世主の弱点

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第208話 最大の窮地

(そうか。コイツ等魔族は、今までの救世主を全員、討ち取って退けてきたんだ……)


 何も研一が初めての救世主という訳ではない。


 千年に近い時。


 幾度となく召喚され続けてきた救世主を倒してきたのが、魔族陣営なのだ。


「ただの御伽噺の存在であり、少し強い戦士が現れれば救世主だなんだと貴様等、人間は持て囃す。だから最初こそ無警戒でしたが、貴様が本物だと確信した以上、過去の伝承を紐解き、研究するのは当然の事でしょう?」


 そして、魔族から見た研一はゲームや物語で言うところの魔王のような存在。


 過去の文献を掘り返し、習性を確かめ、必死で対策する。


 そこまでしても倒せるか解からない化け物であり、倒せなければ魔族を滅ぼし尽くすだろうラスボスなのだ。


「勿論、私が貴様を倒せればそれが一番いいでしょう。ですが、倒せなくても、この戦いは全て観察している魔族によって、本拠地の魔族に流され続けている」


(センちゃんみたいな能力を持ってる奴が居るのか……)


「解かりますか? 今回は偶然、ファブリスの制圧に乗り出していた私達の部隊が相手する事になりましたが、これからは違います。もう貴様の顔も姿も割れた。次々と貴様を倒す為だけに部隊が送られるのです。もはや貴様に安息は訪れないと思いなさい!」


 魔族は、総力を挙げて研一を倒すのだと、アロガンスは声高々に宣言する。


 それこそが魔族の使命だと言わんばかりの決意と覚悟と共に。


「はっ、言いたい事はそれだけか?」


 けれど、研一はそんな魔族の意志なんて知った事かとばかりに、たった一言で吐き捨て無視すると――


 拳を構えて集中する。


(そっちから攻撃して来ないっていうなら、こっちにだって手はある……)


 このまま攻撃を続けていたのでは、何百発打ち込んだところでアロガンスには触れる事さえ出来ないだろう。


 だが、それはあくまで『このまま』の話なら、だ。


(身体能力を更に強化して、読みや技術じゃどうしようも出来ないくらい、速く動けるようになれば……)


 研一は意識を集中すると、普段は目を逸らしている自分を見詰め直していく。


 傷付いた恋人を支えるどころか、自殺に追い込む事しか出来ない心のない人間で。


 そんな自分の後悔を帳消しにする為だけに、異世界の住人全てを踏み躙るととか女神に宣言しておきながら、口ばっかりで何も出来ない――


 本当は異世界に来る事もなく、あのまま死んでおいた方がよかったゴミ。


 自分のせいで恋人を殺してしまったんだから、自分が生き返らせいといけないなんて責任感さえなければ、この世から消えてしまいたい程に嫌いだった筈なのに。


 センを救えた事が。


 あの子を笑顔に出来ている事が、誇らしくて堪らない。


(え?)


 静かな心で自分を見詰め直した研一は、愕然とする。


 本当は世界から消えてしまいたいくらいに自分の事なんか嫌いで、それでも恋人を蘇らせるまでは死ねないなんて責任感に支えられるようにして、生き長らえてただけだったのに。


 気が付けば、自分の事を嫌いじゃなくなっていた。


(いや、そんな……)


 傷付いた恋人を支えるどころか、自殺にまで追い込んだ自分なんかが、何をそんな頭お花畑みたいな事を考えられるんだ、と必死で否定しようとするが――


 その度に、センの気持ちを思い出してしまう。


 キスと同時に流れてきたセンの温かい想いを全て否定しまうような気がして、どうしても自分の事を嫌いだなんて思えなかった。


「ここです!」


 予想外の事態に、研一が呆然と立ち尽くした瞬間。


 今まで待ちに徹して研一からの攻撃を避けるだけだったアロガンスが、信じられない速度一で間合いを詰めたかと思うと――


 短剣を研一に突き刺すべく突撃してくる。


「くっ……」


 突然の事に慌てて飛び退いた研一だが、動揺を突いた完璧な不意討ち。


 避け切る事は出来ず、脇腹を大きく切り裂かれてしまう。


(なんだ、力が一気に抜けたような……)


 今までだって負傷した事はあった。


 けれど、今まで受けたどんな傷とも違う、何か大事なモノをごっそりと削られたような消失感が、研一の身体を苛んでいた。


「どうやらこの『神器ファブリス』は、攻撃を防ぐだけでなく、斬り付けた者の魔力を削り取る効果もあるようですね。貴様から漂っていた魔力の圧が、大きく薄れましたよ」


(くそう。まさか、ここまで追い詰められるなんて……)


 傷自体は深くはなく、ズキズキと痛む程度。


 だが、ごっそりと魔力を失っていた。


 おそらく今の研一の強さは、アロガンスを下回っているだろう。


「これは嬉しい誤算です。救世主の力は不安定で、急に弱体化する事があり、その瞬間が好機だと伝承で知り、その可能性に賭けて戦いを長引かせていたのですが、どうやらこのまま討ち取れそうですね」


 独り言のように呟いたアロガンスは、戦いに巻き込まれないように背後に控えていた部下達に視線を向ける。


 研一なんて、もはや警戒する必要もないとばかりに。


「部隊を二つに分けましょう。まだ獣人を喰らっていない者はファブリスに向かい、残っている獣人達を喰らいに行きなさい。我等がファブリスを侵略すると勘違いして、近隣に潜んでいる筈です」


 ファブリスを獣人達の力で治めるという約束ですからね。


 獣人の力無い魔族が統治に関わっては約定を違えたことになります、と付け加えると、アロガンスは更に指示を飛ばしていく。


「他の者は、ここに残りなさい。万が一、私に何かあれば救世主に止めを刺し、ミリティ嬢を捕らえるのです」


「解かりました、アロガンス部隊長」


 アロガンスの指示に従い、後ろに控えていた部隊が移動を始めていく。


 他の魔族軍の者も、もう研一なんて気にする必要もないとばかりに無視して、素早く移動を始める。

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