第207話 華麗なるアロガンス
「そんな。魔族との戦いが終わって、獣人達の地位を向上して居場所さえ作れば、居なくなった皆も戻ってくるって思って――」
ミリティの呟きに、研一は今更になって気付いた。
国の乗っ取りを企てていた年長者はミリティが始末したと聞いていたが、年長者に同調した若者達を所在を一切知らなかった事に。
(そうだよな。街にも野営地にも居ない時点で、疑問を持つべきだった……)
人間の下に就く事なんて許せず。
かといって、ミリティと共に人間と共存する為に動いていく事も出来ない。
その果てに魔族に頼った結果が、食べられて終わり。
「拙者もウルスス達も、待遇に不満なんてなかったでござるよ。これじゃあ何の為にリティアと袂を分かつ事になっても、拙者は獣人の地位の向上なんて目指したでござるか……」
目から涙を流して呆然とした様子で呟くミリティの声が、研一の心に痛い。
だが、その涙を拭う事も、抱き締めて泣き止ますような事もしない。
「くたばれ! このイカレ野郎!」
研一に出来るのは、目の前の相手をぶちのめしてやる事だ。
戦闘再開の合図もせず、奇襲めいた攻撃を仕掛けたかと思うと、当たるまで諦めてやらないとばかりに、絶え間なく執拗に攻撃を続けていく。
「ふふ、やはり伝承は真実だったようですね」
だが、気合を入れたからと言って急に強くなるなんて都合の良い話はない。
アロガンスは華麗に攻撃を交わしながら、予想通りだとばかりに確信めいた笑みを浮かべて、笑って説明を始める。
「救世主は異世界から来た、力を与えられただけの一般人。ただ力任せに乱暴に攻撃する事しか出来ず、落ち着いてよく観察し、準備さえ整えれば、決して対処出来ない相手ではありません!」
アロガンスの言うように元の世界での戦闘経験なんて、研一には確かにない。
とはいえ、世界が緩慢に見える上に、矢すら超える速度で動ける程の圧倒的な身体能力。
おまけに頭の中で動きを思い浮かべれば、まるでゲームキャラを操作するかのような感覚で己の身体を自在に動かす事さえ出来てしまう。
下手な戦闘訓練なんかで身に付く力なんて、軽く超えてしまう程の戦闘力を有している筈だ。
(これで攻撃が当たらないなんて事、あるか?)
一度や二度くらいなら、偶然避けられてしまっても、おかしくはない。
けれど、戦い始めてから何十発と殴り掛かり、離れては魔力を飛ばして追撃しているのに、全て避けられたり、防がれたりしているのだ。
実際に目の前で攻撃を避けられ続けているとはいえ、信じられない想いで研一はアロガンスに不審の目を向ける事しか出来ない。
「確かに戦闘訓練を受けてないとは思えない程、洗練された動きなのは認めてあげましょう。狙いも恐ろしい程に正確で、こちらの動きが止まって見えているのではないか、などと錯覚してしまう程です」
(そうだよ。本当にほとんど止まっているように視えてるってのに――)
攻撃を止めて、睨み付けるような勢いで観察を始める研一であったが――
そんな事をしても無駄だとばかりに、悠然と佇んでアロガンスは説明を始める。
「その戦闘力は脅威的。ですが、貴様の攻撃には幅がない。全く同じ動作で、全く同じ速度で突っ込んでくるだけ。いくら速くとも、来る場所とタイミングが解かり切っている攻撃なら、避けるくらいは出来るんですよ」
ゲームのように身体を動かす事が出来るとは、言い換えれば――
攻撃ボタンを押せば攻撃が出て、移動ボタンを押せば移動する程度の大まかな動きしか出来ていないという事である。
その結果、研一の動きは相当に限定された数パターンしかない。
おまけに戦い慣れしたアロガンスからすれば、視線や態度でどの攻撃をしてくるかまで丸解かりとなると――
「おっと。背後に回っても無駄ですよ」
アロガンスの目で追えない程の速度で背後に回り、一撃を加えるなんて奇抜な動きをしたつもりでも、予告してから攻撃しているのと、何も変わらない。
これでは一撃当てる事さえ至難だろう。
「その圧倒的な強さに騙され、力や数に任せて戦おうとする事こそ間違い! 貴様のような力に溺れているだけのケダモノの弱点。それこそ私のような流麗にして華麗な技で、力を受け流し、いなせるエレガントな戦士なのですよ!」
そこまで告げたアロガンスは、戦場に居るとは思えないような華麗な動きで踊り始めたかと思うと、鮮やかに決めポーズまで取ってみせた。
無論、研一も踊っている姿を馬鹿みたいに眺めていた訳でなく、チャンスとばかりに攻撃を仕掛けていたのだが――
(いや、なんであんなふざけた動きしてて、一発も当たらないんだよ……)
直撃はおろか、掠る手応えさない。
もはや攻撃は完全に見切られてしまっていると思った方が、いいだろう。
「こんなのが戦士とか笑わせてくれるぜ。単に反撃もマトモに出来ず、必死で逃げ回っているだけのヘタレじゃねえか」
このまま回避に徹され続けられると、いつまで経っても当たる気がしない。
それならばとばかりに、心理的に揺さぶり、アロガンスが攻撃に転じるように仕向けようとする研一であったが――
「そんな安い挑発に乗ると思われているとは、よくよく舐められているようですね」
怒りを覚えているような言葉とは裏腹に。
アロガンスは決して守りの姿勢を崩す事無く、研一の一挙手一投足を見詰め、次の攻撃に備えて動かない。
「物覚えの悪い貴様に、今度は噛み砕いて伝えてあげましょう。我々魔族の歴史にも、救世主の伝承は残っているのですよ。この意味が解りますか?」
「さてね。世界を救えなかった敗北者の過去に、興味なんてないんだ」
「救世主の倒し方、弱点を知っているという事ですよ」
先達に敬意を払えないとは、よくよくゴミのような性格ですね。
やはりファブリス民のようなウジ虫達に溢れた人類。それに見合ったゴミ屑が救世主に選ばれるのも当然の事でしたか。
なんて付け加えられたアロガンスの言葉が、研一の耳に遠い。
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